第23話 迷宮での鍛錬

 僕は今、二人との待ち合わせ場所である冒険者組合ギルドに向かっている。


 昨日のうちにラビスに戻り、適当な宿に一泊した。一泊1,500G、小鬼ゴブリンの鉄棒が一本当たり組合ギルドの手数料を引いても8,000Gだとすると冒険者はかなり稼げるということなのかな?屋台などを見ていると1食100〜200Gといった所だった。

 まあ、ここら辺は徐々に学んでいこうと思う。


 冒険者組合ギルドの前に着くとまだ二人は到着していないようだった。ちょっと待つことにしよう。

 待ちながら僕は今後のことを考える。僕はクレディオス様の思惑に乗ることにした。ルーさんとラトリさんを徹底的に鍛える。

 あの二人がどんな成長を見せてくれるのか、僕も興味が湧いたのだ。光と闇の神術がどんなものなのか、早くこの目で見てみたい(羨ましい)。


「ログさーん!おはよう!」

「..おはよ」


 考え事に耽っていると二人がやってきたようだ。


「おはよう!」


「今日はどうする?」


 期待の眼差しを向けてルーさんが早速といった具合に話しかけてきた。


「そうだなー。二人に確認したいんだけど…」


「うん?」

「・・・」


「強くなりたい?」


「え..」

「…」


 僕の急な問いかけに一瞬呆けた二人だが、すぐに真剣な顔つきになり、


「…なりたい。わたしを追い出したやつらを見返したい」

「..ん」


 しっかりと答えを返してくれた。


「よし!じゃあ改めて今日から僕が二人を徹底的に鍛える。覚悟してほしい」


「よ、よろしくお願いします!」

「お願いします」


 ルーさんとラトリさんはぺこりとお辞儀をする。よし、そうと決まればまずはこれを渡そう。僕はリュックから白いブレスレットを2つ取り出し、二人に渡す。


「なに?これ」

「?」


「これは神力の扱いを上達させるための道具だよ。今日から常にこれをつけながら迷宮ダンジョンでひたすら鍛錬をしよう」


 二人は僕の説明を聞きながらまじまじと受け取ったブレスレットを見ている。


「早速つけてみてほしい」


「う、うん」

「ん」


 二人は恐る恐るブレスレットに自分たちの手を通した。


「「あばばばばばば」」


 瞬間、二人は電撃を受けたように体を硬直させながらやばい声を漏らす。このブレスレットは体内の神力を強制的に循環させる。しっかりと神力のコントロールが出来ないとされるがままに神力が身体中を駆け巡るのだ。


「「ばばばふぁ」」


 意識が飛びそうなのか、そのまま二人はその場で倒れ込むように脱力。僕は慌てて二人の身体を支えて、ブレスレットを外す。

 こ、これは予想外だった。


「だ、大丈夫!?」


 ちょっと周りの人の目が集まってるぞ..これはやってしまった。昔、僕がはめた時もきつかったけどこうはならなかったから大丈夫と思い込んでしまっていた。反省である。


「うぅぅ。目が回る..」

「あぁぁぁぁぁ」


 二人はぐったりしているがちゃんと意識はあるな。ラトリさんは何かが口から抜けていっている。


「ごめん!ちょっと刺激が強すぎたみたいだ」


「い、今のは何?体の中の神力が掻き乱されたような..」


「ぁぁぁ..ハッ!」


 申し訳ねぇ。僕は二人に謝罪した。


「ちょっと張り切りすぎてしまった。ひとまず歩けそう?歩きながらちゃんと説明するよ」


「うん、もう大丈夫だけど..」


「..説明して」


 注目を集めてしまってるのでとりあえず迷宮に向けて移動することに。二人を少し不安にさせてしまった。そりゃそうだ。


 僕は改めて目的地へ向かいながらブレスレットについての説明をするのだった。



***



 試作迷宮二号。障害物も何もない半径50mの円形フィールドと入り口付近にセーフティエリアを設けたのみの迷宮ダンジョンだ。ここは幻影ファントムの能力テストや調整を超効率的に行うために某理不尽の化身がテチノロギス様にせがんで作ってもらった場所だ。


