第10話

圭ちゃんに物真似を褒められ、上機嫌で風呂に行くと、脱衣場には一人の男がいた。


ソイツは102号室のヤツで、102号室には見るからにタチの悪い四人組がいた。


中でもその場に居合わせた男は明らかに四人組のリーダー格のヤツで、一番タチが悪そうだった。


確かその四人組も俺達と一緒の入寮だった。黙ってるのも何なので俺はソイツに話し掛けた。


「どこまで進んでんですか?」


ソイツは一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに


「まだ一段階」


とぶっきらぼうに答えた。


「そっちは?」


と言ってきたので、


「俺もまだ一段階スよ。前野先生だからいいですけどね。『そこセンターつけたら右曲がるだぞー』ってね」


俺はさっき圭ちゃんにやってウケた前野先生の物真似を始めた。

するとそのタチの悪い男は大笑いしてウケた。

それを見て俺は色んな先生の真似をした。

ソイツは満面の笑みを浮かべ、浴室の扉を開けるとこう叫んだ。



「オイ、西本(ニシ)、梅宮(ウメ)来いよ! おもしれぇヤツ居んぞー!」





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「はい、キー。宜しく」



俺はあの風呂場での物真似事件以来、一日が終わると、毎晩段ボール箱を早矢仕さんに持たされ、寮内の各部屋を回らされた。


そこで何をするかと言うと、例の教官達の物真似をして、ウケたら段ボール箱の中にお菓子をもらって帰る。

と言う営業をやらされていたのだ。


大して面白くはないのだが、娯楽がない寮では大いにウケた。

お陰で俺は寮生全員に名前を覚えてもらい、行く先々で、


「おうキブ。おはよう」


「キブ。新作は出来たか?」


等と声をかけてもらえるようになった。


特に二階の部屋は年上の人ばかりだったので、本来なら絡む事などなかったのだろうが、この営業がキッカケで多くの先輩達と仲良くなれた。

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