第2話 盗賊退治
盗賊達が住み着いている廃城に到着した。
先ほど俺達を撃退して浮かれてるらしく、酒盛りしてる。
隙だらけだ。不意打ちするのは容易い。
だが、俺は正面から乗り込む。改心した俺の雄姿を部下達に見せつけなくてはならないからな。
それと、俺の筋肉がどの程度やれるかの確認も兼ねている。
「いい夜だな、盗賊諸君」
俺は部下を後ろに待機させると、酒盛りをしてる盗賊達に堂々と近づいていく。
「なんだ!?」
「また来やがったぜ! 小悪党貴族のギルだ!」
俺の悪名は盗賊にまで知れ渡ってるのか。これを払拭するのは大変だぞ。
そう未来を憂いた俺は、ゆっくりと歩みを進めながら、盗賊達に死を宣告する。
「王女殿下の命により、貴様らは皆殺しだ。ここから逃げることは叶わないと知れ」
悪人は死すべし。慈悲はないのだ。
「はっ! 雑魚い魔法しか使えないガキの分際で性懲りもなく絡んできやがって!」
「やっちまえ!」
叫びながら飛び込んできた一人の盗賊に、俺は挨拶代わりのジャブを放つ。
これで俺の実力もはっきりするだろう。そう軽く考えていたのだが、直後にまるで予想だにしてなかった事態が起こる。
「ぷげらっ!」
奇妙なうめき声を発して、盗賊は爆散した。
吹き上がった血や肉片があちこちに散らばる。
「「「……は?」」」
盗賊達は呆ける。
後ろで待機している部下達も似たような反応をした。
どうやら誰も状況を理解できていないらしい。
そして俺もまた、呆然としている。
いや、見えはしたんだ。俺のパンチを腹に受けた瞬間、全身が弾け飛ぶ盗賊の姿が。
でも、その光景に現実感がなさすぎて受け入れられない。
誰もがショックを受けて動けない中で、最初に正気に戻ったのは、盗賊の親分みたいな男だった。
「魔法だ! 魔法を使ってきたぞ!」
……魔法? なにを言ってるんだ、こいつは。
「あれは上級魔法の【ショックウェーブ】だ! お前ら、気を付けろ! 奴は不可視の衝撃波を発生させる魔法を使ってくるぞ!」
いや、ただのパンチなんだが……。
もしかしてこいつ、俺の拳があまりにも速すぎるから、それを魔法と勘違いしてる? 敵の視点だと俺はただ突っ立ってるだけに見えるとか?
いやいや、そんな馬鹿な。
この体はあの小悪党のギルだぞ? いくら裏設定が組み込まれてるからって、そんなに強いわけない。
うん。一度だけだと偶然だったということもあり得る。
俺は再びパンチを繰り出すことにした。ただし、今度はジャブ程度ではなく、本気で。
しかし次の瞬間、俺は前世の格言を思い出す。
──高度に発展した科学は魔法と見分けがつかない。
なるほど、一理あるだろう。
では……高度に発達した筋肉は?
答え。同じく魔法と見分けがつかない。
俺が本気で放った拳の風圧は、巨大な竜巻を引き起こした。
それは天空に浮かぶ雲まで巻き込んで、無数の雷を食らう。
食らって、食らって、食らい尽くす。
その先に顕現したのは……稲妻で構成された竜巻だった。
あるいは雷の螺旋、とでも言うべきだろうか。
それが全てを飲み込みながら一直線に突き進む。
廃城が消し飛び、大地が割れて、天が震える。
天変地異だった。
人が決して支配できない自然災害を、俺の筋肉は再現していた。
「ば、ばかな! これは千年前に世界を支配した大邪神ガイザール様の究極の魔法、【ゴッドジャッジメント】!?」
いや、全然物理ですけど。
俺は白目を剥きながらそんなことを思う。
一体どうなってるんだよ、俺の筋肉は。
「ようやく分かったぞ……。最強だったガイザール様がお亡くなりになった理由が。お前がガイザール様を滅ぼしたんだろう、大魔法使いギル・リンバース! ガイザール様の魔法を奪ったな!」
いいえ、人違いです。これは俺の筋肉が勝手にやったんです。
……と答えそうになったがそうはいかない。俺は魔法師団の団長としての立場を守らないといけないんだ。ここは肯定あるのみ。
「そ、そのとーりだ」
あまりにも嘘すぎて、声が震えてしまった。
というかどうでもいいけど、なんで千年前の魔法のことをただの盗賊の親分であるお前が知ってるの?
「ちくしょおおお! まさか、こんなところで大魔法使いと出くわすとはっ……! 申し訳ありませぬ、ガイザール様ぁあああ!」
雷の螺旋に飲み込まれて、盗賊の親分は消し炭になった。
他の盗賊達も既に塵一つ残さずに死んでいる。
それと共に、螺旋はほどけて消えた。
もしかしたら、この親分にも裏設定があったのだろうか。原作にはガイザールなんて邪神、名前すら出てこないし。
「ギル様!」
部下達が駆け寄ってくる。
そして一斉に跪いた。
「あれほどの魔法を使いこなせる大魔法使い様だったとは知りませんでした!」
「やはり何かお考えがあって悪党のフリをしていたのですね!」
「一生ついていきます!」
こ、これはいかん。あまり担ぎ上げられると勇者と接触する羽目になるかもしれない。俺は目立ちたくないんだ。悪役でも勇者でもなく、普通でいいんだよ。
というか、やっぱりお前達もさっきの天変地異が魔法だと思ってるのか。あれはただのパンチだぞ。
「そんなに威張ることではない。さっきのは偶然だ」
俺の答えに、部下達はまた湧く。
「偶然だなんてそんな!」
「なんて謙虚なお方なんだ……」
「流石は大魔法使い様です!」
「い、いや本当に──」
俺が否定しようとしたら、ロゼリアが被せてきた。
「承知しております。なにか深遠なる理由があって正体を隠されているのですよね? ご安心ください! 私達は誰も口を割りません!」
熱く語るロゼリアに、部下達が追従する。
やばい……。傷が浅い内に否定しないと。
そう思った俺は、ごくりと唾を飲み込んで、言った。
「わ、分かればいい。内密に頼むぞ」
また嘘をついてしまった。
部下達のキラキラした瞳に負けたのだ。
彼らの期待の眼差しを否定することは、俺にはできなかった。
あと、褒められてちょっとだけ気持ちよかった。
しかし……これでもう後戻りできなくなったかもしれない。ひょっとして、勇者に殺されるシナリオに突き進む可能性が高くなったんじゃないか?
俺は少しの不安と罪悪感を抱えながら、街へと帰還した。
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