【断章】2
数カ月ぶりにリスイは自宅のベッドへと寝転んだ。ふんわりとお日様の香りが心地いい。
「なんやこれふっかふかやん」
普段は意図的に嗅覚を閉ざしていたが、そんな必要は無くなった。
ここにゴクタがいれば『普通の人間は意図的に感覚を切れへんのです、アニキ』なんて言っていただろう。
とはいえ世話焼きの弟分は今もせっせと
リスイ・リュートは東方系ギャング――登龍一家の若頭である。
とはいえ生まれも育ちも南部大陸なので本場の東方大陸の文化はあまり知らない。
ベッドの方が寝やすいからベッドで寝る。着流しの方が好きだから着流しを着る。ナイフと箸もその場に応じて使う。剣と魔法と銃ならその時一番殺りやすいものを手に取る。
使いたいものをその場に合わせて使うのが彼の流儀だ。
だから、今回もちょうどいい掃除屋を使ったのだ。
「ほんま広告センス無さ過ぎやろ」
ベッドサイドにはいくつかの書類。その中のひとつ【貴方の手足】改め【リテイナーズ・サービス】のチラシを眺める。
この広告は元々リスイの所属する登龍一家の事務所に入っていたものだ。
面白そうだから軽く調査をすると、クランを裏切ってギルドからも弾かれた問題児ときた。
冒険者コミュニティに所属出来なくなったものの闘うことしか能のない人間は裏社会へ活動の場を変えることが多い。
だからそのパターンだと思って依頼したのだ。
そうしたらまぁ、ただの戦力過剰な掃除屋が来ただけだった。
おかげさまで快適な家へと様変わり。本当に掃除したかった連中もさっくりと掃除してくれたのは多少仕組んだとはいえ怪我の巧妙に過ぎない。
(霹靂クンはともかくあの姉チャンもゴクタの居合を防ぎよったし)
くすんだ金髪のメイド服を着た女を思い出す。そこそこに整った容姿と崩れない微笑。
調査をした段階では、元冒険者として活動していたのは霹靂ことリャオ・ランだ。メイド服の女はオマケ。
噂どおりにハウスメイドの女が冒険者リャオ・ランをクランから引き抜いて別事業を立てたのだと思っていた。
男女間のあれそれの末に実力者を引き抜きはよくある話なもので、リャオ・ランとの距離感を見て間違いないと確信していのだ。
(
仕事柄リスイの敵は多い。一掃を考えるぐらいにはとてつもなく多い。
だから、あえて家を開けて掃除屋の二人を遠視魔法で監視していた。するとどうだ、リャオ・ランは身体強化を駆使して床を磨き上げていたし、メイド服の女は。
魔法をいくつも使いながら風呂掃除ときた。使用魔法は誰でも使えるものばかりで特別なのものは何もない。だが、恐ろしいほどに短縮し効率化されていた。
極めつけはゴクタの居合切りをモップひとつで防いだこと。
普段はリスイの元にいる弟分で世話係のゴクタ・エイトであるが、場合によっては
それもゴミを増やすな、なんて理由で。
登龍一家は義を通しカタギには手を出さない穏健派として名が通っているが、武力抗争は厭わない。
むしろ、先々代が東方から南部大陸に渡ってきた際に居場所を捻じ込む程度には武を備えている。
(それに人間をさらっと
子どもが可哀想だとリーテスは言ったがそれを誰が信じられるのか。
でも、要らないから捨てるのは可哀想などと彼女の言い分にはいくつか理解が出来るもので。日頃からゴミを貯め込んでいるのだから仕方がない。
(あのガキで手打ちにしたら今頃ゴクタも帰れとったのに)
絶賛、事後処理に追われている弟分を想う。
覚悟があろうがなかろうが関係ない。登龍一家の若頭を害そうとした時点で子どもは敵対勢力の
だからあえて避けなかったのに。ゴクタが動く前に子どもをリャオ・ランが取り抑え、ゴクタをリーテスが抑えた。
その後で面と向かって子どもの命乞いをされるとは思わなかったが。恩を売るのも悪くないだろう。そう考えて子どもを見逃した。
代わりに他の実行犯を連行したが、命までは取らないように言いつけている。リーテスの前で「これで手打ち」だと言った以上、リスイは律儀に守っているのだ。
ぺらり、と書類を捲る。そこに書かれていたのは掃除屋の身辺調査である。気にかかって、より詳細なものを調べさせたのだ。
「“
どうりでなんとなく小生意気さが抜けていない訳である。
東方大陸に居た頃の詳細な情報はないものの、ビョウ族についてなら調べがついている。年に一度、武闘会を開いて優勝したものが族長という風習を持つ一族だ。
南部に渡ってからは駆け出しの頃に大怪我を負って入院していたが、その後は
もう一枚書類を捲る。
「リーテス・イーナス、なぁ」
年齢は25歳。20歳の頃に
では、戦闘は?
彼女には5年より前の記録が全く残されていなかった。彼女の経歴を5年以上遡ることが出来なかったのだ。
記録上、突然現れて発足して間もなくメンバーも少ない
軽く話をした程度だと、墓地での清掃をしていたと話していたが――
「ま、ええか。今度直接聞いたら」
調査報告書をリスイはぐしゃぐしゃに丸めてその辺に放り投げようと――した腕を下ろし、ベッドサイドに設置されたゴミ箱へと紙玉を捨てた。
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