第6話 伯林青
「それじゃあ、ことちゃん、また明日」
「うん、また明日もよろしくね、リアさん」
ことちゃんを無事王城に送り届けて、エデルとも別れて私はひとり城下へ。
人通りの少なくなった道を走り抜ける。一応周りに気を付けてはいるけど、それでも早く会いたいのが強くて、気付けばかなりのスピードが出ていた。
「うわ、やば。目立っちゃうかも」
もう大分目的地には近づいたし、ここからは歩きで良いか。
てくてく歩いていくと、段々周りが静かになっていく。当たり前か、もう暗い。
目的の店に着いて、ドアノブに手をかけた。……とたん。
「うわっ!?」
内側からドアが開いて、転びかけてしまった。
出てきた人にぶつかって、抱きとめられたお陰で転ばずに済んだ。
「大丈夫ですか、リアさん」
「うん、へーき。ありがとね、天。あ、まだやってる?」
「ええ、一応。今日はお客様が少ないのでもう閉めようかと思っていたところですが、あなたがいる間は開けておきますよ」
「えー、別に良いよ。私、天に会いに来ただけだもん」
出てきたのは、この店の本元の商会の会頭、藍染天。
何で居るのかは分からないけど、忙しいながらここにちょいちょい顔を出すらしい。会いやすいから別に良いけど。ちょっと心配になってくる。
体を離してするっと店に入る。
何度か来ていて勝手知ったる店内を歩き回り、締めの作業をしている従業員の間を通り抜けてスタッフルームに入り込む。
ほぼ家のような造りになっているそこの一室に入り、勝手に長椅子に座っては机に向かった。
「あなた、何をしているんですか」
「えっとね、書き物。今日、書いて渡すって約束したんだよね」
「……その約束のお相手は、今日召喚された革命者様ですか?」
驚いてぱっと天を振り返る。確か、箝口令敷かれてた筈だよね。何、どっから漏れたんだろう。
「何で知ってんの」
「さあ、どうしてでしょうね」
くそ、笑顔がいつも通り過ぎてなんにもわかんない。
ついでに口元に手を持ってくる仕草が上品すぎる。なんだこいつは。昔はちょっと大人びてる程度だったのに。
きっと、もうこいつに何を聞いても無駄だろう。
情報源を聞き出すのを諦めて、改めて机に向き直る。
ペンとインクは置いてあったのを使わせて貰って、紙は自分で持ってきたもの。
暫くペンを走らせていると、時折影が落ちる。
「こら、プライバシーの侵害だぞ。覗くな」
「そんなに重要なものでもないでしょう」
「そうだけど!それでも、あんまり気分良いもんじゃないの。……見るなら、隣座りなよ」
隣に座った天の視線を受けながら、ことちゃんに渡す資料をどんどんまとめていく。
貨幣、魔法、簡単な地理、簡単な法律なんかのことを、東の国と照らし合わせながら書いた。
張り切って書いたからか、かなり枚数が多くなってしまった。
読んでくれるかな?まあ、読めそうに無いようだったら、渡すだけ渡して要約でもしてあげれば良いだけか。
「読む?ついでに誤字脱字チェックも兼ねてさ」
「いえ、遠慮しておきます」
「なんだよ」
「それより、もう帰った方がよろしいのでは?そろそろ日付の変わる頃ですが」
言われて時計を見ると、まもなく12時。ほんとだ、いつの間にか真夜中。もう少し早く声かけて欲しかったなー。
……ってかお腹空いた。今この時間って店やってるかな。やってないだろうなあ。
まあいいや、ちょっとしたお菓子位ならあるし、寮に戻ったら何か作ろ。
「うん、帰る。……あ、はい。この時間まで付き合ってくれたお礼」
取り敢えず鞄に入ってたクッキーを天に渡して、窓から外に出た。警備の人ももう慣れたみたいで、手を振ってくれる。
最初は不審者扱いされたもんだけど、今やすっかり信用されてるな。嬉しい限りだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます