第16話 ラストピース

 クロニア様、あなたからの天啓、しかと受け取りました!


「ちょっと急に私を見ながら何なのかしら」


「はい、クロニア様のおかげで足りなかったパーツを思い出すことが出来ました」


「足りなかったパーツ?」


「はい!非常に重要な要素です」


 ということでこれは神様達に全員集まってもらう必要がある事案だ。


「クロニア様、クレディオス様に神様全員に集まってもらうようお願いしたいです」


「そんなに?わかったわ。かなり大事な事なのね。じゃあ、クレディオス様の部屋に向かいましょう」


 僕達は急ぎ、クレディオス様の元へ向かうことにした。



***



「ログ?急用って何?大した事じゃなかったら燃やすわよ?」


「いつでも燃やしてくれていいですよ?」


「な、じょ、冗談に決まってるでしょ!」


 クレディオス様の部屋にやってきたフィアー様が開口一番いつも通りにツンしてきたので素直に受け入れると狼狽える。

 ここ最近の僕とフィアー様の恒例絡みだ。僕的にはこのやりとりが結構気に入ってる。


 周りを見回すとクレディオス様の部屋に全神々が集まっている。壮観である。


「全員集まったみたいだね。ということでログ君、一体どうしたんだい?」


「はい。皆さんお忙しいのに集まって頂いてありがとうございます」


 僕は改めて神様達にお礼をする。


「お礼はいいからさっさと話せ。楽しい話じゃなかったらぶっ飛ばすぞ?」


「あなたは拳でしかものを語れないのかな?」


「ククク。君たち、やめてよ」


 もう思うより先に言葉が出るようになってしまったよ。いかんいかん、脱線している。


「皆さんに集まってもらった理由なんですが、今回の仕組みについて、僕は重要な要素を取り入れるのを忘れていたことに気付いてしまったんです」


「おいおい、ログ坊。もう準備完了間近だぞ。それは大丈夫なのか?」


「そうですね。準備に影響は?」


 テチノロギス様とナレージュ様が心配の声を上げる。


「はい、進行については影響ありませんので大丈夫です。ただこれを実装せずにいたら僕はゲーマー失格になるところでした」


「ゲーマー失格?よくわからないけれどその忘れていた事って何なの?」


 クロニア様が問いかけてくる。


「それはですね。『声』です!」


「「「「…」」」」


「なあ、ラヴィエ?やっぱこいつぶっ飛ばしていいか?」


「ダメよ。ちゃんと最後まで聞いてあげましょう」


 ラヴィエ様、皆さんが何言ってんだこいつって感じになってる中、ありがとうございます。


「声。僕の世界の遊戯では、ナレーション、ナビ、世界の声、天の声など色々な呼び方があるものなんですが、これを準備してないことに気付いたんです」


「お、おお。ふざけてんのかと思ったが、ログ坊、ちゃんとした仕組みなんだな?」


「ごめん。ログさん。俺も少し君を疑ってしまったよ」


 確かに言葉足らずな切り出し方だったよ。アクイス様すら懐疑的になるくらいだ。


「それでログ君、その『声』にはどういう役目があるんだい?」


「成長の告知です。あ、それ意味ある?みたいな顔しないでくださいね。これはすごい重要なんです。階位が上がった時や技能スキルを取得した時、この声の告知があると実感が深まるんです」


 うん。皆さんの反応が薄い。しかし、ここは引けない。


「今回の仕組みは言わば神様からの恩恵ですよね?」


「確かに人族からすれば直接的にはそうなるね」


「神々の声で告知する事で恩恵であることを常に自覚してもらうことも出来ます」


 常に神々が見守っているという一体感!


