第3話 熊退治

二人は少年が小屋の横に作った父のお墓に手を合わせていた。その墓は一人の少年が作ったとは思えないほど立派な墓で、お墓の周りには花が沢山添えられており、真ん中には木を重ね合わせた十字架が立てられていた。そしてユウトが少年に尋ねる。「熊を倒すって作戦とか考えてあるの?」少年は答える。「父さんが熊の右目を潰したって死ぬ前に言っていた。だから熊を見つけたら熊の右側に回り込んで死角に入って攻撃しようかなって考えていたけど、どうかな?」ユウトが少し考えてから少年に尋ねる。「弓と矢はあるかな?」少年は「すごく古いけど父さんが使っていた弓が家に置いてあるよ」と答えた。ユウトは「そうか、じゃぁ見せてくれ」と言って少年は家に入って弓をユウトに渡した。「なるほど、弦を張り替える必要がありそうだが、弓としては機能しそうだな。使ってもいいか?」と聞き「もちろん。俺にはこれがあるから。」と言いながら、木刀を前に突き出した。「そうだったな。弦になりそうなものは家にあるか?」と聞き「よかったら家の中上がってください」少年はユウトに勧めた。ユウトは「そうだな。そうさせてもらうよ」と言って二人は家の中に入った。矢もここに10本あります、そしてここに弓が置いてあったので多分ここら辺に…」と言いながら傍の引き出しの中を探り始めた。「弦の替えありましたよ。」と少年が喜びを交えた口調で大きな声でユウトに知らせる。「よかったぁ。これで何とか弓矢は使えそうだな」とユウトも顔から笑みがこぼれた。「じゃぁ早速弦の張り替えといくかぁ」そう言うとユウトは、弓と弦を持って部屋の壁にもたれ掛かるように座り、作業に取り掛かった。{弦の張り替え方は、まず弓の下側の先端を右足の甲に置き、弓の身体を左手で持ちます。この時、弓の内側が自分に向くようにします。次に弦の片方の輪を弓の上側の先端に掛けます。右手で弓の中央部を持ち、左膝を弓にかけてゆっくりと弓を曲げます。この動作で弓を安定させつつ、曲げます。そして、曲げた弓に対して、残りの弦の輪を下の先端に掛けます。この時、弓を過度に曲げないよう注意し、弦が正しく先端にはまっているか確認します。最後に、弦が適切に張られているか弓の形状が正しいかを確認します。弦の中心が弓の中心に合うように調整し、弦の張り具合をチェックします。}ユウトが張り替えを進めている中、少年の笑い声が微かに聞こえた。ユウトが窓に目を向けると、少年は付いてきた鹿の背中に乗って仲良く遊んでいた。ユウトはその状況を見て「そうか、鹿の背中に乗って移動もありだな。よし、あとで試してみよう」と思った。しかし、まずは弦の張り替えに努め、そして張り替えを終えた。ふと、弓道部で弦の張り替えをしていた時のことを思い出し、弓の弦の張り具合の確認も兼ねて矢を射っていた。そして少年はというと、夕飯のために鹿と釣りに出かけ、釣りを楽しんでいる。そうして、二人はそれぞれの時間を過ごしていた。ユウトは弦の調整が済み、部屋で少し昼寝をすることにした。ユウトが目を覚ました時少年は、2匹の魚を焼いて夕食の準備をし始めてくれた。「弦の交換終わったよ。何か手伝うことある?」と少年に聞く。「お疲れ様。ううん、大丈夫。少し休んでいて」と少年はユウトに気を遣うという大人のような一面を見せた。それにユウトは心の中で感動していた。そしてユウトは新鮮な空気を吸いに外に出た。そして家の裏の方に回ると少年が作ったお墓が目に入った。「あの少年が一人でこんなにも立派な物を作るとは…」なんだか良いような悲しいような複雑な想いをそのお墓はユウトに感じさせた。そして夜風がユウトの体を冷やし寒く感じ、ユウトが小屋に戻ろうとした時「そういえばあの鹿の姿が見えないなぁ」とユウトはふと思い、周りを見渡しても、鹿は小屋の周りには見えず、どこか食料を探しに森の中へと行ったのだろう。「まぁそのうち戻ってくるかな?さむっ!早く小屋に入ろう」と一人で呟きながら小屋に入って行った。魚は焼きあがっており、ユウトと少年は焼き魚にかぶりつく。二人で魚を食べていると少年は、死んだ父の話を聞かせてくれた。「父さんは森の動物たちに愛されていてすごく仲良くしていたよ。よく今日の僕のように鹿の背中に乗ったりして森の中を見て回ったり、他にも兎と一緒に散歩したり、猿と木登りしたり毎日楽しかったなぁ。そして森の動物たちはその人の人柄を見て懐くものだって言っていたよ。僕も森の動物たちと仲良くなれるかなぁ?」ユウトは笑顔で「きっと君なら森の動物たちとなれるよ、だって森の動物に愛されたお父さんの息子だろ」そして少年はどこか悲しげな顔から笑顔に変わって「父さんがここの森には妖精がいるって話をしてくれて、森の動物に愛された者の前に妖精は現れるって言っていたから見てみたいなぁ」ユウトはそれを聞いて「父さんを殺した熊を倒すこと以外、例えば和解って形でどうにか出来ないのかな?」と尋ねた。少年は「実は最近だと他の動物たちも熊の犠牲になっている。それでも和解はできるのかな?」と聞き返した。ユウトは「分からないけど、森の動物に愛されるのと熊を倒すことは愛されることに反している行為じゃないかな」といい、夜の少し冷たい空気を吸いに外に出ていった。そして、ユウトが小屋に戻った頃には少年は藁で出来た寝床でぐっすりと眠っていた。

