第8話 水の神と水の神術

「水の神はすぐここに来れそうだよ。あとの三神はすぐ来れないみたいだから日を改める必要がありそうだね」


 属性を司る神達を紹介してもらうべく、クレディオス様を待っていたわけだが、どうもお一神ひとりしか今は来れないらしい。


「ありがとうございます。皆さんは普段からここにはあまりいらっしゃらないんですか?」


「いや、みんなこことは違う場所に拠点を構えているんだ。ここに住んでいるのはボクとクロニア、ウォーラともう一人、命の女神だけだよ」


 なるほど。僕の時代にも神域と呼ばれる場所は複数あった。そういうことだったのね。

 それよりも命の女神様か。これはぜひお会いして術の開発に協力してもらいたい。


「命の女神様にもご協力頂きたいのですが、可能でしょうか」


「もちろん。ただ、彼女は今留守でね。戻ってきたら紹介するよ」


「ありがとうございます!」


 まずは水の神様の到着を待とうじゃないか。


「クレディオス様。お待たせしました」


 って早い!いま、ゆっくり待ちましょうモードに入ろうとしていたところだよ。


 声が聞こえた入口の方を見やるとそこには爽やかな青色短髪の美男子が立っていた。僕と同じくらいな背丈かな?好青年な雰囲気を醸し出す笑顔をこちらに向けていた。この神が水の神様か。


「君がログさんだね、初めまして。俺はアクイス。水の神と呼ばれているよ」


「初めまして。ログといいます」


 僕も席を立ち、向かい合いながら握手を交わす。おお、爽やか。圧倒的に爽やかだ。クレディオス様とウォーラ様がすこーしだけ特徴的だったのもあって、すごく普通に親しみやすさを感じる。


「事情はクレディオス様から聞いているよ。この世界の未来を救うために知恵を貸してくれているとか。ぜひ俺も協力させてほしい」


「はい!ありがとうございます!」


 おおお、何だろう。スムーズにコミュニケーションを取ることが出来ることになぜか感動してしまう。

 まだ1日しかここにいないのにだいぶ毒されてしまっていたのだろうか。クロニア様は特に変なところはないけど無表情なところが読めないんだよ。


「なんかボクに対する不敬な匂いがするね。気のせいかな?」


「クレディオス様に不敬な心を向けるわけないじゃないですか」


「ん?」


 鋭い!クレディオス様はもう何でもありっぽい。アクイス様は純朴な感じで首を傾げている。これ以上は不毛なので話を進めてしまおう。


「よし!じゃあ話を進めましょう。アクイス様にご協力頂きたいのは僕が考えた術、『神術しんじゅつ』の開発です!」


 どうですか!寝ながら考えた僕のネーミング、シンプルイズベスト!


「ふつーだね。なんかもっとすごい名前を期待していたよ」


「クレディオス様?せっかくログさんが考えてくれたのに失礼ですよ?」


 アクイス様、もうあなたは神です。そしてクレディオス様のそのニヤけ顔、腹立つな。


「魔法もそうですけどこういうのはシンプルさが重要なんですよ!じゃあまたこの黒板で説明しますね」


 クレディオス様はまだニヤニヤしているが無視だ。さあ、黒板君、また君に活躍してもらうよ。


 僕は黒板で神術についての概要と参考までにどんな神術を考えているのかを説明した。

 特に大事な部分は「トリガーワードにより、神力を用いて、予め決められた法則に則り事象を具現化する」ということ。

 この法則を『世界教典アカシックレコード』に予め登録することにより、人族は『世界教典アカシックレコード』より神術を引き出して行使する。

 

 あとは階位が上がるごとに使える神術が増えるとか、そんなことを説明した。


「なるほど。よく考えられているね。あくまでも決められた法則により事象を具現化するのが神術というわけだね」


「はい。事象そのものを自由に使えるのは神の領域。力を与える以上は神と人で線引きを行う必要があると思うんですよね」


 そういう意味でもゲームなどの魔法のようなシステムは理に叶っていると思う。


「よくこんなことを考えつくね。ログさん」


「いえ、これは僕のいた世界の遊戯から持ってきてるだけなので僕なんか知恵を拝借してるだけですよ」


「はぁぁ。君はすごい世界から来たんだね」


 アクイス様は素直に関心してくれる。さあ、それではあなたの司る属性を使った神術、一緒に開発しようじゃありませんか!



