第38話 激突! イシュヴァーラへの再戦(リベンジ)。

「もうやめてよぉ。ブラフマン、どうして貴方は人を殺すの!?」


「愚かな者達は生きている価値なぞ無い。ワレの崇高な野望を邪魔するものは余計に生かしておけぬ!」


 わたしリリの目前では、今日も虐殺が行われている。

 ブラフマンに捕らえられ、貴族連合の首都にある屋敷に「籠の鳥」だったわたし。

 数日前に神話級ギガス「イシュヴァーラ」に無理やり乗せられて、戦場に飛んで来た。


 ……魔法封じの腕輪を付けられたままだから、反抗するのも難しいの。


 空中から見る戦場、そこには共和国軍らしいギガスや戦車が一緒の部隊がいる。

 彼らから、イシュヴァーラへ魔法攻撃や大砲が撃たれるけれど、全てイシュヴァーラの防御魔法やマントの形をしたシールドに弾かれる。


「マスター。敵は未だ反抗してきます。どうなさりますか?」


 わたしの隣、ブラフマンが操縦する席よりは高い位置にある副操縦席に座るエヴァおねーちゃん。

 綺麗な顔なのに険しい表情で、とても怖い感じがする。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ねえ、リリ。貴方は、自分のマスターと一緒に居て幸せなの?」


 戦場に来る前、二人っきりの部屋。

 エヴァおねーちゃんは、こんな事をわたしに聞いてきた。


「トシおにーちゃんは、おにーちゃんだよ? もちろん、幸せに決まってるの!」


 エヴァおねーちゃん、二人でわたしと会うたびに苦しい表情をしている。

 ブラフマンは、エヴァおねーちゃんを「ヒト」として見ずに「道具」として扱う。

 おにーちゃんとわたしの関係とは大違いだ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ラウドへの前哨戦として、全て焼き払おうぞ」


「もうやめて、ブラフマン! ねえ、わたし。貴方の言う事を全部聞くから誰も殺さないで」


 もうこれ以上、人が死ぬのを見たくない。

 だから、わたしは自分の身を売ることにした。


「もう遅い! ワレに剣を向けた段階で生かしておけぬわ!」


 しかしブラフマンは、わたしの制止を聞かずに共和国軍を全て焼き払った。


「わぁぁ……。どうして、こんな事をするのぉ! 貴方は人でなしよぉ」


「リリ! 貴方、なんていう事を言うの? マスターは立派な方なのよ?」


「人形ふぜいが、ワレを『人でなし』というか? ワレは由緒正しき血統。星の海を渡って来た高貴な指導者の家系の生まれぞ。他の人とは違うのだ!」


 わたしが泣き叫び非難をするも、話を聞くつもりの無いブラフマン。

 人を人とも思わず、全てを見下す。

 自分に逆らうものを全て殺す。


 そして今。

 ラウドの街を襲うべく、戦場を舞う。


「どうしてぇ。何故、貴方は人殺しをして喜んでいるのぉ!」


「ワレに逆らうモノは、全て亡ぼすのだ! 全ては高貴なる支配者たるワレにひれ伏すのだぁ」


 足元では、「ゲート」から湧きだした黒いギガスがラウド騎士団と戦っている。

 伯爵、アルおじちゃんの機体は突撃してギガスの腹を槍で貫き破壊している。

 でも、前に飛び出しすぎてて孤立したから、どんどん黒いギガスに囲まれていく。

 騎士団の他のギガスも、黒いギガスの「波」に押し込まれ、おじちゃんのところまでいけそうにない。


「あ! アルおじちゃん、危ないの」


「ほう……。ファルマンも、これで終わりか。アヤツが死ねば、総崩れとなろう。チェックメイト……」


 アルおじちゃんが、今にも黒いギガスに襲われそうになった時。

 何処からか、蒼い魔力弾が何発も飛んできてアルおじちゃんの回りの敵が全部弾け飛んだ。


「なぬぅ? エヴァ、周辺監視はどうなっていた?」


「もうしわけありません、マスター。三時の方向の空中、約1500。強大な魔力反応が突如出現しました!」


 わたしには、誰がアルおじちゃんを助けたのか。

 すぐに分かった。


 ……瑠璃色のプラズマ光弾。わたし、見覚えあるもん。ぜーったい、ヴィ―ローに決まっているの! おにーちゃん、ヴィローを治してくれたんだね。


「エヴァ、オマエもつくづく使えぬ道具よ。あやつは、一体何物だ!」


「そんなの、決まっているの! トシおにーちゃん。わたし、ここに居るよー!」


 わたしは、聞こえていなくても構わないと大声で、おにーちゃんに呼びかけた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


