第26話 突然の訪問者

 ここは試作迷宮ダンジョン二号。ルーとラトリは小鬼ゴブリンの上位種、小鬼兵士ゴブリンソルジャーと対峙している。


 小鬼兵士ゴブリンソルジャーの槍での刺突の一撃をサイドステップで横に躱すルー。槍を引き戻そうとした小鬼兵士ゴブリンソルジャーをラトリの【黒い束縛ブラックレスト】が襲う。黒い靄が小鬼兵士ゴブリンソルジャーの腕、足を拘束する。

 身動きの取れなくなった小鬼兵士にルーが【光槍ライトスピア】を放つ。光の槍は小鬼兵士ゴブリンソルジャーの顔面を貫いた。


 僕は満足げに二人の戦闘を見守っていた。


ーーーーーーーーーーーー

ルー

種族:人族

階位:五

身体能力:

STR:D VIT:D AGI:C INT:C

神術:

技能:

アクティブ


パッシブ

光の始祖 槍術 料理

ーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーー

ラトリ

種族:人族

階位:五

身体能力:

STR:E VIT:E AGI:D INT:B

神術:

命 闇

技能:

アクティブ

並列思考

パッシブ

闇の始祖

ーーーーーーーーーーーー


 うん。鍛えすぎた?二人とも五階位まで成長してる。世界でも有数の強者になっていたりして。光と闇の神術もかなり使いこなせるようになってる。ルーの【槍術】と【光槍ライトスピア】の組み合わせはシナジーが凄まじい。

 ラトリの【並列思考】も壊れ技能スキルでその名のとおり、複数の神術を同時に行使したりする。色々なことをしながら同時に神術の練習なんて荒技なことしているせいか、INTの成長がすごいことになってる。


 ちょっとやりすぎた感に身体が震えてくるが、気にするのをやめよう。


「二人ともー。今日はそろそろやめにしよう!」


「はーい!」

「ん」


 僕たちは鍛錬を終了し、コテージに戻ることにした。



***



 『インスタントコテージver1』は丸太を組み合わせ自然の落ち着いた雰囲気を演出した傑作だ。2DK構造で風呂、トイレも完備している。


 僕たちはコテージに帰ってくると順番に風呂に入り、ダイニングのテーブル席で寛ぐ。ルーは早速と食事の準備に取り掛かってくれる。二人と一緒に暮らすようになってからルーが率先して食事を作ってくれるようになったのだ。いつの間にか技能スキルも覚え、最高の食事を提供してくれる。


 ちなみに二人からさん付けをしないでほしいと要望をもらってからは、ルー、ラトリと呼ぶようにしている。

 そんないつもの団欒を過ごしながら、そろそろ冒険者活動と旅の再開をと思った僕は話をすることにした。


「二人とも強くなったよねぇ」


「そうだね。ログさんのおかげで自信がついたよ」

「・・・」


「そろそろ冒険者活動を始めようかと思うんだけどどうかな?」


「うん。パーティ活動再開だね!」


「問題なし」


「じゃあ、明日から掲示板の依頼を受けていこう!」


「わかったよ!」

「ん」


 明日からは組合の依頼を積極的に受けていくことになった。僕はルーが淹れてくれた紅茶のカップを口に運びながら明日からどんな依頼を受けようか、ワクワクしながら思いをはせ、


「おーーう!ログいるかぁー?」

「あっっつ!」


 紅茶のカップを膝の上に落としてしまう。いやー、幻聴かな?幻聴だと言ってほしい。

 そんな僕の思考逃避も虚しく、勢いよくコテージの扉が開き放たれた。そこには目が眩むほどの金髪超絶美女が立っているではないか。


「いるじゃねーか!何で出迎えねーんだよ?」


「いやいや、呼びかけから扉開けるまでが早すぎるよね?」


「え?え?」


「??」


 ウォーラ様。武の女神の突然の来訪である。再会一番のセリフはやっぱり理不尽だった。ルーとラトリは突然の珍客に混乱中だ。


「そこは音速を超えて出迎える所だろうが。鍛錬が足りてねぇぞ」


「はいはい、ちょっと先に二人に紹介させてください」


 音速を超えろって何言ってんだこのひとは。いや、鍛錬すればいけるのか?ちょっと努力してみよう。


「二人とも、紹介するね。こちらは僕の師匠のウォーラ。ウォーラさん、彼女達は僕のパーティメンバーなんだ」


「は、初めまして!ログさんにお世話になってるルーといいます!」


「..ラトリ..です。よろしく..お願いします」


 あのラトリが敬語を使っている、だと!?どうしたんだ、一体。ラトリの様子に驚いているとウォーラ様が近づいてきて、耳打ちをしてきた。


「..こいつらにはまだお前や私達の事、話してないのか?」

「..はい。なので合わせてください」

「..わかった。私に任せておけ」


 サムズアップしながら了承するウォーラ様。さっきの紹介の仕方だけで察してくれるのはさすがだが、すげー不安。


「初めましてだな。私はウォーラ。こいつの師匠だ!!」


 ドーン!という音と共に仁王立ちで師匠アピールするウォーラ様。..神力が背中から滾ってる。普通、神力はそんな音出ないし、目に見えるほど滾んないんだってば。初手から不安が的中だよ。


