フォルティシモff

藤田茂修

第1話 プロローグ

カチッ カチッ カチッ


夕日に紅く染まる部屋の中

その音が響く

時には小気味良く

時には鬱陶しく

その音は確かに響いている


小さな部屋の片隅のベッドの上で紅く染まる天井を見上げながら、如月舞はそれを感じていた。


それは、時計が時を刻む音

時が進む音

日常が動いている証の鼓動


舞は学校から帰宅するなり、誰も迎えの居ない玄関やキッチンを通り過ぎ、今居る自室へ入り、鞄を部屋の中へ投げだし、次には制服姿のままの自分自身をそのベッドへと投げだした。


ぼうっと天井を眺めていた、舞の耳からは時計の音は消えて、今日の昼間に学校で起こった出来事がリフレインされた。


その時、舞は友達の葉月美奈と共にお弁当を二人してどこで食べようかと、談笑をし合い決めている所だった。


だが、その時にふと校庭に居る生徒や講師達のざわめく声を耳にし、舞と美奈は会話を止めてそちらに目を向けた。


校舎の屋上に一人の人が立っていた。

舞には、それが誰であるかはっきりと解った。

その人は女性だった

音楽教師の卯月愛だった

だが、その屋上に立つ愛の表情は血色が無く

生気も感じられなかった、それは舞の目にはまるで蝋人形の様に見えた。


舞が なんで? とか どうして?を口にするによりも早く、愛は校庭に落ち、そして真っ赤に変わった。


カチッ、カチッ、カチッとまた舞の耳にその音が響き始めた。

舞はまだ、天井を見上げていた。

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