第25話:皇都の春美
同じ頃――六花の従姉の
憧れの皇都で女学校に通うためだ。
母の悲願でもあり、春美の希望どおりの皇都での学生生活を始めて一週間がたつ。
後ろ髪には大きなリボン、華やかな模様の着物に袴――雑誌で見た皇都の女学生の姿をしている自分にうっとりとする。
洒落た
だが、春美は現状が思い通りにいっていないと認めざるを得なかった。
里では褒めたたえられた美貌も、都会の一流女学校ではさほど目立たない。
美しく洗練された、育ちのいい同級生たちが幾人もいる。
ほとんどの生徒が生まれも育ちも皇都というなか、田舎からひとり出てきた春美は悪い意味で浮いていた。
声高に自慢話や誰かの悪口を言う悪い癖が出て、密かに眉をひそめる同級生も少なくない。
それでも、春美は良縁を目指し、交流会などには積極的に参加するつもりだった。
(最高の殿方と出会うのよ!)
そう
白銀の髪をした貴公子然としたあの姿が焼き付いて離れない。
しかも公爵家の跡継ぎで、軍本部に勤める将来有望な軍人。
地位も外見も財産も最高といえる。
(ケダモノだけどね……!)
春美の嫁入りをすげなく却下した瑛人に、春美は憎しみにも近い感情を抱いていた。
宴での屈辱を思い出すたび、瑛人をケダモノ扱いして
今頃、六花はさぞ恐ろしい目に
おぞましい獣の姿に怯え、もう逃げ出したかもしれない。
そんな想像をしてはほくそ笑む毎日だ。
「そういえば、瑛人様だけれど……」
同級生の声が耳に入り、春美は耳を
「ねえ、最近瑛人様をお見かけした?」
「いいえ。どのパーティーにも来られてないらしくて」
「どなたかご存知ない?」
春美はじりじりと体を寄せて聞き耳を立てた。
「もうずいぶん、ご無沙汰で寂しいわ」
「社交界の華ですのに、どうなさったんでしょう」
「あの方の麗しいお姿を見ないとつまらないわ」
どうも話の方向性がおかしい。
苛立った春美はつい口を挟んでしまった。
「でも、あの方ってケダモノでしょう!?」
意気揚々とした発言に、同級生たちが口を閉ざす。
しん、と流れる沈黙が明らかに好意的でないと春美にもわかる。
咳払いをし、春美は言い方を変えた。
「白狐憑き……と聞きましたけれど……」
「ああ、春美さんは地方出身だから、よくご存知ないのね」
「噂しか知らないのであれば、そう思うのかも……」
同級生たちの無邪気な言葉が、春美の痛いところを突き刺す。
(何よ……田舎者で世間知らずと言いたいの!?)
人の良い同級生たちは春美の悪意に気づかず、親切に説明を始めた。
「瑛人様は百年に一度の逸材で、凄まじい呪力をお持ちなのよ」
「妖魔と渡り合える剣士で、若くして一番隊の隊長を任命されて」
「
天子とは、この国を治める頂点に立つ方だ。
まさかそんな雲の上の存在が引き合いに出されるとは思わず、春美は絶句した。
「そりゃあ、天子様も放っておけないでしょう。いざとなれば、あの方に頼るしかないのですから」
「最強の呼び声が高いですものね」
瑛人はどうやら春美の想像以上に地位も評判も高いらしい。
「そして、何よりあの美しさ!!」
瑛人の姿を思い浮かべたのか、同級生たちがほうっとため息をつく。
「ご覧になればわかりますわ! あの白銀の髪、金色の目――絶世の美貌とは何か、理解させられますわね」
春美がぐっと拳を握った。
瑛人の美しさならば、春美だとて
「でも、恐ろしい方って噂ですわよね」
食い下がってみたが、微笑みとともにばっさりと斬り捨てられた。
「妖魔と戦っている勇姿を見て恐れおののく方もいらっしゃるみたいね。ご本人に会えばすぐわかるわ。とても穏やかで真摯な方よ」
「もうちょっと女慣れしていてほしいけれど!」
「そこがまた愛らしいんじゃない!」
何が楽しいのか、同級生たちがどっと笑う。
「もしくは、振られた女性たちのひがみじゃないかしら」
「あの方、女性嫌いじゃないか、って言われるほど、次々縁談を断られていましたものね」
くすくす笑う同級生たちの余裕のある態度が
「とにかく、直接お会いすればわかりますわ」
「あ、あります! お会いしたことなら!」
地方出身の春美の言葉に、皆が驚くのがわかる。
「じゃあ、おわかりでしょう? 貴公子そのものじゃなかった?」
脳裏に浮かぶのは、凜とした立ち姿。
どの動きをとっても美しい、洗練された仕草。
品のいい堂々とした話し方をしていた。
でもそれは上辺だけのはず――だって、もし本当に貴公子だとしたら六花は素晴らしい殿方と婚約したことになってしまう!
それは許されない。
春美はぎりっと歯を食いしばっていた。
「そういえば、先月大きな怪我をなされて療養中だとか」
「でも、もうそろそろ快癒なされてるのでは?」
「
「偶然会えるかもしれませんものね!」
「わ、私もいいかしら」
ドキドキしながら、春美は口に出した。
瑛人に会って、その化けの皮を剥がしたかった。そして、情けない六花の姿もあれば最高の見世物になるはずだった。
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