***



 僕の目の前にはウォーラ様が腕を組みながら仁王立ちをしている。ここはシーン変わらず彼女の訓練場へや。獰猛な笑顔で僕を睨んでいる。


 神術が完成し、早速ウォーラ様を呼びつけた所、模擬戦と相成りました。クレディオス様とアクイス様は訓練場へやの端っこで椅子に座りながら観戦だ。


「おう、ログ。何ちゃら術の力、見せてもらおうじゃねぇか」


「神術って言ってるでしょ。一泡吹かせてやりますよ!」


「ハッハッハ!上等じゃねーか!」


 ゴオオ!とウォーラ様の体を神力が迸る。僕は内心、超ビビっている。こちとら戦闘は超初心者なんだ。今にも全身震えそうだ。

 でもゲームの仕組みをこの世界に導入して未来を変えるという熱意のおかげでこの場に立てている。そもそも僕は負けず嫌いなんだ。


 気持ちを整理して僕は身構える。先手必勝だ。この僕がウォーラ様と真っ当にやり合うのはどう考えても不可能。僕は掌をウォーラ様に向けて神術を発動しようと、


「そんな悠長にどこ向かって構えてんだ?」


 瞬間、僕の横からウォーラ様の声が聞こえる。僕が手を向けていた方には神力の残滓が残っているだけだった。

 急ぎウォーラ様のほうへ視線を向けるとすでに腕を引き絞り、僕を殴る気満々の体勢だった。


「ア、【水監獄アクアプリズン】!!」


 咄嗟に僕はトリガーワードを叫ぶ。トリガーワードは声に出す必要は無かったりするのだがあまりの恐怖に声を出してしまった。

 水の球体がウォーラ様の顔を包む。アクイス様と考案した水の神術、【水監獄アクアプリズン】だ。意識で指定した場所に水球を作り出す。


「ごぼががっ!!」


 完全に油断していたウォーラ様は急に顔の周囲を包んだ水に驚愕の表情を浮かべて声にならない声を出している。


「よ、よし!」


 僕が歓喜の声を上げた瞬間だった。すぐさま冷静になった様子のウォーラ様の口角が上がったと思ったら次の瞬間、顔から神力が凄まじい勢いで放出され、顔を包んでいた【水監獄アクアプリズン】がパアン!と弾け飛ぶ。

 そのまま神力の青白い衝撃波が僕の視界一杯に迫って来たと思った時には凄まじい衝撃が全身を襲い、次の瞬間には僕の視界に天井が映し出されていた。


 いやいや、顔から神力の衝撃波って。あんた何でもありかよ。飛びそうな意識の中、心の中でそんなツッコミを入れることしか出来ないまま、僕は意識を失った。



***



「がっはっは!いやー、【水監獄アクアプリズン】だっけ?びっくりしたぜ。思わず水飲んじまったじゃねーか」


 ウォーラ様は意識が戻ったばかりの僕の頬をペチペチ叩きながら上機嫌で話しかけてくる。気づくと僕は床に大の字で倒れていたのだ。

 くっそ悔しいんですけど。僕は自分の顔がプルプルと震えていることを自覚する。


「神術、なかなか面白いこと出来んじゃねーか!ログもっと色々作ったらまた私と再戦な」


 上等じゃねーか。僕はいつかリベンジすることを心に誓う。いまは悔しいがウォーラ様のお胸様を睨みつけることしか出来ない。ありがとうございます。


「うんうん。ウォーラも気に入ったみたいだし、よかったね、ログ君」


「ウォーラさん、顔から衝撃波はちょっとやり過ぎでしょう」


 クレディオス様、僕のこの状況を見て。認めてはくれたけど僕は悔しくてしょうがないですよ。アクイス様、そうなんですよ。顔から衝撃波はいけないと思うんだ。


 模擬戦は悔しい結果に終わってしまったが、ウォーラ様にも神術の楽しさ?が伝わり、僕の計画は前進するのであった。

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