第二部 僕は世界を救いたい。
第1話(累計 第47話) 今日も僕はリリと一緒。
「リリ。まだ誰も死んでいないよね。あ、よいしょ!」
「だいじょーぶだよ、トシおにーちゃん。ちゃんと手加減できてるの。キャラバンの人も無事だよ。エヴァおねーちゃん、周囲の確認お願い!」
「もー! わたしに、ややこしい事を全部押し付けるのは止めてよねぇ。ヴィロー、キャラバンを襲ってる奴らにスタン系の遠距離砲撃の準備おねがい!」
【はい、エヴァ姫様。四体、ロックオン! 雷撃光弾、発射どうぞ!】
今、僕らは街の間の貿易を担う隊商キャラバンを襲ってきた野盗ギガスと戦闘中。
街と街の間、街道のど真ん中で砂の中から突然ギガスが現れた。
警備依頼を受けてラウドへ向かう商隊と行動を共にしていた僕らは、野盗を撃退すべくヴィローを起動。
現在は誰も殺さない様に手加減しつつ、敵を無力化中だ。
「どうして、ギガス使った野盗なんているんだろねぇ。ギガスを使えたら、一杯仕事もあるのに? 奪い合って何が良いんだか」
「そんな事は、全員ノシてから直接聞いたら良いじゃない、トシ? じゃなきゃ、どうしてワザワザ殺さずに倒しているのかしら? 殺した方が早いのに、面倒でしょうがないの」
「エヴァおねーちゃん。トシおにーちゃんは優しいから、皆助けたいの! 良いじゃない。ねー」
……いやー。優しいとかじゃなくて、ただ僕が殺したくないだけなんだけどね。それに、この程度のギガスならヴィローで楽勝だもの。
襲ってきたのは巨大な騎士の姿をしたギガスC級が一体、頭部を持たない歪な人型をしたD級が三体。
更に対人仕様のE型が四体、他にも銃を撃っている歩兵もいる。
野盗としては、かなり重武装。
しかし、神話級ギガスであるヴィローの前では敵にもならない。
初手、間合いに踏み込んでC級の首を一撃で刈り取り。
続いて、動きが止まったD級の手足を全部切り飛ばす。
銃撃をしていたE級には球電を叩きつけ、周囲の歩兵含めて全部スタンさせた。
……この間の改修で更にパワーアップしたからねぇ。この程度なら、単騎で殲滅できちゃうよ。
「ふぅぅ、これでおしまい! ヴィロー、周囲警戒を。リリ、皆に広域治癒を。あ、捕まえるから野盗さん達の麻痺はそのままでね。エヴァさん、お疲れ様でした」
僕はヘルメットを脱ぎ、大きく息を付く。
ヴィローがいくら優秀であろうとも、AI単独では他害行為は許可されない。
そこで、トリガーを引き戦う意思を示すのは僕。
殺さず、しかし許さずを行うのは大変な話だ。
【周囲確認。四時の方向、二千。大型マナ反応あり。望遠映像より、敵部隊の輸送トラックと推定。どうしましましょうか】
「今からソッチに行って、降伏勧告しようか。さあ、飛ぶよ、皆!」
「うん、おにーちゃん」
「全く、二人とも皆お人好しなんだから。しょうがないわねぇ」
僕はヴィローを飛翔、敵残留部隊の元へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ごめんなさい! 俺達、もうどうしようもなくて……」
「今度から犯罪を犯す前に、みんなで相談し安直な方向に走らないで下さい。傷つけあっても良い事無いですからね」
僕らは野盗を全て撃退。
彼らを全員捕縛して、説経と聴取をしている。
何故、このような犯罪行為に手を汚したかを。
「ギガスがあったら荷物運びなり、キャラバンの護衛とか仕事沢山ありますよね。貴方がたは、どうして野盗なんかに身を落としたんですか?」
「俺達は警備部隊ごと、カレリアから逃げてきたんだ。アソコは地獄だ! 全て領主、いや委員長の支配下なんだ」
C級ギガスに乗っていた野盗の指揮官が言うに、彼らは共和国内の街、カレリアから逃げ出したそうだ。
カレリア、そこは比較的初期に共和国に加入した街。
貴族連合と共和国の中間地点にあるが、大型のプラントを所有し、これまでは多くの住民を維持できていた。
「カレリアですか? 噂では、領主を追い出した後は全ての人々が平等に暮らしているって聞きますが?」
「それはな、最低レベルでの平等なのさ。今、カレリアを支配しているのは、労働者の代表を名乗る奴ら。彼らは革命とやらを起こして元領主達を殺し、今では奴らが支配者。自分達で富を独占、逆らうものたちに酷い事をしているんだ」
最初は、貴族を排除した革命家らの事を歓迎していた住民。
しかし、革命家は貴族の味方をしていたと街の運営をしていた知識層や技術者達まで全部殺してしまったので、街はグダグダ。
プラントの稼働すら怪しくなってしまったと野盗たちは語る。
「それで、自分達は街を捨てて逃げ出したと」
「ああ。警備部隊であっても粛清されたヤツらも多い。そうなる前に、俺達は家族だけ連れて逃げ出したんだ」
彼らは、家族を連れてカレリアから逃げ出してきた。
その行為を、僕は完全否定できない。
家族を守る為に、彼らは一生懸命だった訳だから。
「それで、トラックや向こうの集落には幼い子達がいっぱいだっのですね」
輸送トラックを制圧後、彼らの拠点も抑えに行くと、そこには女子供しかいなかった。
輸送トラックですら、僕と同年代の子達が運転していた。
「それでも、貴方がたが襲った人達にも家族がいます。貴方は子供の親を殺し奪った手で、自らの子を抱けますか?」
「う、うわぁぁあぁ!」
泣き叫ぶ野盗指揮官。
同じく捕縛されている野盗たちも、悔しそうに涙をこぼしていた。
「はぁ。僕、どうしたらいいんだろう? 彼らを放置するわけにもいかないし、かといってカレリアや共和国に突き出すと……」
僕は、野盗たちの扱いに困る。
このまま実行犯たちをカレリアや共和国に突き出せば、彼らは間違いなく重罪に問われる。
死罪とかもあり得るだろう。
そして残された家族は、飢えて死ぬしかない。
「おにーちゃん。こういう時はアルおじちゃんに相談しない? ちょうど、今からラウドに行くし。共和国に突き出したら、この人達ひどい目にあうよ。それは、リリ。嫌だなぁ」
「まったくお人好しにも程がありますわよ。強盗犯は縛り首が決まり。なのに、同情して……。まあ、こんな馬鹿だから、わたしも着いて行くんだけど」
僕は、優しくない世界に涙をこぼした。
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