第9話 技の神

 ウォーラ様に敗北を喫した次の日、僕はクレディオス様の部屋に訪れていた。今日はクロニア様も一緒だ。


 ウォーラ様はまた、組手に向かったらしい。好きすぎだろあのひと。ステータスの精度が上がるのでありがたいことではあるが。

 アクイス様はご自身の拠点に帰られている。


「ログ君、今日は何をするんだい?神術の開発の続きかな?」


「そうですね。神術は引き続き開発していきますが、今日は神術とは別の力の仕組みを作っていきたいと思います」


「神術以外にも力の使い方があるのね。またログの世界の遊戯を参考に?」


 クロニア様はもう慣れてきた感があるね。そう、今日は定番、『技能スキル』の開発を行う。やはりこれも外せない要素の一つだと思う。


「はい、僕の世界の遊戯などで登場するんですけど、『技能スキル』といいます。例えば、剣術や槍術など、武器の扱いをある程度補佐し自動化したり、火耐性など、身体に影響を及ぼす超常的なものであったり、色々なものが存在するんです」


「神術とはまた違った力の形か。ボク達の『加護』に近い感じもするけど聞く限りだとその『技能スキル』というのは個人の特性が大きく現れる形になりそうだね」


「クレディオス様のおっしゃる通りです!生まれつき持っている技能もあれば修練で習得するもの、体験から習得するものなど、色々な形で習得出来るようにしたいと考えてます」


「いいわね。個性がしっかりと現れるでしょうね」


 クレディオス様とクロニア様は技能スキルの多様性を理解してくれている。

 僕としても色々な技能スキルを作って多様性を生み出したいと考えている。


「これは技の神の協力は不可欠だね。知の女神の協力もあったほうがいいかな」


「ええ、あのひと達、人族達の中で生活してるでしょ?クレディオス様、ログを連れてちょっと行ってくるから事前に話しておいてもらえる?」


「わかったよ。話しておこう」


 技の神様と知の女神様は人族達の中に溶け込んで生活してるのか。この時代の街にも行ってみたかったし、ちょっと楽しみだ。



***



 僕の目の前には神様達の住む神殿ほどではないが見事な建造物が立ち並ぶ街がある。


 ここまでの道中を語ることは出来ない。なぜなら一瞬でいま立っているこの場所に来たからだ。そう、【転移】というやつである。

 転移はクレディオス様が神々に与えた能力で膨大な神力を必要とする。瞬間的に発動出来るようなものではなく、ある程度行使までに時間を要していた。

 おそらく、転移場所をイメージしたり、座標のようなものを指定したりしているのではないだろうか。

 僕がイメージする一瞬で発動して瞬間移動!というような代物ではなかった。


 颯爽と街に入っていくクロニア様についていく。


「綺麗な街ですね」


「そうね。いまここにはテチノロギスとナレージュが滞在しているから。まさに発展をしている最中よ」


 技の神、テチノロギス様と知の女神、ナレージュ様。二人は夫婦神らしい。人族の中で活動し、テチノロギス様が様々な技術を開発し、ナレージュ様がそれを知識として広める。常に人族に寄り添い、恩恵を与え続ける神々だ。


 街の様子を観察してみると、石造の建造物が多い。この街では石造建築の技術を広めているのだろう。

 僕の時代よりも高度な技術、街ゆく人族達は活気に溢れている。僕の時代では見ることが出来なかった光景だと思うとやはりやるせない。


「あなたが未来を変えてくれるんでしょ?期待してるわ」


「あ..はい!もちろんですよ!」


 ちょっと悲しい雰囲気を出してしまっていたようだ。前を歩いているクロニア様が即座に察して言葉をかけてくれる。


「ふと思ったのですが、今は国のようなものは存在しないんですか?」


「国?それはどういうものなの?」


 クロニア様は理解出来ないようでコテンと首を傾げている。実はこれ、非常に重要な情報だということに気付いた。

 クロニア様は『国』というものを知らない。僕が歴史を知ることになった古文書はある『国』に属する人族が書き残したもの。しかも国の年号付きで書き記されていた。


 魔神達がやってくるまでの猶予をある程度把握出来るじゃないか。少なくとも数百年単位の猶予はありそうだ。

 それまで僕は生きていられないという事実にも気付いてしまったがだからこそより万全の準備をしておこう。


 僕は国という枠組みについて、簡単にクロニア様へ説明した。


「あなたのいう国というものはこの世界にはないけれど、街単位でそれぞれ独自の文化、ルールのようなものは存在しているわね。私達と繋がっている神官が街の代表的な立場でそこに暮らす人族をまとめているケースが多いわ」


 なるほど。これから今の形が発展して大きくなって国という単位になっていくのだろう。

 僕の考えた仕組みによって間違いなく歴史は変わってしまうと思うけど、『世界教典アカシックレコード』に登録する前にクレディオス様とクロニア様には猶予について、共有をしておこう。


「あそこにいるわね」


「ん?」


 少し考え事をしながら歩いていると、クロニア様が建築途中の建物の前で人族達に指示を飛ばす存在を指さして話しかけてきた。


 クロニア様が指で示した神物じんぶつを確認すると、小さな体なのにがっちりとした体型、茶色い髪とぼうぼうの髭に覆われた強面の顔。うん。僕の知識で言うところのまさにドワーフな神物じんぶつだった。


「ドワーフ?」


「ドワーフ?それは何?」


「あ、いえ。僕の元の世界でよく話に出てくる種族なんですけど、容姿が一緒だったもので」


「そうなの?確かにテチノロギスは毛が濃ゆいのよね」


 身長も特徴的ですけどね!


「テチノロギス。ちょっといいかしら?」


「おう?おお、時の嬢ちゃんか」


 クロニア様が話しかけるとこちらを振り向いて言葉を返してくるテチノロギス様。


「嬢ちゃんはやめて」


「かっはっは。いいじゃねーか。そっちのほうが呼びやすいんだよ」


 見かけ通りワイルドな感じの神様だな。と思っていたら、今度は僕のほうを向いて目が合う。


「お?そっちのがもしかしてオヤジが言ってた未来からきたってやつか?」


 オ、オヤジってクレディオス様のことかな?全然イメージが。生みの親だから合ってるといえば合ってるんだろうけど。


「初めまして!ログといいます」


「おう。俺はテチノロギスだ。色んな技術を考えて作ってる。よろしくな!で、俺に相談があるんだっけ?」


「そうなんです。相談というのは・・・」


 早速僕は『技能スキル』についての説明をし、テチノロギス様に協力してもらえないか、お願いをした。


「なるほどな。個人の技術や才能をさらに発展させるための力みたいな感じだな。面白そうじゃねえか」


「はい。間違いなく人族は更に発展するし、これから来る魔神達への対抗手段にもなると思ってます」


「わかった。協力しよう。明日、ナレージュも連れてそっちに行ってやろうじゃねーか」


「ありがとうございます!」


 テチノロギス様も目が爛々としてる。完全に興味を持ってくれているな。よし!『技能スキル』開発も前進だ。


「じゃあ明日、神殿でな。ログ坊」


 そう言ってテチノロギス様はまた現場の指示に戻っていった。


「ログ坊って」


「あの人はまた変な呼び方を勝手につけて」


 クロニア様はやれやれといった感じで首を振っている。まあ、神様からすれば僕なんて坊やなんだろう。ちょっと恥ずかしいけど親しみを持ってもらえたんだろうと納得することにする。


 さあ、明日はいよいよ技能スキル開発だ。

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