第14話
考えてみれば、こうしてみんなで席を囲んで話をしたのはこの時が初めてだったかも知れない。
何せ始めの五日間で30もの講習を受け、合間に車の運転もしていたのだから…。
その過密スケジュールの合間を縫って昼飯と夕飯を食べていたから全てが終わる頃にはクタクタで、風呂に浸かってさっさと寝るのがパターンだった。
お互い散発的に会話はしていたものの、みんなで話す事はなかったかも知れない。
俺達はジュースを飲み、お菓子を食べ、お互いの事を話した。
早矢仕さんに結婚を約束した彼女がいる事、
阿倍野さんが春から大学の校舎が遠くなる事、
圭ちゃんが専門学校に通う事、ザキの家が小さな町工場で、家業を継ぐ事…。
そして…。
「ワシはな、野球がンマいんよ!」
クボの話は誰も聞いてなかった。
クボはひとが話をしている時には全く聞いておらず、
ギャル曽根のように一心不乱にお菓子を食べ、
イナゴの大群のようにお菓子を食い尽くすと、
今度は話題に入ろうと一生懸命相槌を打っていたが、
相槌の後で必ず自分の話に持っていった。
「あー、あるある。よーあるわぁー、そーゆーハナシ。ワシの場合はな…」
と、こんな調子で話題の全てを自分に持っていくのだが、誰も聞いてなかった。
それでもクボは、一人延々と喋ってた。
ザキはそれに気づいたのか、俺の足をテーブルの下でつついてきた。
さりげなくザキの顔を見ると、ニヤニヤしていた。
その後はテーブルを下げ、圭ちゃんが持ってきていたトランプで大貧民大会。
いつもは自由時間を学科の勉強に充てる真面目な101のみんなが、この日は遅くまで盛り上がった。
お菓子とジュースとトランプしかない質素なものだったが、この日のパーチーはきっとみんなの心に残ったに違いない。
この日を境に、俺達は本当に仲良くなっていった。
そしてその夜、事件は起こった。
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