第34話

二月の半ばに入った寮も、三月を過ぎてしまった。


一時帰宅の四日間を除いても滞在22日目だ。

ここまで来ると俺達は『長期滞在コース』と教官にからかわれた。


同期で残っているのは、101では俺の他にザキ、早矢仕さん、クボの四人。

102では学とニシの二人だった。


俺と早矢仕さんと学は同じペースで進んでいて、その少し後にザキとニシ、だいぶ遅れてクボの順だった。

俺と早矢仕さんと学はその後順調で、後は三日後の卒業試験を受けるだけとなった。



俺は試験前に一度だけ実費で、練習の為に車に乗った。

教官は、一番好きな前野先生。


俺は前野先生に、敢えて場内の難しい所を選んで走りたい。とお願いした。

クランクに方向転換、縦列駐車にしても難易度の高い場所を選ばせてもらった。

試験までに完璧に仕上げたかったからだ。

そうしないと当日不安だから…。



そんな俺の様子をみて前野先生が


「キブ君がそんなに前向きに取り組むとは思わなかったら。キブ君は大丈夫ら」


と言ってくれた。

あとは卒検を待つのみ。





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話をクボに移そう。

この土壇場で、またも一大ミスを犯した。


寮生は、実地と学科が平行してスケジュールに組み込まれてる最初の五日間は忙しいが、それを過ぎれば毎日二回、計二時間だけ車に乗るだけで、あとはフリータイム。


それと、教官と仲良くなった早矢仕さんが毎日時間表を見せてもらっていたので、自分が何時と何時に乗るかスケジュールを把握出来た。


この日、俺は朝イチで一回。 早矢仕さんは朝から二連チャン。

そしてクボが朝イチのあとは最終の6時30分まで9時間半も空きとなっていた。


「これなら10時からずっと遊べんじゃん!  早矢仕さん」


「オウ!  どうだ、キー。T市駅まで出掛けてみっか?」



「スゲー!!」



何がスゲーかよく分からないが、俺は嬉しかった。

寮から駅まで行くには歩いて一時間かかる。

でも、この寮に来てからと言うもの、移動は全て徒歩だったので俺達は少し辛抱強くなった。


俺と早矢仕さんが計画を立てていると、またもやこの男が口をはさんできた。


「早っちゃん、ワシも行きたい!」


クボである。


「クボちゃん来んの? どうする?  キー」


「別にいいけど…、俺達駅まで走りますよ?」


「オウ!  ワシもマラソンには自信があるんじゃ!」


また法螺だ…。


こないだだって毎晩ターザン読みながら筋トレしてる早矢仕さんを見て

「ワシも筋トレしとるんよ」と言って披露したのが相撲の四股。

どすこーいどすこーい。

たった二回で筋肉つくか!



ま、そんなこんなで三人で遊びに出掛ける事になった。

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