太陽の光が小屋の木の隙間から差し込み、丁度少年の顔に当たり眩しそうな顔をして少年が目覚めた。そして外から微かに何か物音が聞こえ外に出てみると、そこにはユウトが50メートル程先にある目印を付けた木に向かって、矢を射って命中させるという練習をしていた。鹿がユウトの傍で休んでいる姿も目に入り少年が、ふっと口角を上げてにやける。またユウトが付けた目印には無数の矢の刺さった跡があり、ユウトは既に張り替えたての弓の弦の強度や、父の弓に慣れていることが分かった。ユウトが少年の姿に気が付き「おはよう。よく眠れたか?」と少年に尋ねた。「うん。いつもより少し長く寝ちゃった。」と少年は答えた。ユウトは笑いながら「たまにはそんな日もあるさ。俺も12時間寝ちゃう時もあったし…」そして、ユウトは少年に「腹減ってないか?」と聞き、「うん、お腹ぺっこぺこ~」と少年は言った。「昨日リンゴの木を見つけて今からそこに取りに行くけど、付いてくるか?」とさらに聞き、「いいね。僕も行きます」と答え、ユウトと少年と鹿はリンゴの木へと向かった。リンゴの木へと向かう道中、ユウトは鹿に乗りながらバランスを取る練習をしていた。少年は思い出したかのように「この鹿、すごくお兄ちゃんに懐いているみたいだけど、どうやって出会ったの?」とユウトに聞いた。「昨日リンゴを手に入れたあと、森を散策していたらコイツが水を飲んでいて、俺が持っているリンゴ欲しさに近づいてきた。その流れでリンゴを与えたら懐いたみたい、可愛いだろ?」と言って歩いているとリンゴの木が見えたが、そこにはでっかい熊が居て、右目には傷があるのが見えた。少年の体は突然震えだして「あいつだ!」と少年はユウトに言った。ユウトは「静かに君はここに居ろ、俺が向こう側で熊のもう片方の目を狙って矢を射る。そのあと君は、その木刀で頭を殴って気絶させてくれ」少年は、その作戦に対して頷いて応えた。そしてユウトは鹿に少年の傍にいるように手で指示をしてから移動した。ユウトは熊の左側の離れた木の陰に隠れ、そして熊の左目に向かって矢を放った。弓道部で全国区の実績もあり、左目が失明しないように計らった形の左瞼の上に命中させた。熊は痛みで暴れだし、少年は近づくことが出来ず木刀を思いきり熊の頭に向かって投げた。暴れている熊の腕に当たり、熊は少年の方へと走ってきた。少年と鹿は走って避けたが、足音で居場所が特定されてしまい熊が再び襲い掛かってくる。このままでは少年が危ない。ユウトは熊の左前足に向かって矢を放った。熊は走っていた勢いと左足に当たった矢の痛みで転倒した。そして、少年に「木刀を拾って、今の内に頭を思いっきり叩け!!」と言った。少年は木刀を拾い熊の頭に向かって木刀を思いっきり振り下ろした。

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