第40話 ブラフマンの悪あがき。そして……。

「フハハハハハ! 自ら数千度の火球に飛び込みおったわい。偉そうなことをいっても所詮はタダのガキ。焦って損をしたわい。しかし、人形共はろくに役に立たん! 目的成就後は廃棄を考えねば……」


 神話級ギガス、イシュヴァーラを駆る秘密結社の盟主ブラフマン。

 彼は、自分とイシュヴァーラを追い詰めたヴィローを撃破した事に安堵した。


「お、おにーちゃーん!」


「やっぱり、あの人でもマスターには勝てないのよ……」


 全周天モニター全部に、激しい閃光と激しい火炎が今も映る。

 その様子を見てしまった白銀の少女リリは嘆き悲しみ、琥珀色の娘エヴァは表情を曇らせた。


 自ら、放たれたプラズマ火球に飛び込んだ白銀のギガス。

 それは、残念にもブラフマンに迫る事も無く業火に飲み込まれた。


人形リリよ、観念せよ。オマエが頼る騎士とやらは自らの愚かさによって勝手に滅んだのだ!」


「そ、そんな事ないもん! 絶対、おにーちゃんとヴィローは勝つんだもん!」


 しかし、リリはなおも自らが愛する少年と彼の愛機の勝利を疑わない。


「何を言う、人形がぁ! アヤツがオマエの面前で燃え尽きたのを今、はっきりと見たであろう?」


 尚もトシの勝利を疑わないリリに怒ったブラフマンは、全面モニターから視線を外す。

 そしてリリやエヴァが座る後部操縦席に振り返った。


「ううん。リリ、おにーちゃんのマナを感じるの! そう、やっぱり」


 リリの言葉と視線に気が付いたブラフマン。

 振り返ったが、既に正面画面いっぱいに白銀のギガスが迫っていた。


「ナニぃぃ!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「秘奥義、疾風怒濤!!」


 渦巻き状に発生させた魔力フィールドを纏っての突撃技。

 僕とヴィローは目くらましを兼ね、イシュヴァーラが放った火球に自分から突撃をした。


「ぐぅぅ。耐えろ、ヴィロー!」


【御意! ここで勝てねば、リリ姫に二度と会えません! それは、私。絶対に嫌です。うぉぉぉぉ!】


 一人と一騎、二つの咆哮が重なり、力となる。

周囲では激しい火炎が渦巻いているが、そこを突き進むヴィロー。

 突き抜けた先には、棒立ち状態のイシュヴァーラが居た。


「突っ込め―!」

【おぉぉ!】


 邪魔をする浮遊装甲は、すべて魔力フィールドで弾け飛ばす。

 ガツンという衝撃が前に突き出していた刀ごしにコクピットにも響く。

 ヴィローの一撃は、イシュヴァーラの左胸部に突き刺さる。

 そして左主腕部を肩ごと、副腕一本を纏めて吹き飛ばした。


「あ、イシュヴァーラが墜落する!」


【このまま地面に激突すれば、リリ姫も無事にはすみません。急ぎ回収を】


 イシュヴァーラに激突した勢いで弾かれた僕らは、空中で体勢を立て直す。

 そして姿勢を崩して頭から地面へ落ちていくイシュヴァーラに向かった。


「ん、体勢を立て直した。気絶までは追い込めなかったか」


【ですが、このまま着地する様子。確実に機能をかなり失わせました】


 落下途中で頭を上にしたイシュヴァーラ。

 ふわりと地面に降りたった。


「オマエら、オマエら。許さん! この玉体を二度にもわたり傷つけたなぁ!」

【グヲォォォ ユルサン、ユルサンゾー!】


 怒り狂うブラフマンとイシュヴァーラ。

 しかし、欠損部から血のようなオイルが吹き出し、身体中から火花と蒸気を吹き出す。

 マスクの下から蒼い目が怨霊のように輝く。


「降伏勧告だ。もうお前らに勝ち目は無い。大人しく降伏をしてリリを解放すれば命だけは助けてやろう。どうする、ブラフマン!」


