第18話 ある少年の話

「迷宮街ラビスへようこそ」


 そう話しかけてくる門番に一礼をして門をくぐる。ここが迷宮街ラビスか。


 俺は成り上がるために生まれ育った村を飛び出して、ここラビスにやってきた。自分には他人にない才能があるんじゃないかと思ったからだ。


 門をくぐり、中央の大きな通りを見ると多くの人達で賑わっている。


 今から20年前に『神々の恩恵』が人族にもたらされた。

 俺の生まれる前の話だからよくわからないけどそれから人族は神々が使う力を使えるようになったらしい。


 父さん達はよく、昔は神術も技能スキルもなかったんだと言ってくるけど、神術も技能スキルもない世界とか俺には想像も出来ない。俺が生まれた時にはあることが当たり前になっていたからだ。


 そしてもう一つ、ウォンダに現れたのが『迷宮ダンジョン』。これも神々の恩恵の一つで俺たちは『神々の試練』って呼ぶこともある。

 ウォンダの至る所に迷宮に通じる門が突然出現したらしい。当時はかなり混乱したとか。門の中は色んな構造をしていて俺たち人族の挑戦を待っている。迷路のような遺跡であったり、入り組んだ洞窟であったり、まさに迷宮だ。


「『緑粘魔グリーンスライム』がドロップした『高治癒薬ハイポーション』だ!これがあれば重傷だって怖くないよー!」


 中央の通りを進んでいると、客引きの大きな声が聞こえた。


 迷宮の中では幻影ファントムと呼ばれる化け物が跋扈し、侵入者に襲いかかってくる。こいつらを倒すことが出来れば力とアイテムと呼ばれる財宝を手に入れることが出来る。


 それら『神々の恩恵』について、当時の人たちは女神様より直接説明されたらしい。声だけで美人だとわかるくらいの美しい声だったと惚気ながら言った父さんは母さんに殴られてた。


 俺は街の人たちに道を聞きながら何とか目的の場所に辿り着いた。

 目印だと言われた2本の剣を模った看板をようやく見つけることが出来た。


 ここが『冒険者組合ギルド』か。


 迷宮を探索することを生業としてる『冒険者』。今ウォンダで一番人気があり、且つ危険な職業。

 冒険者達が持ち帰るアイテムで俺たちの生活はどんどん豊かになっていく。危険だけど富と名声を同時に得る事が出来るのが冒険者だ。


 そんな冒険者になりたくて、冒険者登録が可能な15歳になったと同時に俺はこの街にやってきた。


状態表ステータス


ーーーーーーーーーーーー

フォンド

種族:人族

階位:二

身体能力:

STR:D VIT:D AGI:D INT:C

神術:


技能:

アクティブ


パッシブ

武神の加護

ーーーーーーーーーーーー


 【武神の加護】、他の誰も持っているのを見たことがない技能スキル。効果の実感はなく、まったくわからないけど神の名がついた技能スキルだ。この技能スキルが俺に他人にはない才能があるはずと思わせる。