「常に自覚してもらう必要性は感じないかな?人族には強くなってもらえればいいわけだし。ボク達は人族から常に感謝されたいと思っているわけではないからね」


 さすがウォンダの神々。クレディオス様の言葉に全員が頷いている。やっぱりこの説明ではダメか。こうなってはしょうがない。


「これは遊戯での鉄板、必然なんです」


「本音は?」


「僕が盛り上がります!」


 僕はクレディオス様の問いに拳を握り締めながら言い切った。


「ログ?全員を集めたのにそれはちょっと..」


「まあまあ、クロニア。あまりわがままを言わないログ君がこんなにも熱望してるんだよ?ボク達には理解出来ないだけで大事な要素なのかもしれないよ」


 クレディオス様、ありがとう!


「ということでログ君のわがままを聞こうじゃないか」


「ありがとうございます!」


「告知をするってことだからボクの領域になるね。どう進めていく?」


「はい、まずは声を担当する神様を決めたいと思います」


「なるほど。だから不公平がないように全員を呼んでくれたわけだね」


「はい。と言っても僕の中ではもう推し声の方がいまして」


 そう。僕の中では推しの声が決まっている。


「推し?よくわからない言葉だけど指名したい子が決まってるってことだね。誰なんだい?」


「それはクロニア様です!」


 僕はクレディオス様の問いを受け、クロニア様を指名する。


「え?何で私?」


「あなたほど綺麗で澄んだ声は聞いたことがありません」


「そ、そんなに褒められても何も出ないわよ?」


 クロニア様がわずかに顔を赤らめている。


「鉄仮面の異名を持つクロニアが照れている、だと!?」


「止まりなさい」


「ぎゃ」


 驚愕の表情をした状態でクレディオス様の時が止まる。


「口調の乱れもなく、無感情な感じもグッドです」


「あなたも時を止められたいのかしら?」


 クロニア様の声は僕のイメージにぴったりなんだ。ぜひお願いしたいと考えている。


「いやいや、クロニア様の声は最高です!ぜひお願い出来ませんか?」


「そう?そこまで言うならいいでしょう。どうすればよいのかしら?」


「台本はすでに考えておきました。このセリフを登録できればと」


 僕は技能スキルの書き溜めに使っていた本のあまりを取り出し、さっとセリフを書いていく。書き終わった紙をクロニア様に手渡した。


「これを読み上げればいいのね?」


「はい、コツは一定のリズムで読み上げる事です。クロニア様には無用のコツですが」


「じゃあ、クロニア。早速だけどログ君で試してみようか」


「あなたさっきまで時止められてましたよね?」


 普通に何事もなかったように会話に入ってくるクレディオス様。本当に何でもありだな、この神は。


 ・・・数十分後。


「よし、ログ君。出来たよ。試してみてくれるかい?」


「わかりました!では、テチノロギス様、【体術】の技能本スキルブックを頂けますか?」


「おうよ」


 テチノロギス様より【体術】を覚えることが出来る技能本スキルブックを受け取る。なぜ【体術】をチョイスしたかというともちろん、対ウォーラ様用だ。

 僕は早速、本を開き、文字を頭の中で読み上げる。青白い光が本から発生し、身体の中に吸収された瞬間、


技能スキル【体術】を習得しました』


 頭の中でクロニア様の声が技能スキルの取得を告げる。


「うおお!!!これ、これですよ!いい、非常にいい!」


「そ、そんなにかい?」


「はい、もう完璧です。そうだ、誰か神様も体感してみてくださいよ。あ、ウィンデス様、あなたがいいと思います」


「ハッハッハ。やっと私の出番かい?ではクレディオス様、私にも施してくれ」


 ・・・数十分後。


 準備の終わったウィンデス様はテチノロギス様から何かの技能本スキルブックを受け取り、中を読み始めた。青白い光が本から発生し、身体の中に吸収された瞬間、


「こ、これは!?」


 驚愕の表情で震え始めるウィンデス様。そのまま天井を見上げて、


「素晴らしい..」


 お気に召したらしい。


「私は今、クロニア嬢からの祝福を受けたよ。謹んで受けようじゃないか!」


