主人公、ウザいぞ

その日の夕方、外回りから帰ってきた主人公が俺の前に現れた。


「あ、あの……S山食品との打ち合わせなんですが」


俺の務める会社は確か広告会社だった。そこの営業で童貞の主人公はいつの間にか社内恋愛をして……みたいな話だったな。


「S山食品、だって?」


S山食品……俺は攻略ルートを真剣に思い出す。


「お前、打ち合わせは午前中で終わってたよな?」

「い、いえ!そんなことは!?」


焦ってる焦ってる。


俺は知ってるんだ。この主人公が同期の浪平さんと一緒にランチを食べに行って、少しイイ感じになったからちょっとホテルで休憩してきたことを。ついでに浪平は直帰になっている。畜生が。


「まぁ、なんだ……いろいろアクシデントもあるだろう。しかし、所在もわからないとこちらから何かあった時に大変困る。なるべく所在は明らかにしておくように」


俺は内心の煮えくりを抑えて、理解ある上司を演じてみせる。


「は、はぁ……」


なんだそのやる気ない返事は!?


ゲームやってる時は気にならなかったけど、こっちが優しくしてやってるって言うのにコイツ本当はウザくないか!?


いや、コイツこの後浪平さんとシケこんだってのに第二章とか言って爆乳先輩に手ェ出すんだよな!!??


浪平ちゃんの気持ちどうなん!?

お前わかってんのか!?


……いや、落ち着け。


エロゲの主人公のやることなんてそんなもんじゃないか。


俺は違う。


紳士的に俺は攻略対象を愛している。

浪平ちゃんだって、ほかのターゲットだって、平等にみんな俺の……何でもない。


とにかく。


俺はこんな奴から攻略対象を守らなけれはならない。


こうしてパワハラ上司の破滅エンドも回避しつつ、攻略対象の保護も俺の目標になった。


目下やることは……俺がフリーになることだな。


俺は見たこともないけど亜久山の奥さんと離婚した。

向こうも俺に愛想を尽くしていたらしいから円満離婚で済んだ。


さて、今度は攻略対象だ。

とりあえず既に毒牙にかかっている浪平ちゃんから救わなければ。

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