第17話 二人でアフタヌーンティーを

 そんな風に、日々を過ごしていたある日のこと。


「マニエス様と、ですか?」

「はい」


 二人でアフタヌーンティーを楽しみませんかという、お誘いがあったのです。

 この日はちょうど、お仕事がお休みだったとのことで。


「いかがなさいますか?」


 伯爵様につけていただいた侍女にそう問いかけられた私の答えは、一つしかありません。


「もちろんお受けいたします。楽しみにしていますと、お伝えいただけますか?」

「かしこまりました」


 初めての、マニエス様からのお誘い。

 まだ婚約式の準備が整っていないとのことで、正式な婚約までは時間がありますが。けれど私がソフォクレス伯爵家へとやって来た時点で、婚約者になることは確定しているそうなのです。

 なので現在私とマニエス様との関係は、仮の婚約者ということになるのですが。


(それでも、いずれ婚約者となる方からのお誘い。お断りする理由など、私にはありませんからね)


 ただ一つ気がかりなのは、アフタヌーンティーというものを私が知らないこと。

 正確に言えば、その存在は知っているのです。ただ、一度も経験がないので。正しい作法などを、一切学んだことがないのです。

 クッキー、だとか。お菓子と呼ばれるものも、伯爵家に来てから初めて目にしたくらいですから。

 その時はちょうど、昼食の直後の満腹で口にできなかったので。まだ味は知らないのですが。


 多少の不安が拭えないのは事実ですが、その場合は正直にお伝えしてしまいましょう。


(伯爵様は、スコターディ男爵家が貧しい家柄だということをご存じのようでしたし)


 そもそも、マニエス様もご存じの可能性だってありますし。そうでなくても、お伝えして問題のあることではありませんからね。

 そんな考えに至って、あまり気負わずに参加させていただくことにした私だったのですが……。




「挨拶は必要ありませんから。まずはどうぞ、座ってください」


 お義母様似の柔らかい表情で、マニエス様の向かいの席を手で示されて。私は言われるがまま、侍女が引いてくださったイスに腰を下ろしました。

 お部屋を出る際には、必ず侍女のどなたかお一人を供につけるようにと言われておりますから。きっとこういった場合にも、全て対処していただくためなのだと思います。

 そんなことを考えながら。ふと、何気なく辺りを見回すと。


 とてもあたたかな、日の当たる。

 どう見ても、おしゃれなテラスで。


(談話室ではなくテラスでとは聞いていましたが、何ですかここは……!)


 ぬくもりを感じられる木の床に、真っ白な円形のテーブルと、同じく真っ白なイス。

 お部屋の中とは違い壁も柱も天井すらない分、とても開放感がある場所ではあります。が。


(素敵なお庭を眺めながら、なんて……。贅沢すぎます……!!)


 目の前に広がるのは、それはもう丁寧にお手入れがされているであろう、立派なお庭。

 木々は青々と茂っていて。時期がいいからなのか、たくさんの種類の花たちが競うように咲き誇っていて。

 マニエス様がこの場所をお選びになったのも、心の底から納得です。


「夕食に響いてしまうといけないので、少量のクッキーとマカロンを用意させました」


 クッキー、は知っていますが。まかろん……?

 小さくてコロンとした、色とりどりな丸いそれは。マニエス様の口ぶりからするに、きっと甘いお菓子なのでしょう。


「母上には略式にしてもほどがあると怒られそうなので、内容に関しては秘密にしていただけると助かります」

「分かりました」


 伯爵様はマニエス様を人付き合いが苦手と評していらっしゃいましたけれど、こうしてお話ししてみるとそうは思えません。

 むしろ伯爵様のご子息なのだと、納得してしまいます。

 今も少しお茶目な言い回しをされたところなんて、まさに伯爵様のようですから。

 ご本人は少しだけ恥ずかしそうな、照れた様子でおっしゃっていましたけれど。思わず私も笑顔を返してしまうほどの話術は、ソフォクレス伯爵家の方の特徴なのでしょうか?





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