「……」


 僕は剣先をイシュヴァーラに向け、降伏勧告をする。

 これ以上の戦闘は、リリを巻き込む可能性も出てくる。

 それに殺しは基本やりたくはない。


 ……コイツが諸悪の根源だとしても、罪は生かしたまま償わせないといけないよな。


 僕が両親を失い、妹と生き別れになったのは貴族連合の貴族が原因。

 そして今の政治体制、貴族連合を作り上げたのは秘密結社「ラハーシャ」。

 目前で怨嗟の声を上げるブラフマンこそ、その首魁であり倒すべき相手。


「どうだ? 今なら共和国にも丁重に扱ってもらえるよう話を付けてやろう。それでも嫌だというのなら……」


「黙れ……」


「なんだ。まだ不満というのなら……」


「黙れ、小僧!! ワレが! 高貴で貴種なワレが、どうしてガキに負けて降伏なぞせねばならぬ!」


 しかし、ブラフマンは敗北を認めなかった。


「だったら、今から無力化しよう。後悔する……」


「後悔するのはオマエだ、ガキ! 人形が、リリがどうなっても良いのかぁ!」


 モニターに、突然イシュヴァーラのコクピット内が映し出される。

 前側操縦席に座っているブラフマンは、後ろに拳銃を向けている。

 そして、その銃口の先には白銀の少女。

 そう、僕が愛してやまない少女がいた。


「リリ!」

「おにーちゃん!」


「この人形の命が惜しければ、動くな。一歩でも動くと人形を殺すぞ!」


 リリの横には青ざめた表情のエヴァさんが居る。

 彼女も、この状況はかなりのショックなのだろう。


「くそぉ、汚いぞ。ブラフマン! この期に及んで人質を使うなんて」


「汚くて結構! 高貴なワレが行えば、どの様な行為も尊いのだ!」


 ……やはり、こう来たか。皆と相談した通りになったよ。


「ヴィロー……」

【はい、座標を再度微調整します】


 僕は打合せしたようにヴィローに命令を出す。


「……分かった。もう、動かない。お前は逃げるのか?」


「に、逃げるはずなど無かろうぞ! ワレにここまでの恥辱を与えたオマエを生かしては返さぬ。もう知識なぞ、どうでも良い! 後から死体やギガス制御中枢からデータを抜けば良いだけの事よ」


 想像通り、僕を殺しに来るブラフマン。

 イシュヴァーラの無事な右腕に三叉槍を召喚し、それをヴィローに向けた。


「動くなよ。動けば人形を殺す。まず、両腕の剣を捨てろ。そして腕を下に降ろせ。副腕も収納しろ!」


「卑怯者め! ……分かった。最後にリリと話させてくれないか」


 刀を地面に落とし、ヴィローの両腕をぶらりとさせた僕。

 観念したような演技をして、リリへの最後の会話を要望した。


「ふん! まあ良い。妙な事をするなよ? 動きを見せたら人形を殺す」


「好意に感謝する、ブラフマン。リリ、ごめんね。結局、君を迎えに行けなかったよ」


「ううん! おにーちゃんは、ちゃんとリリを迎えに来てくれたの! 大好きだよ、おにーちゃん」


 涙に濡れた精一杯の笑顔を僕に見せてくれるリリ。

 その表情を見て、僕は覚悟を決めた。


「ありがとう、リリ。僕もずっと。これからも大好きだよ!」

「……うん、おにーちゃん」


 頬に涙が流れるのを感じながら、僕は勝負に出る。

 リリも、その事に気が付いてくれたようだ。


「さあ、もう死ね。絶対死ね! 完全に死ねぇ!」

【シネェェ!】


 ブラフマン、そしてイシュヴァーラは共鳴しながら殺気を膨らませる。

 そして槍を前に突き出して、コクピットの中の僕を刺し殺そうとした。


 ……今だ!

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