第5話 いいことしようぜ!

【玲のターン】


「つづき……?」

「続き」


「なんの……?」

「わかってんだろが。言わせんなよ」


「えっ……えっ!? レイ、ちょっと待っ……レイ!!」

「あとでオレにもやってね」


とか何とか言いつつも、オレだってこういうことは初めてだった。マニュアルなんかあるのかどうかも分からない夜のお戯れ。なんとなく首筋を喰んで、下へ下へと指を這わせながら様子を見る。


グッ、と風磨の広い肩が上がる。時折短く、くぐもった鳴き声のような音が漏れ出る。頑張って声を殺しているようだ。オレの手首を掴んで抵抗を見せているようだが、形だけ。力はまったくと言って良いほど入っていない。オレはわざと『手ぇ痛い』と呟いた。おずおずと風磨の手が素直に離れる。よしよし。良い子だ。


それにしてもでっかいなあ。背中の面積がすごく広い。まるで子供が大人に抱きついている様相だ。ああこれ良いなあ、とグリグリ顔を押し付けながら匂いを嗅いだ。玄関に入ったときにいつも感じる風磨の家の、古い木の香りがする。


下に触れることは簡単だ。部屋着のズボンの紐を解く。手を入れる。あとはよく自分でもやることをする。後のことが一瞬気になったが、汚れても着替えりゃ良いだけだ。いま手を離すと逃げられてしまいそうだから。


また手首を掴まれた。今度は少し力が入っていた。『レイ、待って、ダメだって……』と焦っている。オレはそれを聞いて少しだけ笑ってしまった。こいつはついさっきまで大型の肉食獣のような鋭い動きを見せていたくせに、いまは人間の手に握られた小さな鼠のようになっているからだ。


なんとかして逃げ出そうともがいている。豆粒のような鼻を出しては身をよじり、米粒のような手を一生懸命突っ張って。でもその力は弱すぎる。オレが本気で握ればお前なんかすぐにあの世逝きだ、という加虐心がふつふつと煽られてしまう。


その弱々しい態度に比例し、大事なところは立派に硬くなっていた。ここもデカすぎたらどうしよう、と不安になったがちょっと平均よりは大きいという程度だろう。


温かいを通り越して熱くなっているそこを優しく擦る。驚いたらしい風磨の全身がビクリと跳ねる。オレの手首がまた握られてぎゅうっと強く圧迫され、痛い、と今度は本気で言った。


途端にふっと力が緩み、『ごめん……』と素直に謝られた。こういうところも好きなのだ。風磨はいつも堂々として落ち着いているが、圧がない。尊大な振る舞いをしたところなんて見たこともない。めったなことじゃ怒らないから、オレは小学生の時点ですでに甘えてしまっていた気がする。


ふう、ふう、と押し殺した吐息が不規則に耳へ入ってくる。固く閉ざされていた脚の緊張は、ようやく緩み始めていた。自分の片脚を後ろの方から割り込ませ、少し開かせようとする。風磨はプルプルと震える脚をゆっくり開いてくれた。やっと観念する気になったらしい。


息遣いが切羽詰まってきたのがよくわかる。オレが触るとこんなに感じてくれるのだ、と思い腹の底から嬉しくなった。風磨はどうやらオレの身体に傷をつけてはならないといるらしく、あっさり人を殺せる力を持つその手を、脚を、普段以上に制御しているらしい。


先端からとろりとろりと、人肌に温められた液体が溢れて根元に落ち、また溢れては毛をしっとりと濡らしている。触れば触るほどに滑り具合は増してゆき、手を動かしやすくしてくれている。その期待に応えてやろうじゃないかとオレは躍起になり、割り込ませていた脚を一旦外して前からに変え、さっきより大きく開かせてやった。


風磨は口にしっかり手を当て目をつむり、汗をじわりと滲ませている。暗がりではよくわからないはずの紅潮が、なぜかフィルターをかけて色を強調したかのようにくっきりとよく見えていた。


愉悦を表現しようとしたオレの横隔膜が、無意識に上がってきてしまう。それを必死で抑え込みながら、風磨の一番敏感であろうふっくらと丸く膨らむ先端に親指を当て、くるくると優しく静かに撫でてやった。殺したはずの鳴き声がより大きく聞こえる。そうか、これが気持ち良いのか。ならばもっと工夫をしてやろうかと考えて、指の間に挟んで出し入れするように擦ったり、手のひら全体を使い包み込むようにして撫でてやったりした。


