第10話 技能

「クロニア、お久しぶりですね」


「ええ、ここで会うのは久しぶりね。ナレージュ」


 紺色の髪を一つに結っているスレンダー美女の知の女神、ナレージュ様がクロニア様と挨拶を交わしている。テチノロギス様とは真逆で、落ち着いた雰囲気の知的美人だ。


 約束とおり、テチノロギス様がナレージュ様を連れて、クレディオス様の神殿にやってきてくれた。

 お馴染みのウォーラ様の訓練場へやにクレディオス様、クロニア様、ウォーラ様とテチノロギス様とナレージュ様を加えた五神が集っている。


「お話はクレディオス様からも聞いておりましたが、あなたがログさんですね。ウォンダの未来のためにありがとう。感謝致します」


「いえいえ!こちらこそ、よろしくお願い致します。ログです」


 僕の女神像にパチっとハマる女神様でした。テチノロギス様とは夫婦なんだよね?まったく雰囲気が違うからびっくりする。


「かっはっは。ログ坊!俺の奥さんは別嬪さんだろう!」


「そうですね!お美しいです!」


「あなた、戯れが過ぎますよ?」


 テチノロギス様は惚気自慢をしてくるが、真実なので同意しか出来ない。ナレージュ様は即、諌めているが。

 ふとウォーラ様が僕の視界に入ってくるとなぜか腕を組んでお胸様を強調してくる。一体あのひとは何がしたいのか。ありがとうございますとだけ言っておこう。


 さて、いつもの通り、黒板先生の出番ですよ。

 僕は黒板を使って技能スキルについての説明をはじめた。武具に関連する技術的な技能スキルに始まり、知識をサポートする技能スキル、身体に影響を及ぼす技能スキルなど考えられる技能スキルを話していく。


「なるほどですね。知識を技能スキルとして使えるようにするものもあるのですね。これは面白いですね。技能スキルを習得することで知識そのものも習得することになる。知識を広めることを役目とする私にとっては素晴らしい仕組みだと感じております」


技能スキルか。まさに俺がやるべき領域じゃねえか。滾ってくるな。戦闘に関する技能スキルは武の嬢ちゃんにも協力してもらわないとだけどな」


「やっぱり武の領域はウォーラ様も必要なんですね」


「ふん。私は武の女神だからな!」


 前のめりに協力の意思を示してくれるテチノロギス様とナレージュ様。

 直接武力を高めるような技能スキルについてはウォーラ様の力も必要のようでドヤっている。


「よし!じゃあログ坊に早速何か技能スキルを試しに覚えてもらおうか。何がいい?」


「そうですね!じゃあ【剣術】で!」


 【剣術】。やっぱりファンタジーといえばこれでしょう。



***



 僕の目の前にはウォーラ様が腕を組みながら仁王立ちをしている。見覚えのあるシーンではあるが、過去にタイムトラベルしたわけではない。

 

 木剣を上段に構え、そのまま振り下ろす。シッと淀みのない剣閃を描く。続けて横に木剣を払ってみる。何か不思議な力が身体の動きを補正するように自然と剣を振ることが出来ている。これが技能スキル


 僕は口角を上げながら鋭くウォーラ様を見据えた。


「おうおう。一丁前に睨んできやがって。ログ、もう準備はいいのか?」


「ええ。もう前回のようにはいきませんよ。今度こそ一泡吹かせてやります!」


「いいじゃねぇか!じゃあかかってこいや!」


 木剣を上段に構え、足に神力を集める。姿勢を低く取り、そのまま一気に前へ踏み込んだ。

 瞬時にウォーラ様の前に移動した僕はそのまま、構えていた木剣を振り下ろす。


「うおら!」


 剣閃を描きながら振り下ろされた木剣がウォーラ様の顔に直撃する瞬間、ビシっと何かに止められた感触が木剣から伝わる。よく見るとウォーラ様は指で木剣を摘み、顔の前で受け止めていた。


「えぇぇ…」


「ふん。このボケが。真正面からの何の捻りもない一撃なんざ、この私に通じるわけがねーだろうが!」


 ウォーラ様に摘まれた木剣がそのまま砕かれる。なんつーバカ力か!一旦退こうとしたが遅過ぎたようだ。

 ウォーラ様の獰猛な顔と迫る青白く光る拳が視界に入り、そのまま顔に凄まじい衝撃を受けたと思ったら世界が真っ白に染まったのだった。




「がっはっは!おーい、ログ。起きやがれ」


 ウォーラ様の高笑いとペチペチと僕の頬を叩く音で目が覚める。


 ああ、また僕は床に大の字になって倒れているね。また悔しさが込み上げてプルプルしてきた。


「ログ、お前よぉ。ちょっと動きが拙過ぎるぞ。そんなんじゃあ技能スキルを活かせねぇ。これから毎日稽古つけてやるからな」


「お、おねがいひゃす」


 殴られたところが痛すぎてうまく喋れないんですけど。僕は戦闘の初心者だってことは自覚しているので稽古をつけてもらえるのは嬉しい限りだ。


「でも神力は馴染んで使いこなせるようになってきてるみたいだね。なかなかの踏み込みだったよ」


 クレディオス様がフォローしてくれる。


「かっはっは!技能スキルについては成功のようだな。素人のログ坊が見事に剣自体は振れていたぞ」


「そうですね。これは期待が出来そうです」


 テチノロギス様とナレージュ様は一定の成果を感じてくれているようだ。痛い思いをしてよかったよ。


「次はどんな仕組みを考えていくのかしら?」


 クロニア様はもう次の事が気になるようだ。あとは今まで考えた仕組みを使って人族に積極的に自己成長に励んでもらう仕組みを考えていくだけだ。

 とりあえず、上半身だけでも起き上がり、神様達に説明をすることにしよう。


「そうですね。力についてはこれで全てです。あとは階位をどのように成長させるかということと、成長を必要とする環境の準備です」


「成長に必然性を持たせる仕組みだね?ボクも気になっていたんだよ」


 期待の眼差しを向けてくるクレディオス様。僕は少し間を空けて語り出す。


「はい、必然性です。そのために人族に力、富、名声を与える環境を準備するんです」


「ほう。欲か。確かに欲は人を動かす原動力になるわな」


 テチノロギス様が僕の言葉の意味を理解する。


 人族の欲を刺激し、成長に必然性を持たせる。そんな環境を準備する。

 そう、ゲームやラノベでも鉄板のあれの出番だ。

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