吾をまつ海よ

@satzka

吾をまつ海よ

吾をまつ海よ                       






環     高校1年生  女 ミステリアスな転入生

大地    高校1年生  男 ムードメーカ

花     高校1年生  女 物言いはきついが、根は優しい姉御肌

空     高校1年生  男 しっかり者の頭脳派

詩織    高校1年生  女 天然

大地母   (42)   女 肝っ玉母ちゃん

松本先生  (38)   女 話が長い先生







あらすじ


瀬戸内に浮かぶ離島、属島(さつかじま)を舞台にした、5人の高校生の青春物語。

初夏、大地たちの通う属高等学校に1人の転入生がやってくる。環という名のその子はとてもかわいらしく、どこかミステリアスな雰囲気の漂う少女。最初は歓迎ムードだった花や空は、島に馴染もうとはしない環を疎ましく思うようになっていく。そんなある日、いつものように詩織の誘いを断り、一人で帰宅したはずの環が、なぜか校庭に穴を掘る姿を4人は目撃する。翌日、詩織の懐柔により、環は父親が亡くなって、その父の故郷であり、唯一の親戚が住む属島に引っ越してきたこと。また、父が生前心残りだと言っていた、高校卒業時に埋めたタイムカプセルを掘り起こしたいと思っていることが明かされる。そういうことならと一致団結した5人。果たして彼らはタイムカプセルを掘り起こすことができるのか、タイムカプセルを探す方法は、その中身とはなんなのか。彼らが送る、笑いあり涙ありの離島青春物語を見逃すな!!!







(花・空・詩織が教室で喋っている。チャイムが鳴り終わると同時に、大地が駆け込んでくる)



大地   はぁ、はぁ…セーフ!

空    お前、今日もギリギリじゃん。もっと早く来いよな。

大地   仕方ねえだろ。俺だって色々忙しいんだから。

花    朝から何の用事があるっていうのよ。寝坊でしょ?どうせ

大地   まあ、そうとも言う

詩織   そうとしか言わないよ

大地   ってか先生まだ来てないじゃん。セーフだ、セーフ。



(松本先生が教室に入ってくる)



松本   はいはーい皆、席についてー


(全員慌てて自席に座る)



松本   今日は皆にいいお知らせがあるの。実は、この学年に転入生が来たんです。

大地   え、転入生⁉

花    この属島(さつかじま)に、この中途半端な時期に⁉

大地   女子?男子?

花    今日は来てないの?

松本   二人とも、気持ちはわかるが少しは落ち着きなさい。すぐわかるから…入りなさ

     い


(環が入ってくる。教室が沸く)


松本   本土から来た、島田環さんよ。

環    東京から来ました、島田環です。よろしくお願いします。

松本   はい、皆、仲良くしてやってくれよ。そしたらそっちから順番に自己紹か

大地   はい!俺は五十嵐大地!これからよろしくな!

花    私は安藤花!よろしくね!

空    俺は西野空。よろしく

詩織   私は唐沢詩織。仲良くしようね~

松本   この通り、うるさいけど気のいい子たちだから、すぐ溶け込めるから安心しなさい。そうしたら島田はその席に座って。


(環、松本に指示された席に着く)


松本   島田はお父さんがこの島出身でね。それで属に来たそうなの。

     いやーそれにしてもにぎやかになってきたわねえ属も。私が高校生の時は本当に人数が少なかったから

花    同級生がいなくって、休み時間はずっと後輩とキャッチボール、でしょ?

松本   そうそう。その後も一学年1、2人みたいな状況が続いてたんだが、最近は人口が回復傾向にあるの。地方に移り住むiターンブームの影響でね。でもやっぱりその中でも属は…


(チャイムが鳴る。既に四人は環を囲んでおり、松本を見ている者はいない)


空    あ、1限始まっちゃったじゃん。

花    やった、マラソンだ!

大地   お、負けねえからな!

詩織   マラソンが楽しみってすごいねえ…あ、島田さん、着替えこっちだよ~


(全員はける)





(放課後の教室。大地と花が入ってくる)


大地   じゃあお前何秒?

花    私は3分24秒。

大地   おっそー、俺2分51秒~

花    そりゃ性別が違うんだから当たり前でしょ

大地   負け惜しみ~…ってかさ、お前今日どうだった?

花    え、急になに。何のこと?

大地   環ちゃんだよ環ちゃん!めっちゃ可愛くない?