 僕はルーさんとラトリさんを効率的に鍛えるためにこの迷宮ダンジョンを利用することにした。ラビスを出て、街道を歩いてる途中にメーティへ【念話】し、適当な場所に入口を設置してもらったのだ。


「ここで二人の鍛錬を行うぞ」


「..ねぇ、ログさん。ここは何なの?」


「..組合ギルドの資料にない迷宮ダンジョン..」


 二人の僕への不審感は絶賛鰻登り中だ。こればかりは仕方ない。僕は早く二人の成長を見たいし、普通に鍛錬していたら二人の実力的にパーティで世界を回るのにどれだけの準備期間がかかってしまうかわからないのだ。ここは僕の我儘を通させてもらう。


「僕は旅人だからね。偶然見つけたんだ。この迷宮ダンジョンは鍛錬には最適だよ。このエリアしか存在しない上にボスもいない。出たければすぐ出れるし、このセーフティエリアにいれば幻影ファントムにも襲われない」


「..偶然ねぇ」

「・・・」


 二人からジト目を向けられる。無理があるよねぇ。ここまできたら結果で誤魔化しきるしかない。


「まあ、怪しいか。僕のことも含めて一度やってみてから判断してよ」


「..わかったよ。じゃあそうする」

「ん」


「ありがとう。じゃあ鍛錬について説明するよ。さっき渡したブレスレットについてはもう理解出来てるよね?」


「うん。これは体の中の神力の流れを強制的に動かすアイテムなんだよね?」


「そう。その流れを自分の意思で抑えられるようにすることで神力の扱い方が上手くなるんだ」


 迷宮ダンジョンに到着するまでに説明した内容をルーさんはしっかりと理解している。


「次にこの迷宮ダンジョンはセーフティエリアを出ると幻影ファントムが1匹づつ出現する。倒しても次が出てくる。永遠とね」


「そんな迷宮ダンジョン聞いたこと..」


「ルー、ひとまずログの話を聞く」


 ルーさんが驚愕の表情になり、突っ込みを入れようとするが、ラトリさんが宥めてくれた。


幻影ファントムを倒して、階位を上げる。疲れたらセーフティエリアで休憩しながらブレスレットを装備して神力のコントロールの鍛錬をする。まずはこれを繰り返そう」


「..確かに効率的。ログの話が本当なら」


「そ、そうだね」


 無理やりだけどやってもらえそうだ。


「よし。じゃあ早速始めよう!」


 僕は先導してセーフティエリアから出る。するとフィールドの中心に神力が集まり、二足歩行の犬、『犬頭鬼コボルト』が出現した。

 僕はブロードソードを右手に構え、待ち受ける。こいつは小鬼ゴブリンと大差ない実力だが俊敏性が高い。

 そこそこのスピードで僕に向かってきた犬頭鬼コボルトは鋭い爪を伸ばし、飛びかかってきた。

 冷静に剣で爪の一撃を受け止め、ルーさんに合図を送る。


「ルーさん!今!」


 昨日の連携をちゃんと覚えていたようですでにルーさんは動き出し、槍を両手で引き絞る体勢に入っていた。そのまま犬頭鬼コボルトの顔面に向かって刺突を繰り出す。


「ヤッ!」


 鋭く繰り出された刺突は犬頭鬼コボルトの顔を貫いた。一撃で絶命した犬頭鬼コボルトはそのまま青白い粒子となって散っていき、僕たち3人の身体に吸収されていく。犬頭鬼コボルトがいた場所には薬草がドロップしていた。

 ラトリさんは後ろで構えているだけだが近くにいることで吸収対象になるように神力の吸収の仕組みは調整されている。


「ふぅー」


「うん。昨日の感じを忘れてないみたいだな。いい一撃だったよ」


「あ、ありがとう」


 よし。とにかく今は二人に集中してもらおう。間髪入れずにまたフィールドの中央が光りだす。


「え?も、もう?」


「..こんなすぐに出てくる?」


「どんどんくるぞー!バシバシ行こう!」


 今度は小鬼ゴブリンの登場だ。今は小鬼ゴブリンと同レベル帯の幻影ファントムのみが出現するようにメーティが調整済みだ。


 さあ、ルーさん、ラトリさん、考えてる暇なんてないですよ!

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