第33話:瑛人の力

「こ、このっ!」

「!!」


 だが、やはり慣れない術はほとんと効かない。

 痛みを与えただけのようで、亮介りょうすけが血走った目で睨んでくる。


 亮介の手が大きく振り上げられた。

 衝撃に備え、六花りっかは目をつぶった。


「六花!!」


 懐かしい声に、六花はハッと目を開けた。


「瑛人様!!」


 軍服姿の瑛人あきとが六花の姿を目にした途端、険しい表情になる。


「おまえっ、六花に何をしている!」


 瑛人の拳が顔面をとらえ、亮介は壁まで吹っ飛んだ。


「瑛人様!!」


 駆け寄った六花を、瑛人がしっかと抱きしめる。


「大丈夫か!? 六花、怪我は!!」

「平気です!」


 蹴られ殴られ体のあちこちが悲鳴を上げているが、瑛人が来てくれた喜びが勝った。


「待て!」


 部屋から飛び出した亮介を、瑛人が追う。

 転がるようにして階段を下りた亮介は、一階の応接室に飛び込んだ。


「あ――」


 ふたりの後を追った六花は亮介の目的を察知した。


「瑛人様! クダギツネです!」


 応接室から出てきた亮介が、竹筒を抱えて出てきた。その数、二十はあるだろうか。


「おまえも六花も死ね!!」


 亮介が次々蓋を開け、竹筒を放り投げる

 中から、黒い塊が勢いよく飛び出してきた。


 黒い獣毛の中から、赤い小さな目が凶暴に光る。

 クダギツネたちが瑛人たちに向かって一斉に飛んだ。


「瑛人様!!」

狐火きつねび


 凜とした声が響くと同時に、ボッと宙に青い炎が浮かぶ。

 一つ、二つ、三つ――瑛人を取り囲むかのように青い炎が次々と咲く。


 すっと瑛人が前方を指差すと、青い炎は指し示す方向へと矢のように飛んだ。

 一瞬にしてクダギツネたちが青い炎に包まれる。


「ギーーーー!!」


 断末魔と焦げ臭い匂いを残し、消し炭と化したクダギツネたちの残骸が床にボトボトと落ちる。


「は……?」


 一瞬にして決した戦いに、亮介がぽかんと口を開けている。


「ふん。まさか本当に俺に通用すると思ったのではないな? この白狐の俺に、眷属けんぞくでも最弱のクダギツネが勝てるとでも?」


 白銀の髪にはいつの間にか立派な獣の耳が生えており、ふさりとした尻尾が揺れる。


「あ、ああ……」


 亮介がへたへたと床にしゃがみこむ。


「この屋敷を血で汚したくない。今回だけは見逃してやる」


 すっと瑛人が足を進め、怯えた顔の亮介を見下ろす。


「次はないぞ」


 それは脅しでも何でもなく、ただ事実だと声音が語っていた。

 亮介は震えながら何度も頷いた。

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