第16話
その男は早矢仕さんのベッドの前に座ると、ベッドの下から何かを取り出した。
そしてそれを、あぐらをかいた足の上に乗せ、パカンとフタを開けた。
男が開けたのは、クッキーの缶…。
そして男は缶の中に手を入れてクッキーを食べ始めた。
暗闇の中目をこらして見ると、男は見慣れた顔だった。
(あーっ!)
クボだった。
クボは夜な夜な起きちゃ、みんなが寝静まった頃合いを見て、クッキーを盗み食いしてたのだった。
(何がいけしゃーしゃーと
『クッキー位で喧嘩すなや』だ! 自分が犯人だったんじゃねーか!)
部屋の中はまるで田んぼのカエルの鳴き声の如くみんなの鼾でうるさくて、クボのクッキーを食う音はかき消されていた。
クボは散々クッキーを食い散らかすと気が済んだのか、歯も磨かずにベッドに上がった。
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「ついに六枚になっちゃった…」
早矢仕さんが残念そうに呟いた。
翌朝、なかたやの朝食から戻ってきた時に早矢仕さんがベッドの下のクッキーを引っ張り出すと、中はもう殆ど残ってなかった。
「ちょうどいいや。一人一枚ずつ食おう」
そう言って早矢仕さんは、一人々々の前に缶を差し出し、クッキーを取らせた。
俺はその時は黙っていたが、クッキーを手にしたクボを見て、とても不愉快だった。
みんなご飯のお代わりも出来なきゃ間食も出来ない状況の中で、抜け駆けなどせずに我慢している。
盆暗のザキだって500ミリしか入ってない紙パックのいちごオレを買ってきても
「飲む?」って訊いてみんなに分けてる。
本当なら一人でゴクゴク飲んでも構わないのだが、そんなザキの気持ちを汲んでか、阿倍野さんや圭ちゃんは絶対にもらわなかった。
我慢する時はみんなで我慢、食べる時はみんなでシェアする。
いつの間にか家族のようになっていた俺達は、何でも分かち合うのが当然のような心理になっていた。
その中でこのクボの盗み食いである。
クボは手にしたクッキーをさっさと頬張るとうまそうに平らげた。
そして第二の事件を起こす事となる。
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