第11話 迷宮

 力、富、名声を得る場所。ゲーム、異世界物には絶対に欠かせないファクター。そう、『迷宮ダンジョン』である。



「ログよぅ。お前、唐突にその語り口調やめてくんねーか?イラっとして話が入ってこねぇ」


「ログ君、そこは普通に話してほしかったな」


「ログ坊、【話術】も作るか?」


「…」


 そんな技能スキルいらないよ。ちょっと興に乗って語り口調になってみたが、ウォーラ様、クレディオス様、テチノロギス様からは大不評。クロニア様とナレージュ様からは哀れみの視線を向けられている。


「..では、これから『迷宮ダンジョン』について、皆さんに説明しようと思います」


「おお。それでいいんだよ。普通でな」


「うんうん。さらっと流す感じで今のはいい流れだったよ。やるじゃん、ログ君」


 二神ふたりがまだ追い討ちを仕掛けてくるんですが。キレてもいいかな?

 気を取り直して僕は『迷宮ダンジョン』について、神様達に説明した。


迷宮ダンジョンには洞窟や人工的な建造物、森や山などが存在する。

迷宮ダンジョンの目的は探索で得られる財宝である。

・探索には力と知恵が必要である。

迷宮ダンジョンには行手を阻むモンスターや罠が存在する。

・踏破するには必ず存在する迷宮ダンジョンのボスを倒す必要がある。


 ポイントとなる部分をシンプルにお伝えする。


「なるほど。確かにそれはみんな挑むために努力を惜しまなそうだね」


「モンスター?との戦いってのがいいじぇねぇか!」


「財宝か。迷宮ダンジョンってとこの探索で手に入るわけだ。俺が試作したものを置いてもいいな」


「そうね。それ以外にも知識を記した本などを置いておいてもいいわね。効率的に知識を広めることも出来るわ」


「ログの世界では本当に面白いことを考えているのね」


 クレディオス様、ウォーラ様、テチノロギス様、ナレージュ様は目を輝かせて興味を持ってくれる。クロニア様は安定の無表情なのでどれだけ興味を持ってくれたかはわからない。


「はい。例えばこのモンスターを倒すことで一定の神力を得ることが出来るようにするのはどうかと。迷宮ダンジョンに挑むことで成長にもつながるんです」


「なるほど。階位をどうやって上げるかという部分だね。挑むだけでも着実に成長し、富も得られると」


「そうです。色々な難易度の迷宮ダンジョンを作り、成長を促していくんです」


「かぁー!楽しそうじゃねえか。よっしゃ。モノづくりとくれば俺の領分だな。腕がなるぜ」


 テチノロギス様に協力してもらえればいろんな迷宮ダンジョンが作れそうだ。世界の色々な場所に配置することで地域性なんかも出てくると面白い。


「モンスターとかいうのは私にも作らせろ!すげー強えやつ作ってやる。ラヴィエにも協力してもらわねーとな」


「ラヴィエ、様?」


「おう、命の女神だな。生物が関連するならあいつに協力してもらわないとだ」


「なるほど。例えば擬似生命とかでもいいんですけどね」


「あいつがいれば何とでもなるさ」


 命の女神様か。どんな神様なのか、会うのが楽しみだ。

 神様達もかなりノリノリになってくれているので迷宮ダンジョン制作も捗りそうである。


「よし。じゃあ、明日はログ君の計画を改めてまとめて整理しようじゃないか。今日はもう解散としよう」


クレディオス様がいい感じで締めてくれる。確かに今日はもういい時間だ。ここまでで解散ということで皆が部屋を出ていく。と、


「おうログ、お前は少し残れ」


 僕はウォーラ様に呼び止められた。


「いいですけど、どうしました?」


「稽古つけるにしてもお前は基礎からダメダメだから今日から身体作りをやるんだよ。休む前にな」


 今日からでしたか。確かに身体は疲れてないし、これからの事を考えてもありがたい話だ。


「わかりました!よろしくお願いします!で、まずは何を?」


「よし。まずはこの部屋の外周を10周だな。その後は腕立て、腹筋、背筋、スクワッドを50回づつ。初日だからこんなもんか」


 おお。意外と無難な内容で少し安心した。


「じゃあ、ログ。これに着替えろ」


 と、ウォーラ様は安心していた僕に動き易すそうな黒一色の鍛錬着上下セットを差し出してきた。

 ジャージっぽい?動きやすそうなデザインである。

 受け取ってみると、うん。なるほど。


「..ウォーラ様?くそ重くないですかこれ?」


「そりゃ、テチノロギスが私の鍛錬用に作ってくれた特注品だからな!いい重さだろう」


 輝くような笑顔でそう言い放つウォーラ様。そう。この鍛錬着、重いのだ。こんなの来て走れっておっしゃってるらしい。

 全然無難では無くなってきた。


「そこら辺で着替えてきな」


 ..やってやろうじゃねえか。僕はゲームのような世界を作りたいだけじゃなくて、僕自身が強くなりたいという願望は強いんだ。

 部屋の端に移動してトーガを脱いで鍛錬着に袖を通す。ずっしりとした重みが全身に乗しかかる。

 一体何で出来ているんだ、この素材は。


「私が許可するまで神力の使用は禁止だからな。よし、じゃあ走るぞ!」


「やってやらぁ!」


 意気込んで走り始めてみたものの、重い、重過ぎる。1周走り切る頃には足に力がもう入らず、フラフラだ。


「まあ、初日はそんなもんか。おし。神力使って走ってもいいぞ」


「お、おーーーし!」


 僕は助かったと思った。これで楽に走り切れると思ったけれど全然そんなことはなかった。早速神力を身体に循環させてみるも重さをあまり感じなくなっただけで相変わらず足がなかなか前に出ない。

 神力を使っても一度限界に到達した身体が動くようになるわけではないらしい。


「こ、こんな感じか..!!」


 そこからはもう無心。ひたすらに走り続けたと思う。どれくらいの時間が経ったのか、ウォーラ様の終了の掛け声でその場に倒れ込んだ。


「はぁはぁはぁ」


「最後の2、3周はいい感じで効率よく神力を循環させてたじゃねえか」


 はい、まっったく覚えてません。もう本能で効率化させたんだろうよ!途中からの記憶がないね。


「少し休んだら筋力鍛錬だからな」


「う、ういっす..」


 ただ、ひとつ気付いたことがある。疲れ切ってしまって倒れ込んでいる状態ではあるけど、気分は爽快だ。すごく気持ちがいい。

 どうも僕は身体を限界まで動かすことが好きらしい。前世やこの前まではここまで身体を動かす経験をしていなかったので気付かなかった。


「なにニヤついてんだ?ログ」


「ふ。あなたは僕を目覚めさせてしまったらしい」


「あ?」


 ウォーラ様が僕から少し距離を取り、普通に引いている。


「気持ちわりぃこと言ってないで続きやるぞ」


「うっす」


 こうして僕の日課に地獄?のトレーニングが加わった。

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