フェミと銃

マイケル・フランクリン

少女編

第1話 フェミと銃 


 ”男女間の犯罪率の差が三十倍以上ある”とネオ東京大学が研究成果を公開した。それと同時に男性による強姦事件や殺人事件が急激に増加した。

 その結果、女性の権利、生命を守るための法案である限定的武器携帯に関する法案が採用されることになった。

 女性のみ武器を持てるようになった結果、女性の機嫌により男性を簡単に殺すことが出来るようになってしまった。男女間で超巨大な格差が生じるフェミニズム時代が始まったのだった。


 ネオ東京郊外。山中。フリージェンダー学園処刑場にて。


 痴漢を働いたクソオスは処刑場を引きずり回されてボロボロにされた後、磔にされてしまう。

 この男が痴漢をしてしまった内情を追うと、このフェミニズム時代の闇が見えてくる。

 女性だけ行使できる武力を背景に男性はハードワークを押し付けられ、気に入らないと言われれば銃殺されるのだ。そのため仕事を断ることもできず、休日はほぼない状態だ。休日があったとしても、プライベートで失言すれば女性に殺されてしまう可能性がある。つまり、男性の命というものが極端に軽いというのも一因である。



 そのことを男は死を覚悟して女の尻を触ったのである。しかし運が悪かったのはフリージェンダー学園の生徒のお尻を触ってしまったことである。


 そう。その被害者こそベル・ウララである。

 亜麻色の髪と黒い瞳が特徴の少女。背丈と体型は平均的なごく普通の中等部の生徒である。



「このクソオス大山岡太郎はベル・ウララさん。あなたがこの男を撃つのです」

 中等部一クラスを担当する戦闘訓練授業の教師アリゾナ・プラムはベルに銃を手渡す。

「殺すなんてやりすぎです。私はきちんと罪を償ってくれれば」

「私達女性はかつて男性型社会の中で生きていくことを強いられました。この愚かなクソペ〇ス共めに支配されてきたのです。だがしかし世間の潮流は変わった! フェミニズム時代が始まり、女性型社会になったのです。あなたがここでこのクソオスを殺さないということは、今の社会に背く重大な違反行為なのです」

 とアリゾナは熱弁する。



「ベル……早く殺してしまいなさい。あなたまで悪者になってしまうわ」

 と発言したのはアリス・F・ミラー。桜色の髪に緑色の瞳を持つ美少女。成長途中であるが、女性的なラインを描き始めている。



 それでもベルは銃を構えることを躊躇った。

「撃たないというならおまえを打ちます。犯罪者などに私は加減いたしませんよ」

 とアリゾナは脅す。

 ベルは暴力という脅威に怯えて、銃を構える。


「よろしい。いつも通りやってみなさい」

 とアリゾナは命令する。

 しかしベルにはそれができなかった。


「なぜできない!」

 ヒステリーになったアリゾナはベルの頬をぶった。

「おかしいです。私達は男、女という前に一人の人間です。男だから殺してもいいというのは肌の色や人種の差別と大差ないじゃないですか。ここはレイシストを教育する学校なんですか!」

「愚か者!」

 アリゾナはもう一度ベルの頬を打つ。


「言葉でなにも言い返せないからって頬をぶつのはおかしいです」

「ベル。もう先生に反抗するのは止めて」

 アリスはベルがぶたれるのを見ていられなくなり、彼女の行動を止めようとする。


「そうです。もしあなたがここで大山岡を殺さないというのなら学内逮捕を行い、フェミニスト裁判を行いますがその覚悟はよろしいですね」

 とアリゾナは問う。


 フェミニスト裁判という言葉にベルは怯んだ。フェミニスト裁判は、学園内でアンチフェミニストの思想を持つと疑われた生徒にかけられる裁判である。新設された学園で行われる裁判ということもあり、司法制度は本物の裁判よりかなり稚拙である。その上アンチフェミニストは悪という風潮が学園全体に根ざしているため、裁判をかけられた時点で有罪が確定されるようなものである。


 有罪になった生徒はどうなるか。当然退学である。ただそれだけでは済まない。退学手続きをした後、彼女達は更生しなければならない非行少女とみなされてアンチフェミニスト更生施設である教育院に収容されることになる。



(教育院での生活は苛烈だと聞いたことがある。でも……)

 ベルは意を決した。


「大山岡さん。あなたに質問があります。あなたは痴漢したことを後悔していますか?」

 とベルは問う。

「はい。後悔しています。自分を守ってくれる勇敢な少女を怯えさせてしまったことはとても最低な行為だと反省しております」

 と大山岡は自分の気持ちを述べた。



 それを聞いたベルは銃を捨てた。

「大山岡さん。私はあなたを許します」

「ベル・ウララ。あなたはなにを考えているんですか?」

「私は男だから死刑というのではなく、法と良心の下で適正な裁きを受けて欲しいと思っています」

「どけっ」

 アリゾナはベルを突き飛ばし、銃を素早く回収する。その後、即座に大山岡を撃った。



「そんな……なんであなたがそんなことをするんです?」

「犯罪を犯したクソオスは皆殺し。それがフェミニズム時代の道理です」

「違う。あなたの道理は外道の道理です」

「あなたは逮捕です。ベル・ウララ」

 とアリゾナは冷たい声で告げる。



「くっ」

「待ってくださいアリゾナ先生。ベルは痴漢されたことの恐怖で錯乱しているんだと思います」

「アリスさん。C級とはいえ、中等部で国防を担うフェミニストの一員になっていることは尊敬いたします。しかし、だからといってあなたの言葉がなんでも通るわけではありません」

「分かっています。しかしお許しを。ベルにはきつく言い含めておきます」

「私はベル・ウララを逮捕します。それは決定事項です。お下がりなさい」


「ベル。なんでよ。なんでこんなことをしちゃうのよ」

 とアリスはベルに対して激しい怒りの感情を見せた。


「アリス。私のことを最後まで庇ってくれてありがとう」

「そんな……」

「大丈夫。後悔してないから」

「そんなことを言ってるんじゃなくて」


「アリスさん。離れててください」

 とアリゾナは言う。彼女は胸に忍ばせていた手錠をベルに掛けた。



 彼女を強引に立たせて、地下にある学生収容房に収監した。

 

「ベル・ウララさん。裁判の日程など決まったら別の人間が報告しに来ます。それまで反省していてください」

 とアリゾナは淡々とした口調で告げた。


 ベルの心中には反省という文字はなく、ただ彼の命を守れなかったという苦い事実が鎮座していた。



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