第67話 どうしてよ!! -ヴァネッサ視点-

「ヴァネッサ。向こうの家が、話し合いの場を設けることに同意した」

「まぁ! 嬉しいわお父様!」


 やっぱりそうじゃない! 思った通り!

 いくら占いしか能のない家でも、役立たずはいらなかったのよ!


(誰だってそうよね!)


 あんなみすぼらしい無知よりも、ちゃんと着飾ることを知っている私を選ぶに決まってるもの!

 ちゃんと令嬢教育だって受けてきているし、社交界デビューだってしているんだから! 当然よね!


「それで? いつお会いできるの?」


 あの美形に会える。ようやく私のものになる。

 そう思えば、どうしても喜びは抑えきれなくて、つい声が弾むけど。

 今くらい、浮かれてても許されるはずでしょう?


「ヴァネッサ……」


 そう、思っていた私に。

 お父様は、以前のようにため息をついて。


「話し合いは、陛下の御前ごぜんで行われる。だから、お前を連れてはいけない」


 そんな風に、無情な言葉を告げてきた。


「どうしてよ!! 私と役立たずの立場を交換するための話し合いでしょ!? 私だって当事者じゃない!!」


 それに、早くあの美形に会いたいもの!

 最近は、前よりもさらに会えなくなってるし。シーズンも、もう終わっちゃう。

 別に婚約式がシーズン外になるのは構わないけど、会う回数が減るのはいや。


「それとも向こうが何か言ってきたの!?」


 そうじゃないのなら、私が一緒に行けない理由が分からない。

 なのに。


「お前が出した手紙を、陛下もご覧になったそうだ。つまり……」

「つまり?」

「……とにかく。これはスコターディ男爵家としての判断だ」

「どうして!? それならなおさら、私だって連れていってくれたっていいじゃない!」


 お父様は、今までずっと私のお願いを聞いてくれていたのに! どうして今回はダメなの!?

 私はずっと、貧乏なのを我慢してきてたのに……!


「……お前が、その場で一切声を発しないというのなら、考えてもいいが」

「どうしてよ! 私にだって発言する権利はあるはずだわ!」

「だから、だ。ヴァネッサ、社交界というのは、そう簡単なものではない」


 意味が分からない。

 だって、私のための話し合いでしょう? それなのに、私は黙ってその場にいるだけ?


「役立たずだけ参加するなんて、許せない……!」

「安心しなさい。役立たずは、参加しない」

「……しない、の?」


 どうして? デビュー前だから?

 もしかして、だから私も参加させないってこと?


「でもっ、それと私が話し合いの場に行かない理由とは別じゃ――」

「ヴァネッサ! いい加減にしなさい!!」

「っ!!」


 生まれて初めて、お父様に怒鳴られた。

 普段穏やかで優しいお父様の、一体どこにそんな力があったのかと思うくらい、大きな声で。

 とても、怖い、顔で。


「元はと言えば、お前が勝手に手紙なんぞを出すから! 我が家の立場が危うくなっているんだろう!!」

「……え?」


 危うい、って……どうして?


「陛下が手紙の内容を知っているということは、お前の企みも全て見透かされているということだ! 浅はかな行動のせいで、全てが台無しになった!」

「そんな……」


 私は、ただ……。

 役立たずに、個人的な手紙を出しただけなのに……。


「いいから、お前はしばらく家から出るな! それと、婚約者の交代はできないものと思え! いいな!」


 それだけ言って、部屋から出ていってしまったお父様。

 私はただ、あまりの出来事に。扉を見つめることしかできなくて。



 そして……。



「役立たずが、占い師一家の嫡男の正式な婚約相手に決まった。もう諦めなさい」


 話し合いから戻ってきたお父様は、私にそれだけを告げた。

 詳しい内容を聞こうとしても、話せないの一点張り。絶対に、教えてくれようとはしなかった。


「どうしてっ……! どうしてよ!!」


 あの美形に相応しいのは、役立たずなんかじゃなくて私のほうよ!

 それなのに、どうして役立たずなんかが選ばれたの!?

 あれ以上の相手なんて、今後見つかるはずないじゃない! 美形は全員売約済みなのよ!?


「なんで……! 役立たずなんかに……!」


 私のものになるはずだったのに! 役立たずなんて、生まれてくるはずじゃなかったのに!

 どうして男に生まれてこなかったのよ!


「どうしてよぉ!!」






―――ちょっとしたあとがき―――



 貧乏が、悪い。

 そうでなければ、もっと普通に、もっと幸せになれた。

 ……かも、しれない。





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