第22話 神々の変化

 僕は今、先ほどまで探索していた草原タイプの迷宮ダンジョンに再度訪れ、ボスと対峙している。 


 目の前に迫り来る複数の火球を右へ左へと回避しながら前へ前へと疾走する。必死に神術を行使してくる小鬼魔術師ゴブリンメイジを剣の間合いに捕えた。

 左手の剣を横薙ぎに払い、神術を行使していた小鬼魔術師ゴブリンメイジの腕を切り落とし、続けて振りかぶっていた右手の剣を振り下ろす。

 頭から真っ二つに切られた小鬼魔術師ゴブリンメイジは、すぐさま青白い光の粒子に変わった。


 ボスを倒したことで迷宮核ダンジョンコアのある部屋へと通じる門が目の前の空間に出現。僕は門を潜り迷宮核ダンジョンコアの前で立ち止まる。


『あー、メーティ?聞こえる??僕をそっちに転送してほしいんだけど』


『お?ログ?何してるんだ?そんな所で』


 僕は【念話】を使ってある人物に話しかけた。


『深ーい事情があってさ。とりあえずお願いしていい?』


『わかったぞ!じゃあ核に触れてくれ』


 僕は言われた通り、迷宮核ダンジョンコアに触れる。

 瞬間、目の前が白く染まる。視界がはっきりしてくるとそこは神々の神殿にある迷宮管理室だった。


「ログ!どうしたのだ?」


 幼さの残る女の子の声が聞こえると同時に背中に衝撃を受けた。


「うご!?メーティ?いきなり飛びついてくるなよ」


 背中に飛びついてきた人物に振り返りながら話しかける。

 茶髪のボブカットでまだあどけなさの残る小さい美少女がログの背中に張り付いていた。


 彼女の名前はメーティ。なんとテチノロギス様とナレージュ様の娘だ。見た目の身長はテチノロギス様と同じくらいの小柄な体型。だけど美少女。お父さんに似なくてよかったね。


 メーティは15年前に生まれたので今は15歳。神、種族的には神族ということになるんだけど生まれた時は普通に赤ん坊だった。神は不老だが自分の求める姿になるまで体は普通に成長するらしい。神様から普通に神様が生まれるんだと当時は驚いたものだ。

 メーティは物心つく頃から一緒にいるからか、兄のように懐いてくれていて僕としても可愛くてしょうがない存在だ。


「今日も迷宮ダンジョン作ってるの?」


「もちろん!迷宮ダンジョン研究に終わりはないのだ!」


 さすがテチノロギス様とナレージュ様の娘。しっかりと技と知の叡智を受け継いでいる。いまはテチノロギス様に代わり、メーティに迷宮ダンジョンの管理を担当してもらっているのだ。


