第32話

101号室に入るなり、メガネ君は興奮気味に早口でまくし立てた。


「ヤバイよヤバイよ! ヤ◯ザがさぁ、あと30分以内にやったヤツ出さないと仲間連れてこの寮に攻めてくるってさ」



「ほんとか!?」



シゲが俺の方を振り向いて言ってきた。


「いや、ヤ◯ザじゃないでしょうアレは。地元のヤンキーだな」


それでほんとに攻めて来そうなのかを早矢仕さんに訊ねられたが、微妙と答えた。


「どうする?」



シゲは学に尋ねた。


学はしばらく考え込んでいた。

相手がヤ◯ザじゃないと分かった以上、地元八王子で暴れ回ってるとフイている学の事、今度こそ威勢のいい言葉が出てくると思ったが…。



「寮の鍵全部かっておけ。籠城戦だ」



ヤッパな…。


そんな気持ちが少ししたが、それが一番だなとも思った。

寮生は寮内で喧嘩を起こしたら強制退寮になっていた。

ましてや一階には日替わりで教官が寝泊まりする。

騒ぎを起こしたら直ちに発覚してしまう。


※(ただ、何故かこの日は教官が来るのが遅かったようで、宿直室には誰もいなかったらしい。)


学の号令一下、全員窓と言う窓、ドアと言うドアに鍵をして、臨戦体勢に入った。

そんな中、一人異様に興奮している人物がいた。


「及ばすながら、ボクも力になるよ!」


大学院勤務のエリート、雨貝さんだった。

雨貝さんはどっから持ってきたのか、消火器を抱えながら興奮気味に言った。


「ここへ来て二週間、今日ほど心躍る日はないよ。サァ、闘おう」



変なヤツ…。


かくして俺達は、ヤンキーの来襲を今か今かと待った。

しかし…。


約束の時間が過ぎ、それから一時間が経過してもヤンキーは現れなかった。

ハッタリか? 今夜はもう来ないかもな…。等とみんなは口々に言っていた。


少し緊張が解けたのか、伸びをする者、トイレに行く者等がいた。

そんな中、シゲが同じ部屋のパシリ、メガネ君にこう命令した。


「メガネザル。お前もう一回鍵かけてあるか見てこいよ」


頷いたメガネ君は部屋を出て、玄関の鍵を確かめた。

鍵がかかっている事を確認し戻ろうとするメガネ君の背後を、バイクのヘッドライトで照らす者がいた。


メガネ君が振り返ると、男はバイクのエンジンを停め、跨がっていたバイクから降り、玄関を激しくノックした。


怯えるメガネ。


だが、男は更に玄関のガラスドアをノックする。


「オイ、開けろよ!」


完全にビビるメガネ。しかし男は執拗にガラスのドアをノックした。


「開けろって! 入れねぇだろ」





兄貴だった。

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