第7話 ヘタレ男子、襲われる。
あっという間に一週間が過ぎ。
日曜日。
二回目のデートの日が来た。
やっぱり浮かれる。女の子と一緒に遊ぶって、純粋に楽しい。
もう先日の告白失敗はどうでもよくなっていた。クラスでのからかいやせせら笑いも、特に気にならなくなっている。
自分には、合歓がいる。
それだけで気持ちが安定した。特別な女の子の存在って、男子には絶大だな。
特に自分みたいな、もてない男子にとっては。
彼女はこの前プレゼントしたシルバーアクセを身に付けていた。
ネックレスのチェーンを短くして、チョーカーみたいにしている。ちゃんと外側からも、つまりおれからも見えるようにしてくれている。首元に留まった銀色の髑髏は、思った通り黒を好む彼女のファッションにマッチしていた。
今日は何をして遊ぶのか、色々話し合って決めていた。できるだけふたりっきりでいられるようなものを選んだ。
カラオケでは一つのマイクをふたりでつかんで、腕や肩が触れ合う距離で一緒に歌った。
昼食は個室のある店を前もって調べておき、向かい会わせでランチ(肉料理メイン)。
午後はカップルシートのある映画館で、ふたり寄り添い、頭をあずけ合って鑑賞。
あえてその後のことについては、話をしなかった。
でも彼女の潤んだ目が、くっつく体の熱が、何も語らなくとも伝えてくる。
今日はこの前できなかったこと、するからね、と。
あっという間に半日が過ぎ去った。陽は落ちて暗くなり始めている。
もう夕方ではない。ここからは夜、だ。
スイーツを売りにしているカフェに入る。ここにも個室がある。
ドアには『扉を閉めれば、文字通りの甘い空間ですよぉ❤』と書いてある。
「なあ、合歓」
「なあに、理人さん」
彼女はおれのすぐ隣に座っていた。向かいに席があるのに。
「この前も今日も、すごく楽しかったよ。今までこんなふうに、女の子と長い間一緒にいたことなかった。緊張するかと思ったけど、なんかとっても気が楽で」
「ありがとう。あたしも楽しかった。うれしいわ、やっぱり気が合うのね。ふふっ」
最後のふふっ、は、ジェラートをスプーンで口に入れながらの笑顔だった。
黒い目を細め、ボブの髪をこめかみあたりで軽く掻き上げて、口からスプーンを抜き出す。
強い赤色の唇から、すーっとスプーンにまで粘液が細い糸を引くのが見えた。それは一瞬のことですぐに糸は消える。
唇にはジェラートの名残が白く付いていて。
彼女はぺろんと舌を出し、唇の上を右に左に動かして、きれいに舐め取っていく。
すさまじくエロティックだった。
はい、あ~ん。そんな台詞が耳に届いた。
彼女はそのスプーンでもう一度ジェラートを掬うと、こっちへ向けてきたのだ。
もう一回、あ~ん、と言った。
くすくす、と声を殺して笑うのも聞こえた。
ああ、かなわないや。
差し込まれたスプーンを舐めながら、もう恍惚とする。
欲しいのは心。だからと言って、リビドーに逆らえるはずもなし。
今日は、今日は、最後まで、きっと……いや絶対。
絶対……。
ジェラートがのどを通り、胸を降りていく。
冷たく甘い感触を飲み込んで、熱で浮かれた頭がちょっと冷えた。
今さらの疑問が脳裏をかすめる。
かすめたときにはもう、その疑問を口にしていた。
「合歓、おれでいいのか。て言うか、おれのどこがいいんだ?」
あの幼女神は言っていた。
『おぬしはきっと好かれる』。
『あやつらは人間の男子と結ばれたい願望がある』。
そうは言われても、無条件に好意を寄せてくれるのは不思議だ。
合歓はそんなおれの不安そうな疑問を、受け流すように答えた。
「誠実そう。浮気とか絶対しなさそうだし。女の子慣れしてない感じもいい」
誠実かどうかは自信ないが、女子に慣れていないことは事実。
彼女はそれがいいと言うのか。
「あとは、色々と食べ物とかおごってくれるところかな」
あはっ、正直だなあ。
思わず苦笑する。なるほど、これも幼女神さまの言っていた通り。
「顔はさ、あんま良くないと思うんだけど?」
「顔には興味ないわ」即答。
「前に女子にふられたとき、毛深いのが気持ち悪いって言われた」
