第25話 光と闇と鍛錬狂い

 今日も昨日の鍛錬の流れを繰り返す。


『技能【槍術】を習得しました』

『階位が三階位に上がりました』


 『声』が私の成長を告げる。昨日からの積み重ねもあり、あっという間に技能を習得し、階位も上がったよ。思わず嬉しくなってしまったけど更なる狂気が私達を襲った。


「技能習得おめでとう!次は最初からルーさんが一人で仕掛けてみようか」


「え..」


「きみなら出来る」


 曇りなき眼で私を見つめながらそう言うログさん。決して美形ではないのに美形に見えてくる不思議。

 問答している内に次の幻影がフィールドの中央に現れる。もうお馴染みの犬頭鬼だ。幻影の姿を眼で捉えた瞬間、体が自然と身構える。

 単純に突っ込んでくる犬頭鬼に、私は刺突を繰り出した。


「ふっ!」


 何度も何度も繰り返してきた刺突は自分でも驚くほどの速さで繰り出され、犬頭鬼の心臓部を貫く。犬頭鬼は青白い粒子に変わっていった。


「お見事!それが槍術の力だよ」


「これが技能..」


「ルー、すごかった」


 技能、不思議な力で動きの無駄を補正されるような感覚。間違いなく今までで一番の刺突だった。


「さあ!次が来るよー!」


 ハッ!?そうだった。ちょっと呆けてしまっていたよ。もうログさんは抑えてくれないんだった。私は再度槍を構え、幻影の出現に備えた。


 ここからが本当の試練の始まりだった。


 幻影を突く。幻影を突く。幻影を突く。ラトリに癒される。また幻影を突く。

 休憩という名の拷問に耐える。そしてまた刺突を繰り出す…

 

 今日も、次の日も、また次の日も繰り返す。

 途中から安心を確信した私とラトリは孤児院に遠出の仕事と伝え、ログさんの家で寝泊まりしながら鍛錬に集中するようになった。


 幻影を倒すことがただの作業となった頃には私の心は無の境地に到達していた。ラトリの【治癒】も神がかったタイミング、速度で私を癒し続ける。唯一の楽しみは幻影を倒す度にログさんが投げかけてくれる豊富なバリエーションの掛け声。


「バッチリ決まった刺突、最高だね!」

「あの刺突、見てて気持ちいいね!」

「まるで芸術だよ、その刺突」

「絶妙な刺突、感動したよ!」

「マジでカッコいい!あの刺突には脱帽だね」


 刺突こそ至高。ログさんの言葉を思い出す。刺突さえあれば他には何もいらない。私は刺突を極めるのだ。


 そんな狂気の日々を過ごしていたある日、


『階位が四階位に上がりました』

『技能【光の因子】が技能【光の始祖】に進化しました。技能の進化により光の神術が行使可能になりました」


 『声』が階位の上昇と技能の進化を告げてきた。光の始祖?光の神術?謎の技能が更に謎の技能に進化し、私は自然と使える光の神術を理解した。


「ロ、ログさん、私、光の神術が使えるようになったみたい..」


「ん、私も闇の神術が使えるようになった」


 同じようにラトリも成長し、闇の神術なるものを使えるようになったみたい。


「二人とも、おめでとう!人族では初めての属性の魔術だね!」


 どこかこうなることがわかっていたような口ぶりのログさん。この人は本当に何者なんだろう。いつの間にか考えなくなっていたことを思い出す。


「次の幻影に試してみたらどう?」


 少し思いに耽っていると、そうログさんが問いかけてきた。


「そうだね!ちょっと試してみる!」


 私は早速と幻影の出現に備える。いつものように現れた幻影に掌をむけて、自然と思い浮かんだ神術名を唱える。


「【光弾】」


 トリガーワードを唱えると、掌から光の球が幻影に向かって打ち出された。まさに光のような速度で幻影の頭部に炸裂。爆ぜた。頭部を失った幻影はそのまま光の粒子に変わっていった。ちょっとえげつない威力に引く..


「素晴らしい..高密度の光の塊で物理的破壊が可能なのか」


 ログさんは腕を組みながら私の神術をそう褒めてくれる。なんか嬉しい。


「私も試したい」


 ラトリも神術を試したいみたい。攻撃できる神術を覚えたってことかな?

 再び出現した幻影にラトリが掌をむける。私と【光球】と同じ、闇の球が掌の前に作り出されていく。


「【闇球】」


 ラトリがトリガーワードを唱えると幻影に向かって【闇球】が打ち出される。人が物を思いっきり投げるくらいの速度で向かっていくが幻影は体を横にずらして躱されてしまう。

 幻影はラトリに襲い掛かろうと向かってくる。その時、ふとラトリの口角が上がっていることに気が付いた。なんと後ろに逸れた【闇球】が旋回し、後方から幻影の胴体に着弾。そのまま爆発を起こし、幻影の胴体部分を消失させた。

 胴体を失った幻影は光の粒子になっていくのだった。


「おおお!いま、ホーミングしたよね?かっこいい!」


 ラトリの神術を興奮した様子で褒めるログさんを見て、心がチクっと傷んだ気がした。ラトリの様子を伺ってみると嬉しそうにはにかんでいた。

 ..負けない。もっとすごい神術を覚えてログさんに褒めてもらおう。




 それからも私とラトリはひたすら鍛錬に明け暮れ、1ヶ月位が経過した。


 ログさんは途中から私達と幻影の戦闘にはほとんど関与せず、指示だけをくれる様になる。一人で神力を使った何かの鍛錬をしているようだった。

 偶にログさんは私達を青白く光る瞳で見つめてくることがあったがその度にぞくっとする不思議な感覚を覚えた。


 いまだに分からないことだらけの不思議な旅人ログさん。こんな私達に付き合い、鍛えてくれる優しくも狂った人。

 私は許される限り、この人の旅について行こうと決めた。

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