花    あー…

大地   俺今日あんまり話せなくてさー。早く話してみたいわー

花    なにそれ

大地   え?だから仲良くなりたいんだって

花    …なにそれ

大地   え?


(空と詩織が入ってくる)


空    2人とも~?ちゃんとやってる~?

大地   お、おう!もちろん

空    ほんとに~?

大地   当たり前だろ!

詩織   …あれ、花ちゃん何かあった?

花    え?別に何も。

大地   いやこいつと環ちゃんの話してたのに、なんか意味わかんないの。

花    は?別にそんなことないし

大地   あっただろ。あーあ、俺はただ純粋な気持ちで仲良くなりたいだけなのになあ

空    …あーなるほどねー

詩織   なるほどね~

大地   何だよ…あ!お前もしかして環ちゃんのこと嫌いなのかよ!

花    そうは言ってないじゃない

詩織   うん、そっちじゃないと思うな~

花    まあ、でも、ちょっと苦手だけど。

空    あー、僕も。

大地   なんでだよ!

空    だって僕さ、「気軽に空って呼んでね」って言ったわけ。そしたら「はい、わかりました西野くん」って言われたんだけど。どういうこと?

花    え、謎すぎる。

大地   天然なんだよ!きっと!

花    でも普通に感じ悪くない?

大地   気のせいだって気のせい!

花    それに放課後話しかけようとしたのに?逃げるみたいにさっさと帰っちゃって。

空    掃除当番の仕事すら、説明させてもらえなかったもんな

大地   お前らなあ!

詩織   …見知らぬ土地で、新生活を始めるのって、なかなか不安だったりするものだよ。

花    まあ、それは、確かに

空    帰ろう。バス行っちゃうしさ

花    それもそうね…って、時間やばいじゃない!

大地   ほんとだ!よし、ダッシュ!


(4人走ってはける)





(翌日。朝から6限までを早回し。曲が終わるとともに6限が始まり、松本が入ってくる)


松本   6時間目始めるよ~。教科書27ページ。吾妹子(わぎもこ)を早見(はやみ)浜風(はまかぜ)大和なる吾(わ)をまつ海よ吹かざるなゆめ…万葉集の有名な一首だね。えーと、そうしたら、安藤。この歌に使われてる表現技法は何?

花    えーと、擬人法…?

松本   いや、特に擬人化はされていないかな。島田はわかる?

環    掛詞ですか?

松本   正解。ここでは植物の松と動詞の待つがかかってるんだ。島田、良く知ってたね

     この歌の意味は、大切なあなたに早く会いたいなあ。海風よ、遠くの場所からあ

     なたを待つ私の存在を忘れずに伝えておくれ…素敵でしょう?海辺の松の下で

     あなたのことを想っている私の光景が目に浮かぶようで…!


(チャイムが鳴る)


松本   丁度いいところなのに…まあ、今日はここまで…はい、起きてー!


(空、大地の頭をたたいて起こす。飛び起きる大地)


松本   五十嵐。ほんとによく寝るねえ

大地   先生のおかげっす

松本   ありがとうね。罰として教室の掃除よ。

大地   そんな!

花    全く。早く終わらせてよね。待っててあげるから

空    お、珍しく優しい

花    私はいつも優しいわよ

詩織   そうだよね~…ねえ、島田さんも一緒に帰らない?

環    え、あ、私は

大地   いいなそれ!俺急いで終わらせるからさ!

環    …私、やらなきゃいけないことあるので

大地   ああ、そっか…


(環はける。肩をすくめる空花)


花    じゃあ私たちも外で待ってるから

大地   手伝ってくれてもいいんだぜ


(3人はける。大地掃除を始める)







(校舎裏。環が穴を掘っているところを、花空詩織が見つけ隠れる。その後ろから大地が走

ってくる)


大地   待たせたな!こんなところで何やって

空花   しーっ!

大地   おうおう、なんだよ

花    あれ、見て

大地   え?…あ、環ちゃんじゃん。環ちゃー


(大地、出ていこうとする)


空    ばか!


(空、大地の頭を叩く)


大地   痛!なんだよ!

空    なんだよじゃないだろ

花    そうだよ。何してるのか気にならないの?

大地   何って、穴掘ってるだけだろ

空    だから、なんでこんな校舎裏に穴なんか掘ってんだよ

大地   聞けばいいだろ今

花    まだ寝ぼけてんの?そういう問題じゃないでしょ


(大地、振り切って出ていく)


大地   おーい環ちゃん!なにしてんの?

環    え、あの…ごめんなさい!