「あら」
「それって気になる?」
「全然! オス……男らしくっていいじゃない。むしろ、あたしのほうが毛深いわよ」
毛深いのが男らしいって、そんなふうに見てくれるのか。
「ありがと。でもきみ、全然毛深いように見えないよ」
「あ、それは脱ぐとあそこが……。まあ、それは、あとのお楽しみということで」
見つめ合う。
合歓がぐっと顔を寄せてきた。吐く息が、おれの頬にかかる。
それは熱を持っていて、冷えた頭を再び熱くする。
互いの顔が近寄る。鼻先が、くっついた。
合歓の赤い唇が、少し開いた。尖った歯がぬらりと光る。
そこへ向かって、戸惑いながら、唇を寄せていった。
自分にはこれが、初めてになる。
いいよな、べつに。いいんだよな、これで。
ぽろ~ん♪、と。
スマホにメールが届く電子音が鳴ったのは、まさに唇が触れ合う直前だった。
「あっと、ごめん」
「え~、もう……」
顔を離す。
べつにそのまま続けても良かったけど、気を外された感じだった。
それとも。
どこかほっとしたのは、本心だろうか。
ふう、と息をついて立ち上がる。
「お手洗い、行ってくる」
「うん……早く帰ってきてね」
やや不機嫌そうな彼女を席に残し、個室を出て、紳士用のお手洗いに入った。
スマホを取り出して、手のひらの中にかざして見る。
スマホの待ち受け画像は、この前のデートで合歓とふたり並んで撮ったツーショットだ。
こうして眺めると不細工男子と美少女、あらためて不釣り合いだと思う。
そして同時に優越感も感じる。
メールの差し出し人を確認すると『金髪ろり』とあった。
くだんの幼女神さまからだ。
『心配でメールしてしもうた。なんか、うまくいっておらんようじゃの。大丈夫か。気になることがあったら、遠慮なく申せ。間に入って取り持ってやるぞよ』
ん? うまくいってない?
おかしなメールだな。なんの話をしてるんだろ。
楽しかったです、ってお礼を言ったじゃん。
実は、彼女のほうはそうでもなかった?
確かに先週のデートでいたさなかったのは、彼女にとって不満だったようだけど。
でもそれだって時間の問題。それもたぶん、今日中。
まあいいや、とりあえず返事しよ。
えっと……だ、い、じ、ょ、う、ぶ、ですよ、と。
『大丈夫ですよ。恐いくらいに順調。今も一緒にいますよ』
返信、と。
さて、ついでだから用を足すか。
と、すぐまたメールが届いた。ロリ神さまからの即返だ。
『それはそれは。めでたいの。と言いたいところじゃが、おかしなことを申すな。彼女とは今しがた話をしたばっかりじゃ。おぬし、今誰と一緒におる? まさか、人間のおなごじゃあるまいな?』
………………あ?
なんだ、このメール。どういう意味……。
急に首すじが冷たくなってきた。
もやもやした気持ちが、心臓の鼓動とともにどくんっと湧き上がる。
ロリ神さまの言葉に。
合歓の言葉に。
前にもこんな感じの、わだかまりを持て余すような気分になったことがある。
(今……誰と……一緒に……いる……だって?)
……そうだよ、なんかおかしいと思ってはいたんだ。あれだけロリ神さまに確認をして何度も怒られたにもかかわらず、一度は納得しようとしたにもかかわらず、なんか釈然としないものを感じていたんだ。
先週から何度か、合歓とはメールや電話でやり取りしたけれど、やっぱり彼女はちょっと積極的なだけの女子にしか思えなかった。
こちらもあえてケモノっ娘の証拠を見せろとは言わなかった。ただ、奇妙なわだかまりが、喉元に刺さった魚の棘のようにずっと残っていた。
おれは……ひょっとして、とんでもない勘違いを……。
「じゃあ」
小さく独り言をつぶやく。
「じゃあ、あの子は」
きぃ~……。
背中側で、何かが軋む音がした。
お手洗いの入り口ドアが開く音だと気づく。
振り向くと、合歓がいた。うつむき、後ろ手でドアを閉めている。
思わずひいぃっ、と声を上げそうになった。
「お、おいっ。こ、こここっ、だ、男子トイレっ」
冷静に対応、してるつもりが、内心では動揺の嵐。
こ、この子、いったい!?