「おい、入口でボケっと突っ立ってじゃねえよ!ガキ」

「あ、すいません!」


 状態表ステータスを見ながら考え事をし過ぎてしまったみたいだ。強面の柄の悪い男に怒鳴られてしまった。


「まったくよ。ここはガキの来るところじゃねぇってんだ」

「おうおう。一丁前に腰に剣なんかさげてよ。まさか冒険者になろうってか?」


 柄の悪い男二人組にバカにされる。この人達も冒険者なんだろう。言い返したいが、纏う雰囲気に気負けして俯いてしまう。同時に俺の憧れの冒険者像が霞んでいく。


「すいませーん!少年に絡んで何イキってるんですかー?」


 そこに二人組をバカにした口調で話しかけてくる声が聞こえる。俺は俯いた顔を上げた。


「え」


 そこには俺より少し年上くらいの青年が立っていた。灰色の髪に黒い瞳。旅人のような格好をして剣を2本、腰からさげている。どこからどう見ても普通のお兄さんだった。


「ああ!?」


「てめー。いま俺たちのことをバカにしたか?」


 二人組は額に青筋を浮かべてる。明らかに怒ってる。このままじゃ、あのお兄さんが。


「バカにする?少年相手にイキってるんで引いてるんですよ」


「...冒険者をあんま舐めんなよ?」


 怖くないのかな。更に煽りの言葉を口にしたお兄さんに息のかかる距離まで一人が近づく。


「え?冒険者だったんですか?てっきり浮浪者かと思いましたよ」


 すげー。煽りをやめない。確かにこの人たち、汚らしい格好だけどさ。


「..こいつ。ちょっと口が過ぎるみたいだな」


 もう一人も近づいていく。くそ、体が震えて俺は見てることしか出来ない。


「おう。もういっぺん言ってみろ」


「え?聞こえなかったの?耳の中ちゃんと掃除してます?」


 笑顔で更に煽るお兄さん。


「ぶっ飛ばす」


 一人が肘を後ろに引き、殴りかかる。お兄さん!


「おらぶぁぁっ!?」


 パァン!!という音と共に殴りかかった男が僕の横を飛びながら通り過ぎていく。


「え?」


「て、てめぇ!?何しやがっふ!?」


 パァン!!という音と共に困惑していた男が僕の横を飛びながら通り過ぎていく。


 え?お兄さん、一体何をしたんだ?何をしたのか全くわからなかった。


 柄の悪い二人組は地面に仲良く重なりながら倒れて気を失っている。


「いやー。まさかのテンプレだったね。君?大丈夫?」

「は、はい!助けてくれてありがとう」


 俺は、頭を下げてお礼をする。

 でも何も言い返せず、何も出来なかった自分を思い出し、悔しさから顔を上げることが出来ない。


「..おーい。どうしたの?」

「..すいません。ちょっと悔しくなってしまって」


 顔を上げずにいたら心配されてしまった。


「そっか。君は冒険者なのかな?」

「いえ、今日この街に来たばかりなんです。これから冒険者になろうとここに来て。自信はあったはずなのに怖くなって何も出来なかった」


 【武神の加護】なんて大層な技能スキルがあるのに結局何の力にもなってくれなかった。この技能スキルは本当に何なんだろうか。


「なるほどね。どれ・・・」


 そういうとお兄さんは僕を見つめ始める。ん?眼が青白く光ってる?


「あ、あの?どうしたんですか?」


「・・・はぁ!?」


「え!?」


 え??急にどうしたんだろう。光る眼で僕を見たと思ったら急に困惑の表情を浮かべられたんだけど。


「あ、んん!ごめんごめん。き、君は大丈夫。きっと強くなるよ。まずはちゃんと自分を鍛える鍛錬をしたらどうかな?」


「でも鍛錬なんてどうすれば..」


 鍛錬なんて本気でやったことがない。どうすればいいのか。


「よし!じゃあまずはこれを君に進呈しようじゃないか」


 お兄さんはそういうと黒い服?をリュックから取り出して俺に渡してくる。


「これなんんんん!おも!!」


 受け取った瞬間に重さで前につんのめってしまう。何この服?


「それを着て毎日この街の外周を1周走るんだ。走ったあとは、そうだな。腕立て、腹筋、背筋、スクワッドを20回づつこなす」


「え?これを着ながらですか?」


「そう。それを着ながら。慣れてきたら徐々にに回数を増やしていくといいよ」


 うそでしょ。こんな重い服を着ながらだって?正気か?


「この鍛錬を毎日こなせば君は必ず強くなる。僕もそうだったからね」


 お兄さんのように。確かに何をしたかは分からないけどあの冒険者達を一瞬で倒したお兄さんの強さは本物だ。...やってみよう。


 俺はしっかりとお兄さんを見据えて頷く。


「いい眼だね。君、負けず嫌いでしょ?さっきも言ったけど絶対強くなるよ。頑張って」


 そういうとお兄さんは背を向けて冒険者組合の中に入っていこうとする。


「待って!お兄さん、俺はフォンド。お兄さんは?」

「ん?僕はログ。ただの旅人だよ」


 あんな強いただの旅人がいてたまるか。ログさんはそのまま手を振りながら組合の中に入っていってしまった。


 俺はログさんにもらった黒い服を抱えながら考える。冒険者への登録はもう少し鍛錬してからのほうがいいかもしれない。幸いお金は貯め込んだ分がまだ十分にある。

 しっかりと鍛錬してあんな情けないことにならないようにしよう。


 俺はそう決心し、冒険者組合に背を向けて来た道を引き返すのだった。

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