(環、走って逃げる)


空    あーあ、だから言ったじゃ

詩織   びっくりさせちゃったかもだね~

花    …でも、逃げるってことはなんかやましいことでもあるんじゃない?

大地   やましいってなんだよ

花    えー…死体遺棄、とか

大地   そんなわけねえだろ!

詩織   さすがにそれはないとおもうけど~

花    でも、怪しいことは怪しいわ

空    うん、何してたのかは気になるよね


(一同考え込む)


詩織   …とりあえず、帰ろっか。

空    だね。考えたってどうせわかんないし


(暗転)




(翌日の放課後。環と詩織が掃除をしている。掃除を終え、環が帰ろうとする)


詩織   今日も、探し物?


(環、足を止める)


詩織   昨日。何も目的無く掘っているようには見えなかったから

環    …そうですね、探し物です。

詩織   そっか、やっぱり。何を探してたの?

環    ……ごめんなさい


(環帰ろうとする)


詩織   私ね…私も本土の中学校に通ってたの。でも、色々うまくいかなくてね。お母さんが属に引っ越すのを勧めてくれて、家族3人でこの島に来たの。


(環、足を止めて聞いている)


詩織   本土とはかけ離れたコミュニティー。すでに出来上がっている少人数の友人関係。ここに来るのは、正直かなり怖かった。島田さんもそうだったんじゃない?

環    …はい、私もそうでした。

詩織   だよね。島に来た最初はさ、すごい皆ぐいぐい来るし、やっぱりこの島は私が過ごしてきた世界とは全然違ってて。…でもね、皆こんな私を認めて、受け入れてくれたんだ。あんまり空気とか読むの苦手な私だけど、それも一つの個性じゃんって言ってくれて。


(環、黙って聞いている。反応を見ながら詩織続ける)


詩織   だからね、もし島田さんに抱えてることがあるなら、いつでも支えるよ。だって、私たちは属の仲間だから。

環    …私の父がこの島出身なのは、ご存じですよね

詩織   うん~、松本先生が言ってたね。


(大地花空が教室の扉から覗いている)


環    …二カ月前、父が亡くなって。それで唯一の身寄りの祖母のもとに来たんです。今は、祖母と二人で暮らしています。

詩織   そうだったんだね

環    はい。父が長くないことは知ってましたし、いつお別れが来ても後悔のないようにはしていました。でも、やっぱりすぐに気持ちを切り替えるのは難しくて。ついこの間までは、ずっと家で塞ぎこんじゃってたんです。


(詩織、頷きながら聞いている)


環    でもこの間、ふいに父がベッドの上で言っていたことを思い出したんです。高校を卒業するときに、タイムカプセルを埋めたんだって。それを掘り起こせなかったことだけが心残りだって。

詩織   そうだったんだ。ってことは、昨日はタイムカプセルを見つけようと思って掘ってたってことでいいのかな?

環    そういうことです。

詩織   なるほどね…それで、どんな感じ?見つかりそう?

環    それが、全然で。

大地   だったら俺たちの出番だよな!


(三人出てくる。二人びっくりする)


詩織   びっくりした~…いつからいたの?

花    だいぶ前から

空    お父さんの話が始まったくらいかな

環    そう、だったんですね

花    …あんた、なんでそんな大事なことを早く言わないのよ

大地   おい、お前

環    …ごめんなさい

花    …早く言いなさいよ。そうしたら、もっと早く見つかったかもしれないでしょう?

大地   お前…

花    そんなの聞かされて、協力しないわけにいかないじゃない

大地   お前…!

空    もちろん僕も協力するよ。困ってる島民は、皆で助けないとね

大地   お前…!

詩織   どうする?島田さん

環    …よろしくお願いします

大地   よっしゃー、面白くなってきたな!

花    それで島田さん。タイムカプセルはどこに埋まってるか分からないの?

詩織   わかってないから見つかってないんじゃないかなあ

花    ああ、そっか

環    えっと、具体的な場所は分からないんですけど、

大地   あ!ってか時間やばくね?

空    ほんとだバス行っちゃうよ!

大地   仕方ねえ!続きは俺の家で話すぞ!

環    え、でも急なんじゃ

詩織   大丈夫、属では遠慮は禁物だよ

花    そうそう。それと何かあった時は大地の家集合。これは鉄則ね。

大地   そうだそうだ!よし、早く行くぞ!