「理人さん、誰とメールしてたの」
「そ、そんなこと聞きに、こんなところまで入ってきたの?」
声がいつぞやと同じように尖っている。怒っているのだと分かる。
でもなんで? まさか嫉妬? ほかの女とメールしてるって思ったのか?(あながち、まちがっちゃいないけど)
参った、この子、導火線に火ぃ付くの速すぎだろ。
「誰と、メール、してたの……?」
「えと、お、落ち着けって」
「答えないつもりなら」
電光石火。とんでもない速さでスマホをひったくられた。
あのスマホ、つくづく女子に取られる運命だなあ。
いやいや、そんなこと考えてる場合か。
幼女神さまからのメールを彼女に見られるわけにはいかない。
見られたら危険な気がする。根拠はないが、本能的な直感だ。
「人のメール見るとか、いくら仲良くてもだめだろ!」
彼女の眉根が、ぐっとゆがんだ。
うっ、と唸る。
逡巡する様子を見せ、しばらく黙った。
唇を噛んで渋々返そうとしたとき、大きな黒目が見開かれた。
何の気なく目に入ったのだろう、スマホの画面に釘付けになっている。
「この写真」
「あ、うん。好きな女の子の写真を、待ち受けにした。その、ダメだった?」
さりげなく、好きとか言ってみる。
手探りのご機嫌取り。
「なにこれ、なんなのこの写真。これ、この前会った人よね」
「へっ?」
突きつけるそこには、あの高飛車美女のクラスメート、眞砂の自画撮り写真が待ち受けになっていた。
なっ、なんで? さっきまでは合歓の写真だったはずだ。
彼女から取り上げて、自分でもう一回見てみる。
ほ、本当に真砂だ。どうなってる……。
どんっ、と片手で胸を突き飛ばされた。踏ん張れず、たたらを踏みながら後ろへ下がる。
前も思ったけど、この子は見かけとは裏腹に、相当に力が強い。
そのまま狭い個室トイレに放り込まれた。
彼女も一緒に入り込んできて、流れるような動作で扉を閉め、鍵をかけた。
がちゃり。
店の男子トイレの、狭い個室トイレ。
そこで若い男女がふたり。
こんなとこ、他人に見つかったらなんて言われるか。
そんなこと気にしてる場合じゃなかった。怒りも露わな女子が眼前にいる。
「前言撤回! 理人さん、ほかの女にも」
「ちがうっ、ちがうって! この前、あいつにスマホ取られたんだ。そんときにいじられたんだよ」
苦しい言い訳だ。
だって、それじゃあ今までその状態で放って置いたことになるから。
合歓が一歩、近寄った。怒りのオーラが伝わってくる。
逃げ場、なし。
洋式便器の蓋に、へなへなと座り込んだ。
合歓は、そんなおれの間近まで寄って、しゃがみ込んで。そして、ズボンのチャックに指をかけた。
「ね、合歓? 何を」
「ゆるせない。あたし、いやよ。理人さんの一番じゃなきゃ、いやっ。もうここでしましょ。いいでしょ? ムードはないけど、スリルはあるわ」
ぢ、ぢ、ぢ、と、チャックがひとつずつ下ろされていく。
ほ、本気かっ!? こ、この子っ、積極的すぎるだろっ。
男子のチャックを下ろして、どうするというのか。……聞くまでもない。
むくりとリビドーが鎌首をもたげる。
これはこれで……いいのかも……。
が、しかし。
彼女の顔をまじまじと見て、自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
完全に、目が捕食者(プレデター)。
その目を見て、リビドーより理性が勝った。
おれの両足の間にしゃがむ彼女の頭ごしに手を伸ばし、締まっていた鍵を外す。
「ごめんっ、ほんと、ごめんっ!!」
なかば飛び越えるようにして彼女のそばを通り過ぎ、ドアをはじき飛ばしてお手洗いから逃げ去った。
走って逃げる途中、伝票だけ取って店を出るときお金と一緒にレジに置いた。
頭のなかが、ぐるぐる廻る。
どうなってんだ。なんなんだ。どうすりゃよかったんだ。
街中をあてどなくフリーランしてる最中、電話の着信を示すアニメの主題歌が鳴り響く。
合歓からか? 出るべきか、否か。
走りながらスマホを取り出して見れば、相手はロリ神さまのようだった。
ああ、もう! こっちもこっちで面倒だ。
電源を切ってブッチ。
いったい、これはどういう事態なんだろうか。走りながら考える。
あ、あの子は、合歓は、ケモノっ娘ではなかった? だとしたら、彼女は普通に人間の女の子ってことか? 本物の蘭生女子校の高校一年生ってことか?
