第15話 迷宮試験

 薄暗い古ぼけた通路を慎重に進んでいく。壁面に設置された松明の青白い火が道を照らし、静かな空間に僕の足音だけが響いている。


 まっすぐ伸びる通路を少し進むと広めの広場に出た。広場に足を踏み入れた瞬間、中央付近の地面から異形の者が姿を現す。人骨の姿で動く化け物、『骸骨兵スケルトン』だ。


 古ぼけた片手剣を持ち、鈍足な動きで襲いかかってくる。

 僕は片手に持つ鉄の剣を構え、骸骨兵スケルトンが振り下ろしてきた剣を受け止める。そのまま後ろへ相手の剣ごと受け流し、骸骨兵スケルトンの背後を取る。

 ガラ空きの背中へお返しの振り下ろしを叩き込んだ。


 ガシャンと骨が砕ける音と共にその場に倒れ伏す骸骨兵スケルトン

 僕はその様子をじっと観察する。動かなくなった骸骨兵スケルトンの身体は次第に青白い光の粒子に変わり、一部が僕へ向かってゆっくりと飛んでくる。光の粒子は僕の身体の中に溶け込むように入って消える。

 また骸骨兵スケルトンがいた場所にはすでに光の粒子はなく、変わりに古ぼけた剣が落ちていた。



 完璧である!ここは遺跡型の試作迷宮ダンジョン零号。

 フィアー様とウィンデス様との出会いから数日が経ち、僕はいま試験のために試作した迷宮ダンジョンの中にいる。ウォーラ様とラヴィエ様が完成させた迷宮ダンジョン内のみに出現する擬似生命、『幻影ファントム』を倒したところだ。

 『幻影ファントム』は神力のみで構成された擬似生命で、倒すとさっきのように消えて消滅することから総称として命名した。


『テステス、あーあー、ウォーラ様、ラヴィエ様、聞こえますか?』


『おう、よく聞こえてるぜ、ログ』


『あぁ!ログちゃんの声が直接頭の中に..』


 僕は最近テチノロギス様に開発してもらった技能スキル【念話】で二神との会話を試みる。【神託】を参考にした技能スキルで、予め【念話】が使える者同士でパスを登録し合うことでいつでも頭の中で会話が可能なチート級の技能スキルだ。

 

 ちなみにラヴィエ様は稀に言動が危うくなることに最近気づいた。基本はスルー推奨だ。


幻影ファントムですが、倒した後にちゃんと神力として一部を吸収することが出来ました。アイテムのドロップも確認出来ましたよ』


『完璧じゃねーか!よし、テチノロギスにも伝えとくぜ』


 同時接続は2名まで。それ以上はどんなに試しても頭が割れそうになるくらい痛くなる。脳力の限界なんだろうと結論付けている。


 今は幻影ファントムを倒すことによる神力の強化と若干の身体能力の向上をテストしていて、さらに幻影ファントム毎に設定したテチノロギス様とナレージュ様が作成したアイテムのドロップを確認していたところだ。

 アイテム、元は財宝と言っていたものは幻影ファントムを倒すことで入手できる形にしたのだ。幻影ファントム毎に様々なアイテムがドロップする。もちろん強ければ強いほどよいアイテムがドロップするようになっている。


『では、このまま試験を続けますね』


『おう。よろしくな』


『ログちゃん、頑張ってね』


 僕は広場から通じる先の通路へ進行を再開した。



***



 あれから何度かの骸骨兵スケルトンとの戦闘を繰り返し、迷宮ダンジョンを進み続けること小一時間。

 僕はボス部屋の扉の前に立っていた。重々しい雰囲気の扉が僕の前にせり立っている。


「いいねいいねぇ。雰囲気出てるよ。これぞボス部屋って感じだね」


 さて、ボス部屋に突入しようじゃないか。


 扉を開けるとそこは広場になっていた。もちろん広場の中央にはこの迷宮ダンジョンのボス、『骸骨剣士スケルトンソルジャー』が鎮座している。

 

 骸骨剣士は僕の姿を捉えると立ち上がり、剣を2構えた。


「って、骸骨剣士スケルトンソルジャーじゃなくてレアボスの骸骨双剣士スケルトンデュエルじゃん!」


 レアボス。通常のボスを魔改造して能力を底上げした幻影ファントム。ボス部屋への侵入者が適正以上の強さを保有している場合にごく稀に出現する様に悪ノリで設定した要素だ。

 まさか自分が悪ノリの最初の犠牲者になるとは。


 骸骨双剣士スケルトンデュエルが直線的に突っ込んでくる。上等だ。迎え撃ってやろうじゃないか。

 骸骨双剣士スケルトンデュエルの間合いに入ると左右から横なぎに剣閃が迫る。僕は全力で屈んで剣撃を回避。そのまま足に神力を込めて、全力で骸骨双剣士スケルトンデュエルの足を払う。