(暗転)





(大地の家。大地母が洗濯物をたたんでいるところに5人が入ってくる。)


4人   ただいま~

環    お、おじゃまします

大地母  ちょっと大地!あんた今日もまた布団あげずに…ってあら~皆来てるのね~

花    今日も元気だね、大地ママ

大地母  もう、来るんだったら事前に…って見慣れないお嬢さんがいるじゃないの

環    急にお邪魔してしまってすみません。先日この属島に越してきました、島田環と申します。

大地母  あらーいいのよ、そんなに畏まらなくて!んー…にしても環ちゃん?よねだれかに似てないかしら

大地   あれだろ、小松菜奈

空    小松菜奈なのか…?

詩織   言われてみれば~

花    いや、そうでもないでしょ

大地母  うーん…よくわからないけれど、まあそんな日もあるわよね!

そうだわ母さん裏の畑にお水あげるの忘れてたのよ!もう、困っちゃうわ~

大地   おい、あんまりやめてくれよ

大地母  何言ってるのよ。まあ、母さん畑にいるから、何かあったら呼ぶのよ~。あとあんまり遅くなるならちゃんと連絡しなさいよ!


(大地母退場)


詩織   相変わらずフレンドリーなお母さんだね~

空    小さい時からずーっとこうなんだよ

大地   ごめんね、環ちゃん

環    いえ、そんな

花    大地ママの言う通り、そんなに時間もないんだから、さっさと本題に入るわよ

空    それもそうだね…で、えーっと、ごめんねさっきは。何て言いかけてたの?

環    いえ、全然大丈夫です。えっと、タイムカプセルの場所で、具体的な場所は分からないんですけど、松の木の下に埋めたって言ってました

花    松なんて、島全体で何本生えてるのよ

環    そうなんですよね…

大地   こんな時のための俺たちだろ!力は合わせるためにあるんだ!

花    力を合わせても、島全部の松の木の下を掘り起こすなんて無茶よ。第一その木がまだ生えてるとは限らないじゃない

詩織   うーん…でも、高校を卒業するときに埋めたタイムカプセルでしょう?そんなに変…というか、島の外れとかには埋めないんじゃない?

空    あー確かに。思い出の場所とかに埋めるのが鉄板だよね

花    でも、島田さんのお父さんの思い出の場所なんかわかる?

環    うーん、さすがにそこまでは…

大地   だから!とりあえず掘ろうって!

花    だからどこを!

大地   …とりあえず高校の校庭とか掘ればいいだろ!このままここで話してて結論が出てくるわけじゃねえんだし

空    まあ、一理あるね

詩織   確かに、思い出の場所ではあるしね~

花    …だいぶ無謀だと思うけど、やるしかないわね

環    なんか、ごめんね。迷惑かけちゃって

大地   全然!

詩織   迷惑なんかじゃないよ~

花    こういうときはごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言うのよ

空    そうそう。皆で宝探ししてるくらいの感覚でいいんだよ

環    …ほんとに、ありがとう

大地   いいって!じゃあ明日!9時に校庭集合!

花    え、早くない⁉

大地   どうせ暇だろ?いいじゃねえかよ、休日なんだし!来れないやつとかいないよな?

詩織   私は大丈夫~

空    僕も

花    …私も、だけど

環    もちろん、私は大丈夫です

大地   よし!決まりだな!じゃあ、気合い入れして、今日は解散!

全員   おー!


(4人帰っていく)





(花空詩織環が校庭で松の木の数を数える。大地走ってくる)


花    遅いじゃないのよ

空    10分の遅刻だね

大地   ごめん!いやー母ちゃんに今日こそ布団あげるまで家から出さないわよ!って言われちゃってさあ

環    それは大変でしたね

大地   わかってくれるのか!さすが環ちゃん!

花    はいはい、それであんたが遅刻してきた間に校庭の松の木を数えたのよ

大地   おお!どうだった?

空    全部で6本。大きさからみて、島田さんのお父さんが高校生の時には既に植えられてたもので間違いないよ

大地   なんか探偵みたいだな空!

空    まあね

詩織   じゃあ2つに別れてそれぞれ3本づつ掘るのでいいかな?

花    そうね、そうしましょう


(詩織環空に別れて反対側にはける)



空    そっちはどうだった?

花    なさそう。結構深くまで掘ったけど、何も出てこなかったわ

空    やっぱりそうか…

環    こちらも同じです。

空    もう腕と肩が痛いのなんの

詩織   うーん…やっぱり校庭じゃないのかなあ

環    昨日花さんもおっしゃってましたけど、その木が今はなくなってしまっている可能性もありますしね…

大地   やっぱり島全部掘り起こすしかないのかぁ

花    そんなできもしないことを言わないの

大地   じゃあ他に何か方法あるのかよ!

