第39話 今までになかった感情
そうして楽しかった初めてのお出かけが終わってから、まだ数日ですが。
「……おかしいですね」
ふと、あの日のことを。マニエス様の素敵な笑顔を思い出しては。
無意識に高鳴る鼓動を、自分では抑えられないという事態に遭遇していました。
「数日しか、経っていないのに」
私はまたすぐに、お出かけしたいと思っているのでしょうか?
けれど、どこか違うような気もして。
嬉しいような、悲しいような。苦しいような、楽しいような。
(これは、何でしょうか?)
今までになかった感情の波が、一日に何度も押し寄せてきては。不思議な感覚だけを残して消えていくので、戸惑うばかりなのです。
ふとした瞬間に思い出しては、そんな風になってしまうのに。思い出すまでは、忘れている間は、普段通りに過ごせていて。
そう考えると、病気ではなさそうなのですが。
「原因が、全く分かりません……」
少しだけ不安になってしまうのは、これもまた初めての経験だから、なのでしょう。
そしてなぜか、どなたかに。特にマニエス様にご相談するのは、
マニエス様ならこの現象の正体をご存じかもしれないのに、あの方に知られてしまうのだけは恥ずかしいような。話すことすら、できないような気がするのです。
「本当に、何なのでしょうか?」
知って楽になってしまいたい気もするのに、知りたくないような気もしてしまう。
私は今初めて、自分の気持ちが分からなくて混乱しています。
「……お義母様にならば、お聞きしてもいい、のでしょうか?」
わざわざ私のためにお義母様のお時間をいただくなんて、とても申し訳ないのですが。けれどご相談させていただくと考えると、伯爵様はマニエス様以上に考えられません。
だからといって侍女の皆様は、お仕事として私についてくださっているわけですから。そのためのお時間を割いてまで、私の話に付き合わせるわけにはいきませんし。
何より、お義母様はマニエス様のお母様ですもの。マニエス様以上に、様々なことをご存じな可能性は高いです。
「気が引けてしまうのは、どなたでも同じですよね」
それならばいっそ、お仕事で昼間はお屋敷にいない伯爵様やマニエス様、それにお屋敷の中でお仕事をしている侍女の皆様よりは。
お義母様にご相談申し上げるのが、一番の正解のような気がするのです。
何よりお義母様なら侍女の皆様と違って、お時間がない場合はそうおっしゃってくださるはずですから。
「そうしましょう」
となるとまずは、お義母様のご予定をお聞きするのが先ですよね。
「どなたか、そこにいらっしゃいますか?」
ベルを鳴らすのは、何だか偉そうで今もできない私ですが。扉の外に向かって、そっと声をかければ。
「お呼びですか? ミルティア様」
常に待機してくださっている侍女のお一人が、その向こうから姿を現して。
正直なところを申し上げますと、まだ指示を出すということにすら慣れてはいないのですけれど。
それでも。
「お義母様にご相談申し上げたいことがあるので、ご予定をお伺いいただけますか? なるべく長く空いているお時間があれば、嬉しいのですけれど」
「承知いたしました。確認してまいります」
お願いを口にすれば、頭を下げて部屋を出ていくそのお姿は。どこまでも、美しい所作のままで。
けれど同時に、彼女が私を主人として扱ってくださっている何よりの証拠なのです。
「色よいお返事をいただけたら、いいのですけれど……」
私のこんな急なわがまま、ご迷惑でないはずがないのですし。
待っている時間が妙に長く感じられてしまうという、これもまた初めてのことを体験しながら。
私は今か今かと、先ほどの侍女の方がお戻りになるのを待っておりました。
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