第25話

阿倍野さんと圭ちゃんの二人が去り、ちょっぴりセンチな気分に浸っている俺の耳元に、またしてもあの男の声が届いた。


「腹減ったなぁ…、ホンマに腹減った。吉野家の牛丼腹一杯食べたいなあ…」



クボてある。



俺達は滞在16日を過ぎ、遂になかたやの食券が無効となってしまい兵糧攻めに遭っていた。

各々数千円の所持金しかなく、俺達はかなりひもじい食生活を送っていた。


ザキは百均の缶詰をまとめ買いし、早矢仕さんは大好きなコンデンスミルクを舐めていた。

そして俺はバターロール一袋で二日持たせて飢えを凌いでいた。


そんなだから大食漢のクボなんか上へ下への大騒ぎ。

まるでこの世の終わりのようなやかましさだった。


俺はその頃、クボの事を

「クボ」と本格的に呼び捨てにしていた。ハッキリ言って、俺はクボを舐めていた。


「おいクボ。 お前俺の事キライだろ!?」


こう俺が問うと


「ああ、大キライや!」


との返事。


すかさず俺も両手人差し指でアカンベをして、小指でブタのように鼻を持ち上げながら


「オレもキーライ」


とバカにした。

その稚拙なやり取りに早矢仕さんとザキは笑い転げていた。


笑いながらもザキは一応


「キブ、お前一応先輩なんだからやめとけよ」


と言ったが、


「カンケーねぇよこんなヤツ」


と俺はバカにするのをやめなかった。

そのうち俺はクボの物真似をするようになった。

部屋で飲み物を飲む時は


「アーッ!」


と叫んだり、クボの黒ぶちメガネを勝手に取り上げ自分でかけてはクボになりきって車を運転する仕草を真似た。


ハンドルを回しながらベッドにぶつけてぶっ倒れると言うくだらない真似だったが、早矢仕さん達は笑い転げた。

するとクボが俺からメガネを剥ぎ取り


「すな!」


と怒っていたが、俺も即座に「すな!」と真似するから、早矢仕さんとザキはきゃっこら笑っていた。


そんな四人での日を二日過ごした後、新たな寮生が二人入ってきた。

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