第2話(累計 第48話) 伯爵様に相談。

「それで、いきなりワシに頭を下げに来たのか。トシ殿。」


「伯爵様。いつも難題を持ち込みまして申し訳ありません。僕、彼らを見殺しには出来なくて。かといって犯罪を犯した以上、罪を償って貰わないとダメですし……」


 隊商をラウドまで無事に届けた僕。

 その足で領主館まで脚を伸ばし、領主アルテュール・ファルマン伯爵様に面会のアポを申し出た。

 すると、その日のうちに面会の許可が出る。

 なので、僕は伯爵様に頭を早速下げている。


「アルおじちゃん。あの人たちも事情があって野盗をしていたの。どうにか出来ない?」


「リリちゃんから頼まれたら、ワシは嫌とは言えんのぉ」


「伯爵様。トシやリリちゃんに甘すぎですわよ? 貴族たるもの、もうすこし威厳というものを持つべきですわ」


 リリのお願いにデレデレの伯爵様。

 そんな様子に苦言を言いつつも、何処か嬉し気な表情のエヴァさん。


 ……エヴァさんも色々あったからねぇ。最初は、もっとリリに遠慮もあったけど、今はすっかりツッコミお姉さん。


 エヴァさんは、血縁的にもリリの姉と言える存在。

 共に新たなる人類の母としてデザインされた美少女。

 ヒト以上の魔力と知性、美貌をもつ。


 そして、エヴァさんは過酷な運命に翻弄されていた。

 だからこそ、能天気なリリの事が「姉」として気になって仕方がないのだろう。


「しょうがあるまいて、エヴァ殿。リリちゃんの笑顔とお願いに勝てるものなど、世界中探してもまずおらぬ」


「そこは同意見ね、伯爵様。リリちゃんは、わたしの自慢な妹なんだから」


 そして、今度はリリ自慢で意気投合する二人。

 僕は、心がとても暖かいもので満たされた。


「で、リリちゃん。野盗共は望んで人殺しはしておらぬと言っておったのだな?」


「うん、おじちゃん。ギガスで脅すだけしていたらしいの。それでも悲しい事は起きちゃったみたいだけど」


 野盗指揮官に尋問をしていた時。

 リリは彼の前にしゃがみ込み、顔を覗き込んで尋ねていた。


「おじちゃん。人殺ししてでも、お金やご飯が欲しかったの?」


「……俺だって、さっき坊主に言われてショックだった。殺しをした手で嫁や子を抱くのは苦しいからな。だから、こちらからは殺しはしなかった。脅して食料が手に入ったら、後は開放していたよ」


「悲しいよね、おじちゃん。みんな、一杯ご飯食べられたらいいのに」


 リリの悲し気な表情に、指揮官も大泣きしていた。

 そして、その言葉に嘘はないだろう。


「なら、ワシの方で彼らの処遇は、なんとかしよう。治安維持のために職を世話するのも領主の役目。トシ殿とリリちゃんのおかげでワシの領地は、今や世界有数の規模だからのぉ。わっはは」


 共和国と和平・通商条約を結んだラウド。

 もとより世界最大級の歓楽街を持っていたこともあり、共和国や貴族連合から多くの人々と資産が集まっている。

 また、最近は教育にも力をいれていて、下町では子供たちの笑顔が見られだしたとも聞く。


「申し訳ありませんが、宜しくお願いします、伯爵様」


「うむ、了解した。で、今後はどうする気かな、トシ殿。お主の事だ。カレリアの件を知ってしまっては黙ってはおれまい? 顔に出ておるぞ? かといって、共和国に調査を頼んでも、おそらく握りつぶされるであろうよ。今まで大きな話題にならなかった事を思うに……」


 僕の表情を見て、考えを見抜いてくる伯爵様。

 この人には数多くの恩義がある上に、僕はかつて騙して心を痛めた。

 そして今も、多くの事で沢山助けてくれる。

 今では二人目の父親とも思っている立派な人だ。


 ……今まで何回も養子にならんかって言ってくれて、嬉し困っているんだけどね。リリも懐いてくるから、最近は共和国で仕事してはラウドに帰るパターンが多いよ。


「はい。今は共和国から仕事を受けていませんので、個人的に潜入調査を行いたいと思ってます」


「また、お人好しでお節介? トシ。いい加減、その首を突っ込む癖を治さないとリリちゃん共々不幸になるわよ?」


「えー、エヴァおねーちゃん。そういうトシおにーちゃんが、リリ大好きなんだけど? アルおじちゃん、わたしもカレリアの事は気になるの。どうしたら良いかな?」


 エヴァさん、しっかりもので僕やリリの行動にいつもチェックを入れてくれている。

 こと、リリが考え無しなお人好しをするたびに、心配をしてくれているのは嬉しい。


 ……すっかり苦労人なお姉さん枠になっちゃったね、エヴァさん。外見年齢も僕と同じくらいに見えるけど、リリそっくりの可愛い美人さん。笑顔をもっと見せて欲しいよね。


「では、ワシから依頼をだそうか。元より近日中にカレリア方面へ隊商を出すつもりだった。隊商の護衛役も欲しかったから、トシ殿。頼めるか?」


「はい! 喜んでお受けいたします」


 そして、僕らは新たなミッションを受領した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アカネさん、いつも厄介事持ち込んでごめんなさい」


「トシ坊は、いつも何かやらかすからねぇ。今回はまた沢山ギガスを撃破して来ちゃって」


 伯爵様との会談後、ヴィローを預けている整備場ハンガーに僕は顔を出した。

 久しぶりに見たハンガーは大忙し。

 そこでは、アカネさんが忙しそうに部下に命令を出しつつ、ヴィローと相談をしていた。


 ……僕が壊した野盗のギガス、全部持ち込んだからねぇ。


「誰も殺したくないし出来れば鹵獲したかったから、綺麗に壊してはみました」


「C級を首飛ばしだけで倒すのは、お見事。まー、今の旦那なら簡単かな。ヴィローの旦那については、アタシも自慢のセッティングできたし。それに想定よりは骨格フレームに負担が来ていなかったのは幸いさ。関節軟骨に関しては、まあしょうがないか」


 今の姿、改修型ヴィローマハー・ヴィローチャナ

 同じ神話級機体イシュヴァーラに勝つために、無茶レベルの改造を行っている

 二個の魔力炉を並列同期運転。

 そこからあふれ回る膨大なパワーを使いこなすために重力・慣性制御、構造強化を高度魔法でとことん行ってはいるが、それでも骨格に対する負担は大きい。

 また関節部への負荷も大きく、軟骨部は一般ギガスよりは交換頻度も高い。


 ……操縦士に対する魔力フィードバックに加速度も、かなりきついんだけどね。


「お忙しいアカネさんに申し訳ないんですが、整備終了後に長期移動ミッションに行くかもしれないんです。同行をお願いできますか?」


 僕は、アカネさんにお願いをしてみた。

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