第3話(累計 第49話) 再び潜入ミッション開始!
「この度は、委員長様に我が商会を御贔屓にしてくださり、ありがとうございます。こちら、許可書でございます」
隊商リーダーが警備兵に、ラウド領主が発行した通商許可書を見せている。
「はい、確認しました。いえいえ。
街道沿いに待機していたカレリアの領内警備兵が、僕が所属する隊商に接触。
危険物を運んでいないか、野盗や侵略軍とかで無いかの確認をされた。
野盗さんに聞いた通り、E級ギガス二機と小数の自動車から構成されている小規模警備部隊だ。
「しかし、このギガスは立派ですねぇ。C級以上に見えますが? それに輸送トラックも見たことがないデザインです。まるで空にでも舞い上がりそうな感じですね」
「こいつらは、ウチの虎の子。資産を全部ぶち込んで作ったんですよ。凄いでしょ?」
隊商のリーダーが、警戒のために立っているヴィローや「輸送トラック」を自慢してくれている。
ヴィローは、太陽光避けと外見から正体が分からない様に分厚いマントを被っているものの、九メートルを超える機械騎士姿を見ればC級以上なのは直ぐに分かるだろう。
またトレーラータイプの「トラック」も偽装パーツで本来の「正体」が分からないようにしている。
……ヴィローの中は空調が効いてて涼しいし、警戒はリリやエヴァさんもいるから楽だもん。『トラック』も空調付き、今はアカネさんが運転中。
「護衛用としては、立派ですね。まあ、ギガスも単騎だけですし、危険性も無いでしょう。では、残り道中お気をつけて」
「ありがとうございます。お仕事、お疲れさまです」
警備兵さん。
伯爵様の許可書もあって無事、僕らを通してくれた。
……何か妙な事を言っていたね。街中は子供だけって?
「レオンさん、お疲れさまです。無事、通してもらい助かりました」
「なぁに、実際に商売に来ているんだからな、俺達は。その他で色々あるだけだし」
今回、僕が伯爵様にお願いしたのがカレリアへの侵入方法。
領民が街を捨て、野盗にまで身を落としているのが気になって仕方がない。
カレリア自身は共和国に加入しているものの、現在は半分鎖国状態。
情報は中々外に漏れない。
「それでも、理由を作ってくださったのは確かります。道中の経費まで全部見て下さるなんて」
「トシ坊には、オヤジや俺も世話になってるしな。それに、比較的近くの領地の政情不安定はウチも他人事じゃない。野盗や難民が増えたら、たまらんからな。後、リリちゃんと一緒に旅が出来るのは俺も嬉しいかな」
伯爵様、カレリアへの隊商をでっち上げしてくれる際、息子のレオンさんを隊商リーダーにしてくれた。
元より賭博商を経営管理していたし、商売には詳しいレオンさんを派遣してくれたのは嬉しい。
僕にとっても、頼りになる兄貴分だ。
……僕じゃ威厳もないし、商売のやり取りは無理だもん。
「親子そろってリリちゃんに甘いのは困った事ね。まあ、わたしの妹は凄いから……」
「エヴァお姉ちゃんは、ツンデレタイプかよ。タイプ違いの美女とは、両手に華だねぇ、トシ」
【お二人とも大事で美しい姫様でございますから。さて、カレリアまでは残り十キロ程。気を付けてまいりましょう】
そんなこんなで、僕らはカレリアに脚を踏み入れた。
◆ ◇ ◆ ◇
「これは……」
「おにーちゃん……」
「酷いわねぇ」
一旦、隊商用の駐機場にヴィローやトラックを止めた僕ら。
同行しているアカネさんにヴィローらを任せ、一旦偵察にでもと街に出てみた。
しかし街の様子を見て、その異常さに僕らは絶句した。
「子供しかいねーじゃん。これじゃあ、マトモに商売できそうにないぞ」
レオンさんも街を見て、絶句する。
入国審査をしていたのが少年兵だった時点で異常性が感じられていたが、街中に入れば余計にその異常さを感じる。
まず、街中には活気どころか声一つ聞こえないし、商店は何処も閉店のゴーストタウン。
歩いている人もまばらな上に、居ても同じ黒い服を着た子供ばかり
また銃を構えて、警ら活動をしているのも全員が少年兵。
「これ、大人が誰もいないよ? トシおにーちゃん。あの子達、学校の制服を着ているの?」
「いや、皆。同じ服だけれども、学生という感じじゃない、リリ。誰もおしゃべりもせずに、それぞれ別の方向に向かっているんだ。それは、学生ならあり得ないよ」
しばらく街中を歩いてみたが、せいぜい僕くらいまでの少年少女しか見受けられない。
同じ黒色な服を着ているので、話に聞く学校の制服かとも一瞬は思ったが、彼らの目には光も無く、うつろなまま。
各自、警備の少年兵に連れられて、何処か目的地らしき場所に向かって歩く。
監視をしているだろう少年兵も、重い銃に身体を引きずられている。
カレリア全体で異常事態が起きているのが、一目で分かった。
「トシ、どうして異常な状態が外部に漏れないのかしら? これ、おかしいわ。貴族連合内でも、ここまで異常な事は聞いたことないの」
「エヴァおねーちゃん、わたし怖い」
大人のいない町。
その異常さを抱えたまま、僕らは一旦与えられた宿舎に向かった。
「何かありましたら、ベルをお鳴らし下さいませ」
「ありがとう」
宿屋というよりは、公的機関の建物っぽい宿舎。
そこで僕らを案内したのも、十歳になるかどうかの少女メイド。
ボーイさんたちも同じくらいの幼い男の子たちだった。
「街の状況、誰も外に持ちださないのは異常ですね。絶対、何か裏がありますよ」
「だな、トシ。今日も俺達だけしか入国していないみたいだし。オヤジの書面が無かったら門前払いだった可能性が高いな。その上、部屋には盗聴器と来た」
一旦、女の子用に準備された大部屋に集合した仲間。
警戒しながら、カレリアの異常性について話し合う。
……音消し結界を張った上で、仕掛けられていた盗聴器には、たわいもない会話をヴィローに作らせて流しているんだ。
「鎖国に近い状況なのでしょうね。しかしプラントが不調なので、どうしても水を求めて伯爵様の支援に飛びついた形と、僕は想像しました」
「わたし、子供たちの顔がみんな暗いのが気になったの。今までこんな街、無かったよ?」
「わたしも同意見ですわ、リリちゃん。大人が居らず、子供たちだけの街。支配している方は、一体どういった方なのかしら?」
「明日、代表者の委員長とやらに面会できる。そこで確認しようや」
「じゃあ、アタシはいつでも『羽』でトンズラ出来る様に準備しておくよ。ヴィローの旦那にも話しておくね」
いくら話しあっても理解できない町、カレリア。
僕らは不安な夜を過ごした。
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