金で解決するぞ!【浪平光恵編】

主人公の同期社員の浪平光恵なみひらみつえを俺は堕とそうとしている。


「よかったら、話でも聞こうか?」

「いえ、私のことなんて今更部長に話すことはないですよ……」


でも、俺は知っている。


光恵の両親は彼女が幼い頃離婚して、母親が女手ひとつで彼女を育て上げていた。それで光恵は奨学金の返済に追われている、という設定がある。


エロゲ本編だとそれに加えて母親が多額の借金を抱え、夜の店も掛け持ちしようか、というところで主人公が止めに行くのがシナリオのハイライトになる。


「例えば……経理から聞いたんだ。奨学金の返済に追われているそうだね?」


その言葉に光恵はびくんと身体を震わせる。社員の情報を簡単に喋る経理がどこの世界にいるんだって話だが、残念ながらここはエロゲの世界だ。そんなコンプラなんかクソ喰らえだ。


「はい……あの、こんなこと、部長に相談できるかどうかわからないんですけど……」


なんだいなんだい?

おじさんに話してみなさい?


それから光恵は涙を流しながら奨学金と母親の借金の返済について俺に打ち明けた。俺は全部知っているんだけどな。でも知らないフリしてめちゃくちゃ驚いておくことにしよう。


「そんな……君にそんな大変な事情があったなんて、想像もしていなかった」


俺は光恵の目を見つめる。


「私でよければ、何でも力になろう」

「でも、悪いですよ」

「そんなことない。可愛い部下のためだ」


そう言って俺は懐から小切手を取り出す。


「奨学金の残りの返済はいくらだ?」

「え!そんな!急に何ですか!??」

「いいから!まずは奨学金という悩みをひとつ消して、それから借金返済の計画を立ててやろう」


俺は無理矢理光恵から残りの金額を聞き出すと、その額を小切手に記入した。どうせこの世界はゲームの世界だ。俺の財布はどうやら何も設定されてないようなので、俺の意思でいくらでも金は沸いてきた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


地にひれ伏さんばかりに光恵は深々と頭を下げた。


「いいっていいって。若い人のために金を使うことは当たり前のことだから」


俺はそう言って、伝票を持って立ち去ろうとした。


「部長、あの」


来た。


エロゲのシナリオと一緒だ。

夜の仕事をしない代わりに主人公と一緒に返済計画を立てる約束をすると、光恵とのフラグは完璧なものになる。


「何かね、浪平君」


俺は平静を装う。


「私、少し酔ってしまったみたいで……」


キタキタキタキタキタキタ!!!


落ち着け俺。

まだ確定じゃないぞ、落ち着け。


「それで、もう少し部長とお話を、なんて……」


ハイ確定来ました!

エロパート来ます!


「そうかい?」


俺は座り直す。


夜はこれからだ。

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