 そういうとクロニア様に向かって両手を広げて近づいていく。

 気に入ってくれるとは思っていたが、ちょっと変神度を見誤ってしまったようだ。どうしてそんな解釈になるのか。


「止まりなさい」


 両手を広げた体勢でウィンデス様の時が止まる。


「ウィンデスは相変わらずだね。でも反応を見るにいい感じみたいだ」


「気に入って頂けてよかったです。実は女性用も考えてまして」


「「「「「!」」」」」


 女性陣が反応する。


「ここでボクの出番だね!」


「違います。お子様の声ではふざけてるようにしか思われないですよ。一定層にはすごい需要があると思いますけど」


「な、なぜ!?」


 あなたはある層専用です。膝と手を地面につけて落ち込む見た目8歳児を放置して僕が推す神物じんぶつを指名する。


「ということで女性用の声の担当は、ヤードス様、あなたです!」


 そう。ヤードス様。無口なんだけど最初に挨拶した時の声を僕は忘れない。超イケボイスだったのだ。


「ヤードス様、あなたなら出来るはずだ」


 サムズアップで了承の意を示すヤードス様。早速女性版の準備がはじまった。


 ・・・数十分後。


 ヤードス様の収録はすでに終わり、女神様方はそれぞれ技能本を持って合図を待っている。僕としては女神様方が何の技能スキルをチョイスしたのかも非常に気になる所だ。

 合図と共に一斉に技能スキルを取得する女神様方。青白い光が身体の中に吸収された瞬間、


「「「「「!!!」」」」」


 女神様方の顔が驚愕の表情に変化した。


「ヤードス、あなたもっと喋るようにすればいいのに」


「そうですね。素敵な声なのに勿体無いです」


「ま、まあまあね!まあまあ」


「あら、ログちゃんの次にいい声ね」


「なかなかだが私もログが苦しんでる時の声の方がいいな」


 やはりお気に召したようだな。若干二神にめいは感性が完全にバグってしまってるらしい。


「ログ、最初は少し否定的な意見を言ってしまったけれどこういう要素もあっていいのかもしれないわね。ごめんなさい」


 クロニア様が謝ってくるが僕は全然気にしていない。僕のわがままに巻き込んでいるのは事実なのだ。


「いえ!気に入って頂けてよかったです。人族の反応も楽しみですね」


「それよりよぉ、ボス?この声は今からでも担当変更出来るんだよな?」


 急にウォーラ様がそんな事をクレディオス様に問いかけ始める。


「ん?それはもちろん出来るさ。何でだい?」


「ログは私が担当するべきだと思うんだ。なんといっても私の弟子だからな。師匠が務めねーでどうすんだよ」


「ちょっとウォーラちゃん?そこは私の役目よ。ログちゃんを見守るのは私の役目なんだから」


 さっきまで否定的だった神達はどこへ行ったのか。すっかり『声』にハマってるじゃないか。

 周りを見ると神々がそれぞれああでもないこうでもないと声について話している。


「ログ君、こうやって神達全員で一緒に何かに取り組むっていいもんだね。すごく楽しんでる。今までこんなことはなかったよ」


「そうなんですか?皆さん、仲がよろしいのに」


「みんな全員でっていうのは機会がね。そういう意味でも君の提案に乗ってよかった。ありがとう」


「きょ、恐縮ですよ!」


 僕的には自分のわがままからの提案だ。クレディオス様から急にお礼を言われてしまい、恐縮でしかないが、結果はわがままを押し通してよかったと思える。

 尚、ウィンデス様は時が止まったままだ。


「ログ!お前は私への声を担当しろよ!弟子として当然だ。鍛錬中に収録しろ」

「ログちゃん!私にもお願いね。セリフは考えてあるの」


「え?普通に嫌ですよ」


「「何で(だよ)!?」」


 女神相手に人族がそんなこと出来るか!僕は丁重にお断りするべく二女神おふたりの説得を続けるのだった。





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ここまでお読み頂きありがとうございます。

ここまでで一章終了です。次回からは二章、変革後の世界を中心としたお話が始まります。


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