第21話 仲間との初冒険

 ルーさんとラトリさんを連れて、駆け出し冒険者向けの迷宮ダンジョンへやってきた。草原をひたすら進んでいくタイプの迷宮ダンジョンだ。


「ここなら駆け出し冒険者でも比較的安全に探索出来る」


「ログさん、随分詳しいよね。街を出てからここまでも全く迷いがないというか」

「・・・」


 それはそうだよ。僕らが作ったんだから。でもラトリさんが観察モードに入っちゃったし、ちょっと軽率過ぎたか?


「そりゃあね。旅をしてて迷宮ダンジョンの場所は結構把握してるし、探索経験もあるからね」


「そうなんだ!それなら納得」

「・・・」


 ダンジョンに入り、今は視界一杯に広がる草原のフィールドを3人で隊列を組みながら進んでいる。


「僕がこのまま前衛でいいかね。ルーさんは中衛?」


 槍を手に持って構えながら歩くルーさんに振り返りながら問いかける。


「うん。私は中衛かな」


「了解。ラトリさんはヒーラーだから後衛だね?」


「ん。怪我したらすぐ治す」


 そんな会話を交わしていると前方の草むらから140cmくらいの人型の幻影ファントム小鬼ゴブリンが1体姿を現した。


「早速お出ましだね。ルーさん、僕が牽制をするから後ろから攻撃をお願い出来る?」


「う、うん..」


 あれ?さっきまで普通だったのに緊張が伝わる声色でそう応えを返してくるルーさん。かなり緊張しているようだが相手は待ってはくれない。


 僕は盾役に徹するべく、小鬼ゴブリンに向かって駆ける。

 小鬼ゴブリンはボロボロの鉄の棒を身構え、間合いに入った僕へ鉄棒を振り下ろす。剣で上手く鉄棒を受け止め、せめぎ合いに持ち込んだ。


「ルーさん!いまっっっとぉい!?」


 ルーさんへ合図をした瞬間、背中に何かが迫る気配を感じ、足へ神力を回して急ぎ跳躍。すると今僕がいた場所へ槍の切先がヒュッと通過した。

 槍の横薙ぎは小鬼ゴブリンには届いておらず、無傷。一瞬だけルーさんの方を見やり、僕は空中で剣を振り上げ、そのまま落下の勢いを使って小鬼ゴブリンの頭に一撃を叩き込んだ。


 顔を両断された小鬼ゴブリンはその場で崩れるように倒れ、青白い粒子に変わっていく。

 粒子は3人の身体へ均等に流れ込んでいく。小鬼ゴブリンがいた場所には鉄の棒が残されていた。


 僕は鉄の棒を拾い上げ、リュックの横に結わっておく。さてさて。


「ルーさんや」


「..はぃ」


 何を言われるのかわかっているのか、ルーさんは俯いてしまっている。ラトリさんは庇うようにルーさんの前に立った。


「責めるつもりじゃないから安心して?さっきのがパーティを追い出されちゃった原因かな?」


「…はぃ」

「・・・」


 まあ、いきなり仲間から攻撃されたら焦るよね。普通。


「目、瞑ってるでしょ」


 僕が空中で一瞬、ルーさんの様子を見たところ、攻撃中に目を瞑っていたのだ。我武者羅に槍を振ってしまっている感じ。


「..うぅ。幻影ファントムを前にしちゃうと怖くなっちゃって..」


「最初はそんなもんだよ。もしろ健全。ただ、冒険者を続けていくなら慣れないとね」


「..うん」


 うーん。追い出されたこともあって引きずってるね。これは。


「よし。じゃあ槍の使い方を教えるからとにかく慣れていこう。ちょっとそれ貸して?」


「え?ログさん、槍使えるの?」


「まあ、見ててよ」


 そういってルーさんから槍を受け取り、探索を再開する。

 少し進むとまた小鬼ゴブリンが僕たちの前に立ち塞がった。ここは基本、小鬼ゴブリンしか出ないので駆け出し冒険者向けなのだ。


「槍はね。無闇に振り回す必要はないんだ。刺突こそ至高」


 小鬼ゴブリンは鉄の棒を振りかざしてこちらに突進してくる。僕は両手で槍を持ち、どっしりと構える。小鬼ゴブリンが間合いに入った瞬間、小鬼ゴブリンの眉間を狙って刺突を繰り出す。


「シッ!」


 猛スピードで繰り出した刺突は小鬼ゴブリンの眉間に突き刺さり、威力で小鬼ゴブリンの身体を押し戻す。槍を引き戻すとその場に小鬼ゴブリンは倒れこみ、光の粒子に変わっていく。


「こんな感じ。刺突をしっかり練習すれば、中距離から敵を仕留められる」


 説明しながら振り返ると少し赤みかかった顔のルーさん。感動してくれたかな?


「刺突をひたすら練習しよう、ルーさん」


「..きれい..」


「ん?きれいかどうかはわからないけど昔、徹底的に扱かれたからね」


「師匠さんがいたんだね。いいなぁ」


 そうか。ルーさん、ラトリさんもだろうけどいままで誰からも戦闘訓練なんて受けてるわけないのか。組合ではそういうところのサポートはまだないのかな?登録の時の模擬戦とは一体?となってくるな。


「大丈夫!僕がパーティメンバーになったんだし、教えるよ」


「ほんと!?やった!」


 ルーさんは目をキラキラさせながら喜んでいる。


「ログ、私は?」


 おっと、ラトリさんも何かご所望らしい。


「ラトリさんは命の神術使いだからそれを教えてあげよう」


「ん!」


 あ、いま喜んだ。クロニア様みたいに無表情じゃないけどこの子も感情読みずらいんだよな。


「今日はこの辺を中心に回ってひたすら小鬼ゴブリンを倒そう」


「うん!」


「僕がしっかり小鬼ゴブリンの動きを止めるからルーさんは落ち着いて、ちゃんと前を見ながら刺突する。いい?」


「わかったよ!」


 ということで今日はひたすら小鬼ゴブリン狩り。僕が小鬼ゴブリンの攻撃を受け止め、動きを抑え込む。

 その隙にルーさんには落ち着いて回り込んでもらって刺突で止めを刺す。という流れをひたすら繰り返す。

 少し疲労が見えたらラトリさんに【治癒】をかけてもらう。


 繰り返しの戦闘により、なんとかルーさんも目を閉じずにちゃんと幻想ファントムを見て行動出来るようになった。


「今日はこの辺で切り上げよう!二人もいいよね?」


「うん!ちょっと疲れてきたところだから賛成」


「ん」


 こうしてパーティ初の迷宮ダンジョン探索は終了した。


 ラビスに戻り、組合で大量の鉄の棒を買取に出したら少し受付の女性に引かれたね。

 しめて80,000G。三等分にしたんだけど価値はいまだわからない。あとで街で調べなくては。明日の朝イチにまた組合前で集合ということで今日はお開きとなったのだった。


 さて、ちょっと初日から神殿に戻ることになるとは思わなかったけどちょっと問い詰めないとだ。

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