第4話 熊と少年

少年の木刀の一撃により熊を殺さず気絶させることに成功した。ユウトは「悪いが水を汲んで来てくれないか?」と少年に頼んだ。少年はユウトが持っていた竹で作られた水汲みを受け取り、鹿と一緒に川へ向かった。それからユウトは、熊を木のつるでリンゴの木に縛り付け、リンゴを食べながら熊が目を覚めるのを待つことにした。しばらくすると少年たちが帰ってきた。そしてユウトは「ありがとう。」と少年に言って水汲みを受け取り、木に縛りつけた熊を見ながら「この熊を殺してはダメな気がした」と少年に伝えた。少年は目を大きくし驚きの表情を隠すことはできなかった。そしてユウトは、少年の目を真っ直ぐ見て自分の考えを話し始めた。「この熊は確かに君のお父さんを殺した。だから、君はこの熊が憎いだろう。そして殺したいって気持ちを抱える、君の思いも理解できる。だけど、本当に殺していいのだろうか?それで君は本当に幸せになるのだろうか?そう、昨晩ゆっくり考えた時に一つアイデアが思い浮かんだ。…それは、この熊と更生した上で、また同じような悲劇が起きないように森を守る門番になってもらう。そのような形で、お父さんに対する償いとして働いてもらうのはどうだろうか?」と少年に提案した。少年の目からは涙が溢れていて、今にも流れそうだった。少年は涙を右腕で拭い、ユウトの提案に対して答える。「それで本当に父さんは報われるのかな?それが父さんに対しての正しい道なのかな?」少年は迷っているようだった。「今ここで熊を殺すのは簡単だよ。だけど、お父さんと君のように、この熊にも家族がいるかもしれないね。そして残された熊の家族たちは、今の君と同じような気持ちにきっとなるよね?僕はそれがとても悲しくてたまらないよ。」ユウトは自分の気持ちを交えて少年に語りかけた。その言葉が少年の心に響いたようで少年は「そうだよね、この熊にも家族や友達がいてそういった熊の仲間たちが、今の僕のように悲しんで憎しみを抱くことになるよね。僕、この熊と一緒に森を守ることにするよ。それで父さんみたいに森の動物と仲良くなってみんなに愛される存在になる。」と少年の曇っていた表情は、晴天の日の雲一つないようなすっきりした表情へと変わっていた。そして二人の目の前に、綺麗な光の粒が無数に降り注ぎ、一匹の蝶々のような生物が飛んでいた。少年は、目をぱちぱちしてその生物を眺めている。そして突然、こう叫ぶ。「妖精だ!」「あなたの提案を聞いておりました。とても素晴らしいアイデアだと思います。私が熊にあなたの言葉を伝え、熊の言葉をあなたに伝えるというお手伝いをして差し上げましょう。」と妖精はユウトに言った。それを聞いたユウトは「あっ!そっか!アニメの世界だと動物たちは人間の言葉を話して僕達人間も動物と話せるって思っていた!だけど、今実際に妖精とこうして話している僕って…」とパニックになってしまったユウト。「私のような妖精は人間に近い脳が発達した生き物なのです。普段は人間の前には現れることはなく、静かに暮らしているので人間がそのようなことを知るのも滅多にないので仕方のないことなのですが…しかし、今回の件であなたがこの森の為に決断した熊を森の番人にして森を守るという考えには感銘を受けました。そこで、私もそのお手伝いをしたいなと思い、こうしてあなた方の前に現れたのです。」と妖精はパニックになったユウトに丁寧に説明をし、ユウトは「そうか、まぁこうして話せている訳だし、とりあえずその事実は変わらないしそうゆうことだよな。」と言って目の前の現実をとりあえず受け止めた。そしてユウトと妖精の話が一段落終わった頃、熊は意識をようやく取り戻したようで、縄を解こうと体をもぞもぞさせている音が聞こえてきた。ユウトは熊に近づいて「攻撃して悪かった。攻撃する前に話を掛けようと思った。だけど、話を聞いてくれなかった時のリスクを考えるとこうするしかなかった。この少年のお父さんのことを覚えているか?」と熊に話しかけ、その言葉を妖精は熊に伝えた。妖精の話を聞いた熊は「あー覚えているよ。俺の食糧である魚をあの男は捕まえていたから、代わりに俺があいつを食ってやろうって思ってさ、だけど思ったよりやる男だったな。俺の右目を潰しやがった。だから俺もあの男を認めて魚を譲ることにした。だけど、あの日から来なくなったな、あの男。もう一度力比べをしたいぜ!」と話した。妖精がそう熊が言っていることを二人に伝えると、二人は少年のお父さんを認めていて、ポジティブな想いを持っていたことが分かった。ユウトは少年に話のバトンを渡し、少年は熊にあの日から今日までの流れを説明した。少年が話をしている途中から熊は泣き始めた。そして少年が話を終えると熊は「縄を解いてくれ。」と言い、少年はユウトの顔を伺い、ユウトは頷いて解く許可を出した。少年が縄を解くと熊は、両膝と両の掌を地面につけた後、「本当に申し訳ないことをした、ごめんなさい!!」と言いながら、頭を地面につけたのだった。そして少年は笑顔で「顔をあげて。」と熊に言い、顔をあげた熊と和解の握手をした。その光景を見たユウトは微笑んだ。それを見届けた妖精はユウトに「今日はありがとうございました。本当に熊を森の番人に出来るとは素晴らしいですね。あなた様は。また近いうちにあなた様をお伺いします。それではまたお会いしましょう。」そう言って妖精はユウトの前から姿を消した。一段落した時はもう昼過ぎで、ユウトも少年もお腹ぺこぺこだ。鹿はというと、リンゴを食べていたようで食べかけのリンゴを横に昼寝をしていた。ユウトたちはそれぞれ2,3個手に取り、鹿をほっといて少年の小屋へ向かった。家に到着すると、最初にユウトたちが向かった場所はもちろん少年のお父さんのお墓だった。熊は手元にあるリンゴを一つお墓に備えた。そして熊は「これからはこの少年と共に森の安全を守っていくことにした、そして少年をこれからは俺が鍛えてお前よりも強い男に育てるからゆっくりそこで休んでくれ。」と少年のお父さんに向かって宣言した。

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