花    あったら苦労してないわよ!

大地   ないなら文句ばっかり言うなよ!

詩織   二人とも落ち着いて~。大丈夫、タイムカプセルは逃げない逃げない

空    そうだよ。数十年前に島田さんのお父さんが高校を卒業した時に埋めてそのま

     なんだから…

環    どうかしましたか?

空    あのさ、今気が付いたんだけど、タイムカプセルって一人で埋めるかな

詩織   …あ、確かに!

大地・花 どういうこと~?

空    いや、そのままの意味だよ。普通友達とかと一緒に、卒業のタイミングなら同級生とかと埋めるんじゃないかなって

花    …確かに!

大地   空!お前天才だな!…で、それがどうしたんだ?

花    あんたわかってないじゃないの

空    だからさ、一緒に埋めた人がいるなら、その人を探したほうがいいんじゃないかなってことだよ

大地   …ああ!そういうことか!お前天才だな!

詩織   やっぱりわかってなかったんだね~

大地   もうわかったって!要するに、あれだろ?今から環ちゃんのお父さんの同級生

     を探すんだろ?

空    そういうこと。島田さん、お父さん、何期生かわかる?

環    えっと、卒業した年は分かるので、私たちが何期生か分かればわかるかと!

花    私たちは94期生のはずよ

環    えっとそうしたら…68期生だと思います!

大地   計算はや!

空    オーケー、そうしたら資料室にある卒業生名簿で確認しよう

環    休日ですけど、先生、いらっしゃいますかね…?

花    多分ね。松本ならいるんじゃない?学校に住んでるみたいなもんだし

詩織   そうだね~、それにしても空くん、一緒に掘った人がいるなんてよく思いついた

     ね~

空    まあね


(全員同じ方向にはける)




(校舎の中。資料室の扉を開けようとしている)


空    ねえ、やっぱり明日普通に入ればいいじゃん。なんでわざわざ叱られそうなこと

大地   うるせえ、ほらよく言うだろ?善は急げってさ!

花    思い立ったが吉日ってさ!

詩織   鉄は熱いうちに打てとも言うね!

環    う、旨い物は宵に食え、とも。

空    島田さんまで!

大地   空、そんなに心配しなくて平気だって。それより日曜の資料室に忍び込むスリル

     楽しもうぜ!

花    そうよ。それにもう松本先生のデスクから鍵盗んだ時点で来るとこまで来てん

     のよ。腹くくんなさい。…で、まだ開かないわけ?

詩織   うーん、ちょっと待ってね~…あ、開いた!

大地   よし!…えーっと、卒業生名簿はーっと…

空    へくしょーい!…すっごい埃。

花    それに資料の数も多いわね…『属島 火山活動概要』『属島 主な河川とその流

     域』…

詩織   多分こっちの方のあると思う!この学校についての文献が多いから。

環    本当ですね。……『属高等学校 卒業生名簿』!これです!

大地   グッジョブ環ちゃん!

空    えっと、63,64,65,66,67,68!これだ!

大地   よっしゃついに!…って、え?

環    楢崎海、さん…

花    あんたどうしたのよ

大地   楢崎は、俺の母ちゃんの旧姓だ

花    ちょっと待って、確か大地ママの名前って…

大地   五十嵐海。旧姓は楢崎海だ

空    ってことは、大地ママと島田さんのお父さんは同級生⁉

大地   よし、急いでタイムカプセルの場所、聞きに行こうぜ!

環    はい!


(花以外走って出ていこうとする。花、大地を止める)


花    ねえ、ちょっと

大地   なんだよ

花    …大地ママに、何て言うつもり?

大地   …は?

花    …タイムカプセルの話したら、島田さんのお父さんが、もう亡くなってることも、伝えなきゃいけないのよ

大地   …いや、母ちゃんには言わない

花    …は?

大地   だって、唯一の幼馴染だろ?多分…そんな人が無くなってたなんて知ったら、母ちゃん悲しむだろ

花    …そうね

大地   …それに、母ちゃん、ああ見えて色々考えてんだよ。俺が自由にできてんのも母ちゃんのおかげだし…俺は、母ちゃんが悲しんでるとこ、見たくないんだよ

花    …なるほどね。あんた、珍しくちゃんと考えてんのね。

大地   珍しく、は余計だっての


(大地と花が微笑みあう)


空    二人とも~?なにしてんの~?