「あわゎゎ」


「ふあぁぁ、すごい」


 あれ?予想外に強烈すぎて突っ込む余裕がない感じ?取り合えず、このまま席について落ち着いてもらおう。


「ウォーラさん、今ちょうどお茶をしていたところなんだ。こちらで座って話しましょう」


「おう」


 ウォーラ様が僕の正面に座り、ルーとラトリは僕を挟んで腰掛ける。ラトリが早速紅茶を空いたカップに注ぎ、ウォーラ様に差し出した。


「おう、ありがとな。・・お?うめーじゃねぇか」


「あ、ありがとうございます!」


 ルーの淹れた紅茶をお気に召したらしい。


「それで、ウォーラさん。一体どうしたの?突然」


「あん?特に理由なんてないぞ?暇だったから私も世界を旅しようと思ってな」


 いやいや、暇って。いや、でも世界を見て回るのは理に適ってるのか?実際僕も同じようなものだし。


「で、お前の顔でも見てやるかと思ってラビスに来たんだけどよ。適当に探しても全然見つかんねーのな」


「まあ、ここに籠ってましたからね。【念話】で呼んでくれればよかったのに」


「ばっか。それじゃあつまんねぇだろ?せっかく街に来たんだから楽しみながら探してたんだよ」


 なんか変な所、マメというか、楽しむところがあるんだよな。ウォーラ様。


「で、この前街でお前が迷宮ダンジョンで女達とイチャコラしてるって噂を聞いてよ。迷宮ダンジョンに当たりをつけて探したわけよ」


「言い方!いちゃついてないから。誤解を生むような言い方やめて」


「あん?ラヴィエにこの事、話してもいいんだぞ?きっと面白いことになるだろうなぁ?」


「それはマジで勘弁してください」


 ラヴィエ様はまずい。あの女神ひとには理路整然と丁寧に、順序よく説明しないといけない。勘違いで何が起こるかわからない。


「ラ、ラヴィエさん?って?」


「ん?ラヴィエか?こいつのことを気に入ってる女だ。まあ、こいつは私のなんだけどな」


「だから僕は物じゃないって昔も言ったでしょ?」


 まったく。このひとの所有物扱いは相変わらずだな。


「..お,お二人はログさんとお付き合いとかしてるんですか?」


「おう?お付き合いってなんだ?よくわかんねーけど可愛がってるぞ」


 あれで可愛がってるらしい。愛情表現が歪んでるぜ。神々は人とは少し違う感性で生きてるからなぁ。


「そ、そうなんですね!」


「・・・」


 そういえばさっきからラトリが黙ってるけどどうしたんだ?僕は様子が気になり、ラトリのほうを見てみると、


「・・・」


 じーっとどこか1点を見つめている。視線の先を確認するとそこにはテーブルの上に乗った、ウォーラ様の見事なお胸様。


「..すごい」


「あん?なんだ?お前もお胸教なのか?女なのに」


「どうすればそんなに大きくなれる..ますか?」


 まさかのラトリ、巨乳に憧れてる疑惑だよ。それでさっきから敬語なの?しかも宗教扱いされてるし。


「んー。ラトリって言ったか?お前はちょっと体が小さいな。いっぱい食べろ。そうすりゃ勝手に大きくなる」


「わかった..です!」


 そんなわけあるか..ラトリも眼をキラキラさせちゃってるじゃないか。


「面白いやつだな。よし、お前にもログと同じように私のお胸をガン見する権利をやろう」


「..ログさん?」


 おっと、飛び火。ルーのジト目が突き刺さって痛い。


「ルー、僕はね。お胸様を芸術だと思っているんだ。そこにやましい気持ちは一切無い!」


 ここはもう強引に駆け抜けるしかない。


「そ、そうなんだね。私は見られるのは恥ずかしいから遠慮してほしいかな」


 そう。これが普通の女性の反応だ。あの二神ふたりがおかしいだけなんだ。


「くくく。ルーよ。いい物持ってるのにお前はまだまだだな。精進しろ」


「が、がんばります?」


 頑張らなくていいんだよ。ウォーラ様のこの無自覚で場を掻き乱していく感じ、そんなに日は経ってないはずなのに懐かしさを感じるよ。


 そんなどうでもよい話も含めて他愛ない会話を楽しんでいると、僕に【念話】が入る。


『ログ!大変なのだ!』


 それはメーティの慌てた声だった。

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