第9話
クボは汚い。
基本的には不潔だ。
風呂に入っても全く身体を洗わない。
たまにタオルを長く二つ折りにし、椅子に座ると鏡の前で足を持ち上げ、エッホ、エッホと股間を前後に通して洗っている。
が、石鹸は使ってない。
洗髪はお湯で流すのみ。
歯はいつも水道で人差し指を濡らしキュッキュと二、三度こするだけ。
極めつけはパジャマ代わりのトレーナーとスウェットで、一週間教習所に通っていた。
勿論部屋でもそのままで…。
洗濯する時も、ひとが洗濯機を回してる時に自分の衣服を放り込むか、他人の粉石鹸を勝手に使って洗うなどしていた。
不潔なだけではなく、こんな事もあった。
ザキが教習所から歩いて10分の所に在る、 はしづめ屋なる雑貨屋で、1つ100円の紙パックのいちごオレを買ってきて寮で飲んでいた。
するとクボが寄ってきて
「ザキやん、ンマそうなモン飲んどるな」
と言ってきた。
ザキはクボに
「クボさんも少し飲む?」
と訊くと
「飲む飲む」
とプラスチックのコップに一杯分けてもらっていた。
そしてグビグヒと音を立てて飲み干すと
「アーッ!」
と溜め息。
まるで青汁でも飲み干したような頑張った感を撒き散らした。
そしてここからがスゴい。
ザキが捨てた紙パックを拾ってくると、逆さにして最後の一滴を振って舐めていた。
「アーッ!」
日に日にクボの浅ましさが目につきはじめた。
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「ふーっ、今日も終わったー」
早矢仕さんが二段ベッドの真ん中の上の段で、伸びをした。
いつもはその下の段で寝ているのだがこの日は何故かクボのベッドの上に乗り、疲れた様子で横になっていた。
「早矢仕さん、あの年寄りの千村ってヤツ、陰気じゃないスか?」
こう言ったのは圭ちゃんだ。
「圭ちゃん悪りぃ、俺その教官じゃねぇんだよ」
俺は圭ちゃんと同じ教官だった。
「知ってるよ圭ちゃん、こんなヤツだろ?」
俺は千村の教習中の口振りを真似た。
「アハハ、そうそう。似てる似てる」
圭ちゃんは笑い転げた。
よく人から、「お前の物真似は似てないけど似ている」と微妙な評価をよく頂く。
俺は得意になった。
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