神さまが紹介してくれた相手とは、実はまだ会ってない?
あれ? でも、それはそれで何か不都合があるんだろか。
つまりはリアル女子が積極的にアタックしてくれた、ってことになるんだから。
それは……いいことのはずだ。
だったら、あのままずるずると流されるままにヤっちまえば良かったんじゃなかろうか。
今さらながらもったいなかったかも、とか思いつつ。
やっぱりおかしいと思い直す。
何か見落としていることがある。そんな気がしてならない。
…………………………………
誤解させたままだとまずいので、電話することにした。
金髪ろりのほうに。
合歓のほうはさすがに何というか、気まずい感じがして今日は話す気になれない。
こっちはまた今度。
例のごとく、家族が寝静まった深夜遅くだった。ケモノっ娘とか神さまとか、そんな単語を家族に聞かれるのはやばい。
「きっさまあっ! 何度もメールや電話を寄越したじゃろうがっ、全部シカトしおって! 見かけが幼女だからって舐めたマネしおるわっ!! なんのために連絡先を交換したと思うとるんじゃ!」
出だしから、めっちゃ怒られた。
「すいません。ちょっと取り込んでて」
「ほー、そーか。お取り込み中だったか。人間のおなごと。そーかそーか」
「あ、い、いや」
あれから、もう一度よーく考えてみたが……。
一度として女子にモテたためしのない冴えない自分が、あんな美少女に気に入られるはずがないのだ。
道理がない。理由がない。
これは決して卑屈な考えなんかじゃない、自分がつかんだ数少ない真理なのだ(泣)。
唯一理由があるとすれば、それはおれが人間の男子で、彼女がケモノの変化だから。
そうとしか思えない。
「人間の女子と一緒になんかいませんよ。安心してください」
「じゃが、電話で話した様子だとうまくいっとらんと……。それにおぬしと一緒にいないみたいなふうに聞こえたが」
「きっと、会話になんか行き違いがあったんですよ。あのときは、ちょうどトイレにいましたし。おれがトイレに行ったあとに、神さまに電話したんじゃないですか?」
「ふむ? そうか? ならうまくいってないとはどういう意味なんじゃ」
「そのことなんですけど……あの、たぶんですね、最初のデートで、その、エ……エッチしなかったこととか、あとトイレに入る直前に、キスしなかったことを言ってるんじゃないかと」
「うーむ、なんか誤魔化されておるような気もせんではないが。納得してやろう。それで? そのあと取り込み中だったということは、うまく契りをかわせたのか」
「それはまだ……。男の操、奪ってくれそうな感じだったんですけど、そういうのには時間をかけたいと思ってるんで断ってしまいました。あの、神さま? ケモノっ娘って、あんなに性欲強いもんなんですか?」
思わず保身が入った言い訳になる。
「はぁあっ!? 断ったじゃとぉう? おなごのほうから手を出してくれたのに? ああ、もったいないのう。ほんとに、根性なしの甲斐性なしじゃのう」
ため息まじりの、嘆く声。続いて「ま、たしかにアレは性欲強い系かのう」とつぶやくのが聞こえた。
「早くいい仲になっとくれよ。縁を取り持った妾もそれを望んでおる」
う~~~~~ん、いい仲、かぁ~。
「急かさないでくださいよ。それは成り行きにまかせることにします」
「まかせとらんではないか、誘いを断っとるではないか」
うっ……言葉につまる。そんなおれに、ロリ神さまは畳みかけてくる。
「ドン引きしたのか? 最初に言うたじゃろ。畜生乙女は、人間の男子と結ばれたい願望が強い、と。とくにアレは肉食系なんじゃから、しょうがなかろうよ。おぬし、実在するケモノっ娘に逢いたかったんじゃろ? それとも夢想が現実に出てきて、戸惑っとるんかい。本気でつき合うつもりなら、あやつらのこと、ちいっとは理解しておけ」
「そ、そんなっ、だって『本当にいたらいいなー』くらいにしか考えてなかったんだよ。なんか最初いろいろ注意点を言ってくれたけどさ、理解しろとか言うんだったら、実在するケモノっ娘がどんな感じなのか、もっと詳しく教えてくれよ」
今度は相手が押し黙る番だった。むぐぅ、とスマホからうなる声が漏れる。
「このぉ、急に口調がぞんざいになりおって。じゃがまあ、そうじゃのう、おぬしの言い分ももっともじゃな。良い機会じゃ。ここはひとつ、あやつらの話をしてやろうか。おぬし、昔話によく異類婚、動物の嫁の話が出てくるのは知っとるか?」
「うん、まあ」
昔話に出てくる、動物の嫁。
つるの恩返し、きつね女房なんか有名。
「そうそう、つるはよく知られとるな。きつねも人に化けるぶん、多いぞ。それに引きかえ、同じく人に化けるにしてもタヌキの嫁はあんま聞かんのう。あとヘビや鮫、珍しいところでは狼、蟹、ハマグリなんかもある」
へえ、そんないっぱい種類があるのか。人と動物のカップル、多いんだな。昔の人はそんなこと妄想してたんだ。美女化した動物を嫁にするなんて、あはは、今とたいして変わんないじゃん。いや、実在するんだから、これは実話をもとにしてんのかも。
ん、あれ、ねこ……は?