【マスター! 先程、リリ姫の反応がありました】

「ああ、ヴィロー。僕にもはっきり分かったよ」


 空中を舞う敵神話級ギガス、イシュヴァーラ。

 そこから、はっきりとリリの魔力を僕は感じた。


 ……魔力量からして、エヴァさんとリリを後ろ側の座席に座らせて増幅させているんだろ。だったら、「あの手」を考慮しなきゃ。


 戦場を疾走するヴィロー。

 赤い剣閃がきらめく度に、黒いゾンビギガスが両断されていく。

 ギガスが湧く「門」を破壊したので、これ以上敵の増援はあり得ない。


 ……性格的にワイズマンは、自分以外の手勢を信用しないからね。だから、自分の意にしか従わないゾンビ兵を多用するんだろう。


「ブラフマン。いつまで空の上で眺めているつもりかい? このままじゃ、全部僕とヴィローで駆りつくしちゃうぞ?」


 僕は黒いギガスを屠りながらブラフマンに声をかけ、挑発してみる。

 今のところは無視状態だろうが、いきなり攻撃されるよりは意図して攻撃される方が避けるにしても避けやすい。


「……。気に食わぬ。どうして、高貴なるワレが下賤なオマエラと同じ地平に降りねばならぬのだ!?」


「高貴、高貴っていうけど、所詮アンタは宙船の船長らの末裔だろ? すこしばかり遺伝子とやらを上品に弄られたくらいで高貴な存在とは笑わせるよ」


【イシュヴァーラにしても、危険思考から船団護衛の任から解かれたそうですし。主従共にポンコツですよねぇ】


 ……宙船のマザーさんに色々と教えてもらったんだよねぇ、僕。ヴィローもかなり攻めた発言するんだ。


 宇宙とやらは地上よりも過酷な環境。

 装甲板でも完全には宇宙放射線とやらを防げない。

 また、今のオデッセアのような過酷な環境でも生き延びられるよう、ヒトは自らを改造したそうだ。


 遺伝子工学とやらを使い、放射線耐性。

 精神物理学を用いて、魔法という技術を使えるように調整されたヒト。

 それが僕らの先祖。


【グヲォォォ! ユルセヌ、ユルセヌゾォ! 最強の『カミ』たるワレにたかが修羅ごときが侮蔑を言うかぁ! ナブリゴロシにしてやる】


「オマエ。どこまでワレの起源を知っている!? 何処にかのような英知があるのだ!? 教えろ、知識の出場所を!」


 すっかり怒りに飲まれるイシュヴァーラとブラフマン。

 まずは僕らの一勝だ。


「教えて欲しければ地上に降りておいで。そこにリリがいるんだろ? リリを返してくれたら考えないでもないよ」


「ぐぬぬぬ! オマエは人質が居るのを忘れたか!? リリは、人形はオマエなぞに渡しはせぬ。簡単には殺さぬぞ。命乞いさせて、全てを話してもらう。イシュ―、コクピットは外して攻撃だ」

【イエス、マスター】


 舌戦の間に粗方の敵ギガスを狩り終えた僕ら。

 残敵だけなら伯爵様たちだけでも問題はないだろう。


「じゃあ、新しくなったヴィロー。いや、マハー・ヴィローチャナがお前たちを倒す!」


 ヴィローの補助腕を全展開。

 背中に虹色な背光ハロー、いや日輪を背負う武者。

 新たなる姿、マハー・ヴァイローチャナが全貌を見せた。

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