「クレディオス様、部屋にいるよね?」


「おじじか?いると思うぞ!」


 おじじ。メーティからするとクレディオス様はお爺ちゃんに当たるらしい。僕は微笑みながら「ありがとう」と伝え、クレディオス様の部屋に向かった。



***



「やあ、ログ君。さっきぶりだね」


「こんなすぐに戻ってくるとは思いませんでしたよ。で、教えてくれるんですよね?」


「うん?何をだい?」


 クレディオス様の部屋に訪れ、僕は早速二人のことを質問すると、すごい含みを見せた笑顔で惚けてきた。うーん、イラッとするぜ。


「ルーさんとラトリさんという人族の二人のことですよ。偶然にしてはおかしいでしょ」


「ふっふっふ。早速出会ったみたいだね」


「はいはい。出会いましたよ。それで?」


 こういう時のクレディオス様相手にはどんどん話を進めてしまったほうがよい。


「ちょっとぉー。もう少し乗ってきてよ。そういうとこクロニアみたいでつまんないなー」


「・・・」


「待って。【念話】でクロニア呼ぶのはやめて。ちゃんと説明するから」


 よし。これで話が進むぜ。


「..うおっほん。ボク達神々は良くも悪くも長い間、変わることはなかった。君がこの時代に来てくれたことでボクは悪い意味で停滞していたことに気づいたんだ」


 たしかに長い年月を生きる神々にとって何かが変化するきっかけはなかなかなかったのかもしれない。世界も平和だったし、変化の必要もなかったのだろう。


「君と『神々の恩恵』を準備していく中で神々はそれぞれいい意味で変わっていったんだよ。一番はメーティが誕生したことだね」


 クレディオス様がそれはもう嬉しそうな顔をしている。溺愛してるもんなぁ。


「メーティは君のいた未来では存在していなかった神。そうだよね?」


「はい、古文書には記録のない神様です」


「ボクは神々自身もどんどん変わっていくべきだと考えたんだ。そこで人族からも神になるものが現れて神の一柱に加わってもらう。そうすればまたボク達に大きな変化をもたらすだろう?君みたいにね」


「なるほど..クレディオス様の考えを理解しましたよ。僕も賛成・・」


「何より面白そうだ!」


「台無しだよ?それが本心ですね。ちょっとさすがクレディオス様と思った僕の敬意を返してくんない?」


 まったく、このひとは。こんなひとだから僕のアイディアを取り入れてくれたってところもあるから感謝しているけれども。


「それであの【光の因子】と【闇の因子】って何なんです?」


「あれかい?あれは光と闇の神術の才能さ」


「い、いつの間に新しい神術を!?」


「それ!その顔を待っていたよ!」


 満足げな顔でビシッと僕に向けて人差し指を向けるクレディオス様。この指、掴んで折っちゃダメですか?


「ふっふっふ。満足満足。所謂属性と言われる火や風、水や土の属性はあの子達に任せているけど光や闇とかまだまだ僕が司っているものは多いんだよ。この際だからどんどん他の者に任せようと思ってさ。試しにきっかけを人族に与えてみたんだ」


「ほ、ほう?」


「神の領域まで昇華するかは個人の努力次第。あの子達の場合はログ君次第というのもあるかな?」


「な、なるほど?」


 いまいちわかってないけど神の領域まで成長できる才能を持っているってことかな。


「神術については階位が上がると自ずと【声】があの子たちに教えてくれるはずだよ」


「まさか神術も作ってあったのは驚きました。確かに僕の神術案は皆さんに共有しましたけど。ちなみにクロニア様はまだ?」


「うん。さすがに『時』を神術化するのはまだ抵抗があるみたい。あれ、強力すぎるからね」


 クロニア様とは時の神術化について、何度かお話したことがある。確かに他の属性と比べて強力すぎるというのはわかる。僕が想像して作りたい術はどれも強力無比だ。多くの人族に与えるという部分に抵抗があるのだろう。


「まあ、クレディオス様には通じないみたいですけどね」


 一応、皮肉っておく。


「あのねぇ。ボクだって時を止められると結構大変なんだよ?」


「全然伝わりません」


 あなた、何事もなかったように動き出すじゃないか。


「くくく。ログ君は相変わらず遠慮がないね。まあ、そういうことだからあの子達のこと、お願いね。そのうち、ここにも一緒に遊びにおいで」


「衝撃で気絶しちゃいそうですけどね。わかりました」


 あの技能スキルにはちょっとした運命操作のような要素も含まれているんだろう。クレディオス様と話していると僕と出会うのが当たり前だったような印象を受ける。


「じゃあ、僕は戻りますね」


「承知したよ。世界を楽しんできて」


 そう言って僕はクレディオス様の部屋を退出しようとすると、


「あ、そうだ。ウォーラとラヴィエなんだけど..」


「ん?どうしました?」


「..いや。ログ君が元気にしてるか気にしてたよ」


「まだ一日も経ってないですけどね。今度、【念話】でお話ししておきますよ。ウォーラ様にも聞かなくちゃいけないことがあるので」


 あの二神ふたり、僕が旅に出るっていったらえらい騒いでたからなぁー。落ち着いたら連絡してみよう。

 僕はそう思いながら部屋を出ていくのだった。

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