第2話
窓の景色を眺めていたら遅刻の事は一旦忘れた。
初めて乗るあずさ1号。
俺は電車の窓から外の景色を見るのが大好きだった。
仮に、本来の目的が旅行であったとしても、窓からの景色が一番の楽しみで…。
新宿から八王子を過ぎ、段々と景色も都会のビル群から長閑な田園風景へと変わっていった。
これが合宿免許でなかったらどんなに楽しい旅だろうか…。
俺は合宿免許の実態がよく分かっていなかった。
部屋は何人部屋で、広さはどれぐらいなんだろうか…。
寮生達とうまくやっていけるのだろうか…。
時間が経つにつれ、そんな事を考えていた。
電車はいつの間にかY県に入り、一時間少々でO駅に到着した。
そこから更に富士急行に乗り換え、O駅から五つ六つ先のT駅で降り、タクシーで教習所に向かった。
本来ならT駅には教習所の送迎バスが来る事になっていたのだが、遅刻した俺には送迎なんてありゃしない。
自腹を切ってのタクシー。
考えてみれば、初めて自分の金で乗ったタクシーだったかも知れない。
教習所へ向かう車中、運転士さんに時間を間違え遅刻してしまった事を告げると、「大丈夫じゃないですか?」と笑いながら言っていた。
他人事だと思って…。
10分程で教習所に到着。
運転士は「ここが寮なんだよ」と、教習所の真向かいにある合宿所の小さな駐車場に入り俺を降ろしてくれた。
俺は慌てて教習所の事務所に小走りで向かった。
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「君は一体何をやってるんだ!」
「すみません…」
「ここは遊びに来る場所じゃないんだ。免許を所得しに来る所なんだぞ!? 今後は二度とこの様な事のないように。全てにおいて時間厳守です!」
「はい…、すみませんでした…」
「取り敢えず合宿所を案内するから一緒に来なさい」
絞られた…。
予想通り俺はこってりと絞られた…。
俺はその説教をタレた、まだ20代のメガネをかけたインテリ風情の鶴川先生(仮名)と言う教官と合宿所に向かおうとした、その時だった。
「すんまへーん、ここでっか? 都留の教習所言うのは。ワシ、クボマサアキて言います。遅刻して、えろうすんまへん」
久保正明。
この男こそ、この物語の主人公なのである。
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