大地   おお、今行くよ!


(暗転)





(大地の家。5人が入ってくる)


大地   母ちゃん母ちゃん母ちゃん!

花    大地ママ~?大地ママ~?

大地母  んもううるさいわねえ、なによそんなに騒いじゃって

大地   ねえ、母ちゃんって68期生だよね⁉

大地母  やだ、なになに、何のこと?68期生って、学校とかの話?

花    そう、高校の話。

大地   島田陸って人と同級生だった?

大地母  あら、どうしてそんなことを知ってるの?そう、陸は私の幼馴染だけれど…

環    私、島田環っていうんです

大地母  ええ、昨日教えてくれたわよね。そう、島田環ちゃん…

環    …島田陸は、私の父です

大地母  …まあ、そうだったのね!いやだ、もっと早く教えてちょうだいよ!

大地   ああでも、今は海外出張してるらしくて、属には来てないみたいなんだけど

花    う、うん!なんか、すごい南にいるんだってさ!

大地   そうそう、とにかく南な国らしいんだ!

空    え、南?

大地母  …あらそうなの!陸らしいわね~。陸ったら気温が一桁になったらすぐ半袖着るくらい寒がりだったんだから~

空    …それは、大地ママがおかしいですね

詩織   それで、島田さんはお父さんと大地くんのお母さんが一緒に埋めたタイムカプセルを探してるんです。

環    はい。松の木の下に埋まってるってところまでしか分からなくて。あの、どこに埋めたか覚えてませんか?

大地母  タイムカプセル…ああー!はいはい、覚えてるわよー!懐かしいわね~

花    良かった!私たち、今日の9時からずっと校庭掘ってて、もうくたくたなんだよ

大地母  あら、それは大変だったわね。それじゃ9時!明日の9時掘りに行くわよ!

花    え、明日?しかもまた9時?

大地母  ええ。だってほら、言うじゃない。善は急げってね!

詩織   すごい、さすが親子ですね

空    うん。確かな血縁を感じたね

大地母  いやだ、一緒にしないでちょうだい

大地   こっちこそいい迷惑だっての!

大地母  あんたたち、今日もう遅いし、うちで夕飯食べてきなさいよ。今日はハンバーグよ!

全員   やったー!

大地母  ちょっと手伝ってちょうだい


(全員はける)





(海辺を大地母、5人で歩いている)


大地母  いやー、あの陸くんの娘さんだったとはねえ!どうりで誰かに似てるなあと思うわけだわあ!

花    もうびっくりしたよ~。68期生の名簿見てたらさ、島田陸・五十嵐海って書いてあるんだもん

大地母  だって68期生だからねえ!

空    僕たちさ、最初に大地ママのいる前で話してたらもっと早くにここまでたどり着けてたよね

詩織   そうかもね~

大地母  えーっと、どこだったかねえ…たしかこの辺に松の木が生えてて…

花    あれ?今は?

大地母  この間の台風で折れちゃったわよ~

大地   俺たち、もし空が気付かなかったら…

環    考えたら恐ろしいですね…

花    その前に、もし詩織がなにかあるのか聞かなかったら、絶対一生見つからなかったわ。

環    それもそうですね…

花    …だから、これからも何か困ったことがあったら、ちゃんと周りを頼るのよ。いいわね?

環    …はい!

空    あれ~珍しく優しいねえ

花    だーかーら、私はいつも優しいんだって!

詩織   ふふ、そうだよねえ

大地母  わかったわ!ここよ!ここに埋まってるわ!

大地   ほんとか⁉母ちゃん!

大都   ええ。ほら、ここだけ草が短いでしょう?ってことは前までここに木が生えてたってことよ

花    すごい、大地ママがまともなこと言ってる…!

大地母  っていうのと、なんだかこの辺から懐かしい感じがするっていう、動物的勘よ!

空    やっぱり大地ママですね。逆に安心しました

大地   俺の母ちゃんの野生の勘はばかにできねえんだぞ。すげえんだから

大地母  そうよ~、だって野生だものね!

詩織   …とりあえず、掘ろっか~

環    そ、そうですね

大地母  そうね~、じゃあみんな、頑張りなさーい


(大地母はける。全員で掘る)


環    あ…っ!

花    どうした?

環    来たかもです!

大地   まじで⁉


(みんなで掘る。発掘される)


大地   こ、これが…!

