第31話

二人組は、なかたや食堂の敷地に車を停め、表に立っていた。

辺りは薄暗くその場からは顔がよく判らなかったが、呼び止めた方の男はスポーツ刈り、ソイツの横で偉そうにふん反り返ってるのがパンチパーマの男だった。



声の感じから、俺より二つか三つしか違わない感じだった。


「え、俺達?」


俺はなるべく普通に振る舞った。

こんな時、動揺でもしてる素振りを見せたら相手が有利になるからだ。


明らかに舎弟分と分かるスポーツ刈りの男はこう言った。



「そうら。お前ら以外に誰もいねぇずら!」


そりゃそうだわな。

ソイツは俺とメガネ君に近づいて来てこう言った。


「この人はなぁ、前田さんと言って、俺の先輩…ヤ◯ザら!」


「ヤ◯ザら!」


パンチの男もそう言った。


(ウソずら!)



雰囲気ですぐ判った。

確かにエテ公ではあるがヤ◯ザ等ではない。ただの田舎ヤンキーだ。


だが、ここでイチイチ挑発に乗ると面倒になる。

直感、コイツらなら事を荒立てなくても巧く話せば済みそうだなと感じた。


上手く説明出来ないが、全身から漂う覇気と言うか、危険な薫りがしてこないのだ。


自称ヤ◯ザだと言うパンチの男が俺に訊いて来た。


「お前オレの車に傷つけたずら!」


「やってないよ?」


「しらばっくれんな! オメェずら!」


男はズボンのポケットに手を入れて凄んできた。



「ほんとにやってないよ? いつ車を傷つけられたか知らないけど、俺さっきここに来たばかりだから」



実際そうだったので、俺は淡々と答えた。

男はしばらく黙っていたが、



「お前の目は、やってない目ら。行ってよし」



と言った。


続けて男はメガネ君に近付き、俺の時と同じ事を訊いた。

だがメガネ君は完全に怯えきっており、やってませんの一言がどもりまくり。

お前は怪しいなと車の脇に引きずり込まれた。


頭だなんだ揉みくちゃにされたが殴られた様子はなく、何とかメガネ君の疑いも晴れた。

俺はメガネ君に、

「やってないんだから堂々とはしづめやに行こうぜ」

と言ったのだが、完全にビビったメガネ君は寮に帰ると走り出してしまった。


そのせいで、益々寮生が怪しまれてしまった。

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