風磨の腰が揺れている。オレの手に必死で押しつけようと頑張っている。いつもの前髪がより乱れて張り付き、こめかみから汗がひと筋流れて喉へと伝ってゆくのを見た。しっかり筋が張り出した喉の頂にある喉仏も、オレとは違って立派で大きい。その硬そうな突起が上下して、やがて湿度の濃くなった吐息と、きっと出すつもりのなかった『あ………っ』という悔しさの色が混じった艶声と、温くて白い液体を大量に吐き出した。


自分のものとは質も量も全然違う、その乳白色の粘った液体。こんなに出てしまうとは。溜まっていたのかという些細な疑問を少々浮かべながらも、しまったやっぱり汚さぬ配慮が必要だった、と後悔した。後の祭りである。ほぼ手のひらで受け取めてやったつもりだが、おそらくあちこちを汚してしまっただろう。


風磨は身体を何度か痙攣させたあと、全体重をベッドに預けて乱れた呼吸を整えていた。ぐちゃぐちゃになった長い前髪のせいで、鼻と開けた口しか見えていない。


「あの……なんかごめん」

「ごめんって、おま……、マジかよ……、はあ……っ」


「汚しちゃった。ごめーん……」

「いーよもう、明日、洗濯すれば……、はあ…………」


オレに下半身を遊ばれた痕跡をそのままにして、風磨はごろんと仰向けになり両手で顔を押さえていた。まるで犯されたような風体である。いや、文字通りそうしてやった記憶はあるが。


男の寝具の近くには必ずある紙製品で、おおかたの汚れは拭いてやった。しかし萎んだそいつを眺めていると、ついイタズラ心がむくむくと膨らんでしまう。脚の間で無防備に寝そべって、油断しているそいつの先端を自分の口につけてみる。想像したより臭いは少なく、できる、と思って一気に中へと含んでみた。そいつは待ってましたとばかりに立ち上がってくれたのだが、オレの口腔の広さじゃ足りないらしい。やっぱりちょっと大きく感じた。


「ちょ……!! そんなん、そんなんしなくていっ、だっ……!! イッたばっかだから……!!」

「おほうじふぇあ」


「やめてぇ……!! 喋んないでくださいぃ……!!」


突然の敬語に吹き出しながらも、咥え続けるのはきついと判断したオレは側面をペロペロと舐めるに留めておいた。それでもみるみるうちに硬くなる様が面白く、元気だなあ、と同い年であるにも関わらずそう口に出してしまった。


透明な汁が先端からぷくりと浮かび、重力に負けてたらたらと伝い降りてくる。舐め掬ってやると、ぬるぬると舌にまとわりついて舐めても舐めてもなくならない。キリがないじゃないかと思っていたその時。上体を起こしてベッドを大きく揺らした風磨がこう言った。


「はあ…………お前もやるんだろ。脱げ」

「ん? ……えっ? ……風磨……えっ?」


「脱げ」

「いやちょっと……うわ!!」


いきなり覆い被さってきた風磨はオレの膝裏に腕を回し、強引に天井の方へと引っ張った。後ろに転ばされる形である。風磨の長身に合わせたでかいベッドの上であるため柵に頭を打つなんてことはなかったが、オレは非常に怯んでしまった。油断した。


ついでとばかりに下を脱がされかけ、咄嗟にズボンを引っ張り抵抗したが無駄だった。視覚からもそれがよく伝わる。まだ戦ったことはないが、これは負けても当然かもしれない。迫力がすごい。オレの視界いっぱいを覆う広い肩の線。表情はほとんど見えず、濡れている目だけが夜行性の動物のように光っている。


オレは先に自分でやったことなどすっかり忘れ、身につけた体術も頭からすっぽり抜け去って、次に起こることの予測すら立てられなかった。ジタバタと無意味な抵抗をするしか道がもう残されていない、可哀想な獲物役を演じ続ける他になかった。


貸してもらった大きな部屋着の感触がどこかに消え、代わりに風磨の手が脚の間にひたりと触れる。いきなりの刺激に驚いて、脚を強く閉じてその手をぎゅむっと挟んでしまった。風磨は少し笑った気配と共に『……いきなり突っ込んだりとかしねえから。怖けりゃそのまま閉じてろ』と言い、すんなり手を引き抜いた。


少し安心したのも束の間のこと。風磨の腰がグッと近づき、ヌルヌルとした質量のあるものを玉の裏辺りに当てられた。まさかそんないきなり、とオレは大いに焦った。起き上がろうとした途端に左肩をベッドに押し付けられ、さらに焦った。


風磨はこっちを見ていない。手に持った武器を外さないよう狙いをつけることに集中している。不慣れな感じがしないことも疑問だが、さすがにいきなり入らないことは考えずともわかるだろうに。


風磨。そこ急所だからね。適切に扱わないとオレ死んじゃうから!




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