詩織   ほんとに見つかるなんて~!

花    早速開けてみましょう!

環    はい!


(開けようとする。開かない)


大地母  みんなご苦労様~今麦茶持ってきたのよ~…って、まあ!ほんとに見つけたのね⁉

大地   さすが環ちゃんだよな!

環    あ、でもちょっと開かなくて…

大地母  あら、ちょっと貸しなさい?


(大地母に手渡す。開く。皆でのぞき込む)


花    あ、開いた!

空    えーっとこれは…二人の3年間の成績だね

詩織   …なかなか独創的でいいですね

環    そうですね…

大地母  あらちょっとやだ~、やめてちょうだい。えーっとこれは、やだ懐かしい。見て~若いでしょう

大地   ほんとだ!とても同一人物には見えないな!

花    この封筒は何かしら

詩織   お手紙とかじゃないかな

大地母  あら、これは…未来の海へですって!陸からの手紙じゃない!

花    こっちのは大地ママから島田さんのお父さんへの手紙みたいよ

大地   おい、読んでみろよ!

大地母  ええ、そうね…「未来の海へ お久しぶりです。お前の唯一の同級生、島田陸です。この手紙を書いている俺は、あと3日で高校を卒業します。そしてあと1週間で、この生まれ育った属を離れます。東京の大学に進む俺の背中を押してくれたのは、海でした。正直、一人で東京に行くのは相当不安でした。でも海は、そんな俺の背中をバシッと叩いて大丈夫と言ってくれました。感謝してます。今この手紙を読んでいるってことは、海の隣には夢を叶えた、立派になった俺がいるんじゃないかなと思います。大人になった俺とも、高校の時みたいに仲良くしてくれると嬉しいです!今までありがとうこれからもよろしくな!」

花    高校生の時から、大地ママは大地ママだったんだね

大地母  ええ?…ああ、そうね。いやだ、私ったら麦茶淹れるときのコンロの火、つけっぱなしだったわ。火事になっちゃう

大地   おい、早く消してこいよ

大地母  そうね~…環ちゃん。これ、陸の仏壇の前にでも置いてくれないかしら

環    あ、はい…って、え?

大地母  …ありがとう。じゃあ皆、またね~

詩織   …知ってたんだね

空    島田さんのおばあちゃんはまだこの島にいるわけだろ?そしたらこの狭い属の中で、知らない方がおかしいだろ

花    …大丈夫かな、大地ママ

大地   大丈夫だよ

花    なんでわかるのよ、そんなの

大地   とにかく大丈夫なんだって

空    …ま、大地のお母さんだしね~

詩織   そうだね、何回怒られても授業中居眠りする大地くんのお母さんだもんね

大地   今それは関係ないだろ!


(雰囲気が和やかになる)


大地   そっか、タイムカプセル…なあ、俺にいい考えがあるんだけど

空    あ、多分僕も

花    私も  

詩織   私も~

環    私も、です!

大地   よし、そうしたら早速動かなくちゃな!

花    そうね、まだ引っ越してきて少しだけど、残り2年半くらいしかないわけだしね

空    忙しくなるなあ!

詩織   すごい、青春って感じだね~

花    まあ、仮にも高校生なわけだし?華の高校生活、しっかり謳歌しないとね!

環    時間なんてあっという間に過ぎていって、すぐ大人にならなきゃいけなくなるんです、きっと

空    うん、そうだね

詩織   ねえ皆んな~写真撮らなーい?

花    ああ、いいわね!写真があった方が盛り上がりそうだし

空    じゃあ、カメラ持ってこなきゃ

詩織   じゃーん!

大地   準備良いな!

花    何でカメラ持ってるのよ

詩織   いやー、なんか面白いことが起きる気がしたから、念のため持ってきてたの~

空    なるほどね!…じゃあ撮るよ。はい、チーズ!



(暗転)






(海辺で4人が待っている。大地が遅れて走ってくる)



空    おい、遅刻だぞ~

花    最後くらいちゃんとしなさいよバカ!

大地   ごめんって、泣くなよ

花    泣いてないわよ!

詩織   そうだね~泣いてないよね~

環    それはちょっと無理があるんじゃ

花    うるさいわね!っていうか全員ちゃんと持ってきたんでしょうね色々

空    ばっちり!

大地   俺も

詩織   勿論だよ~

環    うん!

詩織   皆んな何持ってきたの~?

