八丈島決戦編
第12話 ネオ日本脱出計画
ネオ日本のプリンセスが男性と交際していたというニュースはネオ日本中を轟かせた。
フェミニズム時代において男性との交際は、俗物的なスキャンダル以上の意味がある。プリンセスが男性と交際するというのは、国家を代表する人間が犯罪を犯すのに似ているのだ。
渦中のプリンセスの名前は雅香。肩まで伸びている髪に古風な顔立ちをしている。SNSでエゴサーチした彼女はその顔を苦痛に歪ませる。
エゴサーチの結果は惨憺たるものであったからだ。自分の人格に対する中傷、彼氏に対する中傷、皇室に対する攻撃など自分自身であったり、自分の身の回りのものであったりを全て攻撃してきているのだ。
「弱い者いじめしやがって。なにがフェミニズム時代だ」
雅香は腹を立てて、壁をぶん殴った。拳に鈍い痛みが走るだけで、この気持ちが晴れるわけではなかった。
雅香は報われない気持ちを抑え込み、ベッドに飛び込む。
気分転換をしようと電子書籍で読書しようと考えていた時、一件のSNSが通知された。
『プリンセスの彼氏を特定』
の投稿と共に、彼女の彼氏のイギリス人のレオパルド・フィンがリンチされる動画が投稿されている。
これを見て、SNSは大盛り上がりしていく。
「人をリンチする動画で盛り上がるなんて野蛮すぎる」
雅香はこの国のプリンセスでいることを惨めに感じた。
「レオ。この国を出るわよ」
雅香は衝撃の提案をするのだった。
ステラの歓迎会で疲れ切って私室で休んでいるベルをリーが訪ねてきた。
「ベル様。お休みのところ申し訳ございません。今、お時間よろしいでしょうか?」
「ああ」
ベルの了承を聞くと、リーが彼女の部屋へと入った。
「それでストロベリー幸房の件はどうなっている?」
「ストロベリー幸房の建物に関してはムーンC社が全て持ってくれるとのことです」
「ムーンC社が持ってくれるのか。それはよかった」
「ベル様の部屋に参ったのはただの経過報告ではございません。次の仕事についてです」
「分かった。早速執務室に移動して報告を聞こう」
「いえベル様。依頼者はもうこちらの客間に呼んでありますので、そちらまでご足労願います」
「客がアナグラに直接来るなんて聞いたことないな」
ベルはリーが簡単に依頼を引き受けることにも、直接来て依頼する形式だということにも疑問を持ったが深くは突っ込もうとしなかった。
ベルは疑問に思いながらも依頼人が待つ客間へと向かった。
客間のソファに二人の客人が座っていた。イギリス人と思われる白人男性と、古めかしい顔をした日本人の美人だ。
「あなた方が依頼人でしょうか? 私はベル・ウララ。アンチフェミーのリーダーをしております。なにとぞお見知りおきを」
「ベル様。彼女はネオ日本のプリンセスの雅香様です。隣にいるのは彼氏のレオパルド様でございます」
「プリンセスとそのフィアンセでしたか。世情はラジオでしか手に入れることが出来ず、浅学を晒してしまいました」
「いえ。お気になさらずに。そういう態度の方が私共としては気が楽ですから」
と雅香は柔和な笑みを浮かべて言った。
それと同時にベルの中では依頼を引き受ける意味が理解できた。リーは、アンチフェミーを支援する中国の富豪フェイ・ウィリアムに依頼を受けるように指示を出されたのだと。
(この依頼を成功させればネオ日本の国際的な評価は下がる、か)
とベルは頭の中で色々考えていることをおくびにも出さずに、笑顔を作る。
「ありがとうございます。それでご用件をうかがいたいのですが」
ベルは本題に入るように二人に促す。
「私達はネオ日本に見切りを付けました。なので彼の母国であるイギリスに逃げたいと思いまして」
「我々にその手伝いをしろということですね」
「はい」
と雅香は頷く。
「僕達は堂々と愛し合いたいんだ。だから今回はお願いします。それともし最悪なことがあったら私を切り捨ててください。そうすれば多少の時間稼ぎができると思いますので」
レオパルドは自分が犠牲になるという旨を伝えた。
ベルは彼の自己犠牲の気持ちを汲み、逃避行を成功させようと決意した。
「では向こうが動きに気付く前に早急に作戦を練り、実行すると致しましょう。リー、会議を行うから主要メンバーを呼ぶんだ」
ベルは決断し、リーに指示を下す。
「作戦はこうです」
ベルはテーブルに地図を広げる。
「まず現時点。つまりネオ東京から静岡を目指します。静岡に我々に対して協力的なアンチフェミニスト組織がいますので、静岡から八丈島を海路で渡ります。八丈島に置いてあるプライベートジェットを用いて国外に脱出いたします。以上が作戦の概要です」
とベルが説明する。
「八丈島にフェミニストが先回りしていることはないの?」
「フェミニストは今の時点で雅香様とフィアンセのレオパルド様を捜索していることでしょう。素早く動かなければ東京に包囲網が形成され封鎖されてしまうのです。八丈島は東京から遠く離れており、そこまで手を出すのに時間がかかります。この間に脱出出来たら我々の勝ちです」
「分かりました。いきなりの依頼なのにここまで対応してくださり、ありがとうございます。報酬はイギリスに着いてからきちんと振り込みます。それとあなた方の活動をバックアップできるようにもしたいと考えています」
「そのお気持ちだけで大丈夫です。それに報酬もお二人の生活に差支えがないほどでいいですから」
ベルは雅香の心からの感謝を感じ取った。
「ベル様。ジープの準備が出来ました。マップのことは彼らにも伝えてあります」
「ステラには伝わってるか?」
「はい。ステラ様もベル様と一緒に行けるならと急いで準備を行い、間に合わせております」
「お二人共。私についてきてください。リーは待機しているジープまで私を案内しろ。その後は隊員達に撹乱するように指示を出せ」
「承りました」
リーはベルの指示に頷く。
ベルはリーに案内され、ステラと隊員が待機しているジープに乗り込む。
「やぁベル。一緒に出掛けるなんてまるでデートみたいだね」
「ステラ。遊びじゃないんだ。私は助手席に乗るから君はお二方を守れるように後ろに乗ってもらっていいかな?」
とベルはステラに雅香とレオパルドを守るようにと指示を出す。
ステラも渋々それに従い、後ろの席に移った。
「雅香様。レオパルド様。後ろは窮屈ですがしばしのご我慢を」
「私達の国外逃亡を手伝っていただけるんですもの。文句なんて言いませんわ」
「ともかく成功してほしいと思うまでです。僕と雅香は愛し合っているんだから」
雅香とレオパルドの答えにベルは頷く。
「出発してくれ」
ベルは運転席に座っている隊員に指示を出した。
静岡県静岡市。
アンチフェミニスト組織海の男達拠点。オス三昧。
「拠点制圧完了。プリンセスはアンチフェミーと関わっていたみたい」
アリスは無線でエルルに言う。
「それなら泳がせておこう」
「ええ」
「お前とベルが一対一で戦えるように配慮してやろう。これはお前の技量に対する敬意だ」
「エルル。あなたの配慮には本当に痛みいるわ」
「そういうつんけんした態度だと皮肉に取られるぞ。ツンデレするのは大好きなベル・ウララの前だけにしておくんだな」
「やかましい」
「悔いのないようにな」
そう言って通話を終える。
「私はここでベル・ウララを待つわ。お茶を出しなさい」
ベルは海の男達の隊員にお茶を出すように指示をするのだった。アリスがお茶を楽しんでいるところに一人の来訪者が現れるのだった。
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