 足を払われて宙に浮いた骸骨双剣士スケルトンデュエルを即座に確認した僕は後ろに軽くバックステップし、無防備な胴体へ剣を振り下ろす。

 ガキ!!っと鉄と鉄がぶつかり、火花が散る。ギリギリのところで剣を差し込んで受け止められたがそのままの勢いで地面に骸骨双剣士スケルトンデュエルを叩きつける。

 倒れた姿勢のまま、僕の足を狙って剣を横なぎに振るってくる骸骨双剣士スケルトンデュエル。再度バックステップでかわして仕切り直しだ。

 骸骨双剣士スケルトンデュエルも倒れた姿勢から立ち上がり、再度双剣を構えた。


 手数の差で押し切れない。剣で倒したかったけど今の僕ではまだ無理だな。悔しいけど終わりにさせてもらおう。僕は掌を骸骨双剣士スケルトンデュエルに向ける。


(【業火球ヘルフィアボール】)


 構えた掌の前に僕を飲み込むほどの火の塊が出現し、それをそのまま骸骨双剣士スケルトンデュエルに向けて放つ。

 凄まじい速度で飛来した業火球に回避が間に合わず着弾する骸骨双剣士スケルトンデュエル。着弾と同時に爆炎が発生し、そのまま骸骨双剣士スケルトンデュエルを飲み込んで焼き尽くした。


 爆炎が収まると青白い光が僕の身体に入ってくる。骸骨双剣士スケルトンデュエルがいた場所には黒い本が一冊落ちていた。


「『技能本スキルブック』だ」


 『技能本スキルブック』。技能スキルを覚える事が出来る本。テチノロギス様の力作である。

 早速僕は本を取り上げ、中を確認するために本を開く。【双剣術】の本って書いてあるね。

 文字を読み上げた瞬間に青白い光が本から発生し、身体の中に吸収される。本はただの白紙となり、そのまま光の粒子に変化して消えていった。


「…うーん。双剣術を覚えたんだよね?嬉しいはずなのになんか足りない?」


 何かが引っかかるんだけど何だろう?..考えてもわからないのでとりあえずレアボスを倒した時に出現した扉の先に進むことにした。


 ボス部屋に新たに出現した扉を開けて進むとまた小さい部屋にたどり着く。


 ここは『迷宮核ダンジョンコア』がある部屋。迷宮ダンジョン幻影ファントムはこの『迷宮核ダンジョンコア』から発生するように設計したのだ。

 まあよくあるパターンだね。迷宮核ダンジョンコアは壊すことも持ちだすことも出来ないようになっている。いたずらやよくわからず壊そうとしたり、持ち出そうとする者が必ず現れる事が想像出来たからだ。

 この迷宮核ダンジョンコアに触れると迷宮ダンジョンの外へ出る事が出来るのだ。僕は迷宮核ダンジョンコアに触れてちゃんと脱出出来るかの最後の試験を行う。


 迷宮核ダンジョンコアに手を当てた瞬間、目の前が白く染まり、体を宙に浮いたような感覚が襲う。


 視界がはっきりしてくるとそこはクレディオス様が用意してくれた迷宮ダンジョン管理用の部屋だった。

 ここには製作したすべての迷宮核ダンジョンコアの対となる迷宮核ダンジョンコアが設置されており、異空間に設置後も遠隔で調整や監視が可能になっている。


「ただいま戻りましたー」


「おう、戻ったか。試験はバッチリだったな」


 テチノロギス様達が僕のほうへ集まってきて試験成功を告げてくる。


「そうですね!いきなりレアボスでびっくりしましたけど逆にちゃんと機能してるってことですし」


「ログよぉ。お前剣で倒せよ、剣で」


「くっ!気にしてるのに!」


 ウォーラ様が的確に僕が少し悔しい思いをしている部分を指摘してくる。


「もっと筋力鍛えないとダメだな。今日から覚悟しとけよ」


「それはむしろウェルカムです」


 厳しい鍛錬はむしろ好物です。すごい楽しみ。


「あ、ヤードス様、壁とかの石材の雰囲気がいい感じでしたよ!」


「…」


 茶色い短髪の強面筋肉マン、土の神ヤードス様は無言でサムズアップしている。


 ヤードス様は数日前に神殿にやってきて、それからはずっとテチノロギス様と迷宮ダンジョン製作に勤しんでくれている。ヤードス様は無口でほとんど喋らない。声を聞いたのは挨拶の時だけで基本はアイコンタクトや仕草で会話をする。


「ログちゃん、何か気になることはあった?」


「それなんですけどなんか引っかかってるんですよね。レアボスを倒して【双剣術】を覚えたあたりからなんですけど」


 そう。今も何かが足りないような気がしてるんだよなー。でも何なのかわからない。考え込んでいると管理室の入口の方から声がする。


迷宮ダンジョン試験は順調かしら?」


 声に反応して入口の方をみやるとクロニア様が様子見にきてくれたようだ。そこで僕に天啓が降りてくる。


「これだ!」


「え?」


 僕の突然の発言にキョトンとするクロニア様。僕はやっと謎の引っかかりの原因に気づいたのだった。

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