花    私はみんなで撮った写真と手紙よ

空    僕は今日の新聞と、10年後の自分への手紙。

詩織   私はお気に入りのキーホルダーと、手紙!

環    私はこの間の体育祭のDVDと手紙!

大地   俺は、0点の答案と手紙と~

花    あんたなによこれ

大地   これか?見てわかんないのかよ。花火だよ花火!10年後に掘り起こしたとき、

     やりたいだろ?

空    タイムカプセルに危険物を入れるバカがどこにいるんだよ

環    うん。火薬とか入ってるんだから、ダメだよ。

詩織   そもそも入らないよ

大地   ああ、そっか…

花    なに落ち込んでんのよ。そんなの、これから帰ってあんたの家でやればいいじゃ

     ない

大地   おお、そうだな!やろうやろう!

花    じゃあさっさと埋めちゃうわよ、まったく


(穴を掘り終わる)


空    じゃあ、入れるよ

詩織   うん!

大地   また10年後にな!


(掘った穴の中にタイムカプセルを置く。埋める。少しの間沈黙)


大地   …寂しくなるな

空    仕方ないでしょ。この島には大学もないし、ろくな就職先だってないんだから。

環    …絶対。絶対10年後、掘り起こそうね。皆んなで。

空    もちろんだよ。

花    ああもう!やめてよそういうの。湿っぽい

詩織   もう、泣かないでよ花~

花    だから泣いてないわよ!…ほら、早く大地の家で花火やるわよ!

空    はいはい

大地   おい待てよ~!



(走ってはけるイメージ)




(精神世界。空から順にスポットが当たる)


空    未来の詩織へ いつもありがとう。詩織が属に来て、もう4年経つんだって。早いね。最初は笑顔が少なくて、よそよそしかった詩織が、属の人間を代表して環と話してくれた時、本当に嬉しかったです。そんな優しい詩織なら、本土の大学に戻っても絶対大丈夫!大学楽しもうね!


詩織   未来の大地へ 属に来たばかりの時、大地にはすごく助けられた。ありがとう。大地ほどまっすぐな人は見たことないよ。その有り余る元気さと、すさまじい行動力と、溢れる島への愛で、属島をもっと盛り上げるっていう大地の夢を叶えてください。大地なら絶対できるよ。


大地   未来の花へ やわらかな春光に心躍る季節になりました…なーんてな!お前と空とは赤ちゃんの時からずっと一緒に育ってきて、ほんとにいろんなことをしてきたよな。途中から二人も仲間が増えて、皆んなで笑って、泣いて、喜んで、怒って…日本中の誰よりもいい仲間に恵まれたよ。ちょっと寂しくなるけど、俺たちなら大丈夫だ!これからもよろしくな


花    未来の環へ 最初は気に入らないやつって思ってた。でも、知れば知るほどほっとけなくなって、いつの間にか環も一緒にいるのが普通にな

ってた。本土育ちで、私たちとは違う常識や価値観とかを持っている環は、色々苦労も多かったと思う。ちゃんと力になれてたかしら。…ま、とにかく何かあったら大地の家集合。これは島を出ても変わらないわよ。一人で抱え込んだりしたら許さないんだから!


環    未来の空へ いつも冷静で、周りがしっかり見えてる空は、同い年だけど、お兄さんみたいな存在でした。タイムカプセルだって、空がいなかっ

たら絶対にに見つかってなかったしね。空ならどこに行っても大丈夫!大学の場所も近いし、本土に引っ越した後もたくさん会いたいな

未来の詩織へ 詩織があの時私に話しかけてくれなかったら、私はずっと皆んなに心を開かないままだった。本当に感謝してるよ。ありがとう。詩織は天然だけどしっかりしてて、何でも話せる大切な友達。詩織に何かあった時は、いつで

も私が駆け付けます。

未来の大地へ 属島の雰囲気を体現したような人だよね。細かいことを気にしちゃう私は、大地と大地ママのおおらかな性格に何度も助けられていました。花と仲良くね?

未来の花へ 怖いように見えて誰より優しいところ。寂しがり屋なのに強がっちゃうところ。誰よりも相手のことを考えてる花が大好きだよ。何かちょっとでも悩んでることがあるとすぐ見透かされちゃうんだからなあ。私が属に馴染めたのは花のおかげ。ほんとにありがとう。



(環のスポットが消え、場所が海に変わる。環が歩いてきて、タイムカプセルが埋まってい

る場所に立ち止まり)



環    いってきます、お父さん



(環がはける)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吾をまつ海よ @satzka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る