第23話

教習所の裏を流れる菅野川に沿って山の方に歩いていくとはしづめやがある。

辺りは民家もまばらで、夜ともなると周囲は星明かりだけで陵線も黒々としている。


その中でいつもはしづめやの自販機の灯りだけが漆黒の闇に浮かび上がっていた。



ここへ来て思ったのだが、星の数が東京とは比べものにならなくて、綺麗さを通り越してなんだか怖い位だった。


なんて話しは置いといて…。


俺と圭ちゃんははしづめやに着くと何の飲み物を買おうか自販機の前で悩んだ。

確か自販機は三、四台位あったと思う。



その中で俺は、左側が酒類、右側がソフトドリンクの混合した自販機に100円をいれた。


「おっとー、ビールかぁ!?」


圭ちゃんが茶化した。だが俺はビールではなく、その隣のソフトドリンクの方を買おうとしたのだ。


その飲み物の中に不思議な味の炭酸があって、東京では一度も見た事がない商品なのだが味がビールそっくり。

多少甘さはあるものの、メッコールみたいなベタベタな甘さでなく、ゼロコーラよりまだ甘味が少ない、麦芽を炭酸で割ったような不思議な飲み物だった。


それが何となくビールを彷彿とさせるので、俺はここに来る度買っていた。



「これ、なんちゃってビールなんだよ。飲んでみん?」


俺は圭ちゃんにジュースを渡した。

圭ちゃんは一口飲むと、

「あーあ、言われて見れば…」

と頷いた。


そのやり取りしか記憶にないのだが、圭ちゃんとの思い出と言うとその日の夜の事が真っ先に浮かぶ。





────────────────────────────────────────────────────────────────





同じく、阿倍野さんとも一緒に行動した事はなかった。


阿倍野さんは俺や早矢仕さんとは違いがり勉タイプでおとなしく年齢も離れていたし、ましてや俺の方が後輩なので、しょっちゅう話すと言う事はなかった。


修検に受かってから、一度阿倍野さんが横浜の自宅に一時帰宅した事があったのだが、その時阿倍野さんが言ってた言葉、

「町田駅の明かりが見えた時、ホッとしたよ」

ってのが、後日本当によく解った。


俺も一時帰宅した時、電車の窓から見慣れた地元の風景が目に飛び込んで来て、帰って来たなぁ…、と実感したから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る