「そやつらは一見、普通の人間のおなごのようで、しかしやはりどこか普通ではなかったりする。もとのケモノの特徴を色濃く残していたり、不可思議なことができたりするのじゃ」
「もとの特徴? どんなふうに?」
「耳がいいとか、鼻がいいとか。それに夜目が利く、力が強い、やたら反射神経がいい、とかな。もとがなんのケモノかによって違うがの」
「ふうん」合歓は、どうだったかな。肉が好きってことくらいしか思い当たらない。
「不可思議なことっていうのはなんなの」
「ほら、よく話にあるじゃろ。予言したり、幻を見せたり、幸運を授けたり。ざっくり超能力みたいなもんじゃ」
あったかな? 昔話なんてこどもの頃に呼んだっきりだから、そこまでは覚えてない。
「畜生の変化だけでなく妖怪の類いはまあ、だいたい持っておるよ。妾の神通力も、もとをただせば同じものよ。総じて『まじない』と呼んでおる」
「はあ、まじない、ね」呪術ってこと?
合歓もそんなこと、できたりするんだろか。
そう言えばなんか奇妙なことがあった気がするけど……。
「ずっと昔はかなり使える者もいたそうじゃが、今はどいつもたいしたことはできんぞ。どうやら人のなかにまぎれて暮らすうちに衰えたようじゃな」
「あ、ああ、そう」
「なんじゃがっかりしたのか。ひょっとしてなんか期待したか」
「いやいや、まさか」
あったらあったで、おもしろいとは思うけどね。
そんなのケモノっ娘好きにとってはオマケみたいなもんだ。
「もしそんな力があったら、正体と一緒でそのうち見せてくれるじゃろ。あやつら畜生のおなごどもに共通する想いは、昔話から明らかじゃ。正体は隠したい。けれど人間の男と結ばれてともに暮らしたい。しかし正体がばれたら、もう愛を得られないと絶望して去って行く。つまり……」
「つまり?」
「裏を返せば、本心では正体を明かしたいのじゃ。明かしてから結ばれたいのじゃ。それでも警戒心は本能に基づいておって極めて高く、そう簡単には正体を明かせん。じゃからおぬしのような男子は貴重なのじゃ。初めから全部知っていて、むしろ望んでつき合ってくれる。アレが契りを交わしたいと逸るのも無理なかろう」
「まだ正体見せてもらってませんけど」
「う~ん、ふたりっきりになれば見せると思ったんじゃが。そういうのは妾から強要するわけにもいかんし。いざヤルというときに、見せるんじゃないかの? 前も言ったが、正体見て変にびびるなよ。とりあえず、これで畜生乙女のことはだいたい理解できたか?」
「ええ、まあ」
「んじゃあ、そろそろよいか。もう切るぞよ」
「うん、夜中に長々とすいません」
「もう少し話を続けてもよいが、ブログとフェイスブックの更新に、ツイッターのフォローの返信、妾もいろいろと忙しいからのー。また聞きたいことがあれば、気軽にメールなりなんなりしてこい」
ブログ! フェイスブック! ツイッター……。
もう、話し方とか外見とか中身とかずれまくってるよ、この神さま。
参拝客を集めるのに、神さまも神さまで大変なのかな。
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