第37話 再戦! 今度は負けない。

「なんとかして、アヤツをここで食い止めよ。ラウドまで絶対通すんじゃないぞ! 騎士団、励むのだ」


「伯爵殿。序盤の砲撃戦は、共和国軍に任せて頂きたい。伯爵殿の騎士団は、我らが敵の防御を削った後に勝負です」


 ラウド郊外の砂漠。

 そこでは一VS百、いや千近くの戦いが行われていた。

 数の優位は圧倒的にライド防衛の共和国・ラウド混成部隊にある。


 しかし、たった一体。

 神話級ギガス一体により、全ての攻撃は無効化される。

 多くの銃口から放たれた銃弾の雨は全て逸れる。

 砲弾や爆風から飛び交う破片も「そよ風」とも思われる様に気にしない。

 そして黒い魔神は、一歩ずつ前に進む。

 魔力攻撃も機体の直前で霧散していた。


 更に無理やり接近戦を挑んだギガスも、腕の一振りでバラバラにされた。


「たかが、この程度か? やはり、ワレが直接戦う価値のない相手よのぉ」


 爆音が響き渡る戦場の中。

 朝日に照らされた一体の漆黒のギガス「イシュヴァーラ」から、戦場には似つかわしくない言葉が周囲に広がる。


「マルチノ大佐! 我らの砲撃が一向に通用しません。榴弾、徹甲弾。そして魔力弾をいくら撃ち込もうと一向に効いた感触が無いんです」


「くそぉ。せめてやられた救援部隊の敵討ちをしたかったのに、これでは時間稼ぎにもならん!」


「マルチノ殿。これ以上は共和国軍が持たぬ。我らが騎士団を投入する時じゃ。ワシも出る。なぁに、今度はアヤツの首を取ってくれようぞ」


 郊外の野戦指揮所で戦況を見ていた指揮官二人。

 状況があまりに不利ではあるが、撤退は許されない背水の陣。

 背後の街ラウドでは遺跡につながる地下施設への避難を開始しているが、敵は皆殺しを宣言。

 このままでは、滅びは時間の問題と思われた。


「つまらん。雑魚相手にワレの手を汚す必要もなかろう。オマエらの相手はゾンビ兵で十分。数の暴力に押しつぶされるがいいわい」


 ブラフマンが残念そうに呟いた後、彼の駆るイシュヴァーラの前に巨大な黒い「平面」の門が現れる。

 そして「ゲート」から、虫が溢れだす様に多くの黒いギガスが戦場へ雪崩込んできた。


「ゾンビと化したギガス、いくらでも湧いてくるぞ。ふはは、絶望に押しつぶされるが良い!」


 高笑いをしたブラフウマン。

 イシュヴァーラを操り、空高く舞い上がっていった。


「伯爵殿! これは!?」


「おそらく前回も襲ってきたであろう死人を使うギガスであろう。後は任せておけ。騎士団、前方へ音速突撃! 一匹たりとも後ろへ敵を通すな!」


「おー!」


 ラウド騎士団のギガスは、黒い津波の様なギガスの群れに突撃を敢行。

 共和国軍も支援砲撃を行うも、数の暴力の前に絶望的な雰囲気が戦場に広がっていった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ま、まだかよ、トシ。急がねぇとオヤジやラウドの街が……」


「レオンさん。も、もう少しの辛抱です。アカネさん、ヴィローの出力が安定しないんですが?」


「しょうがないだろ、トシ坊。移動しながらの調整は想定してたけど、まさか飛びながらツイン魔力炉の調整するなんて思わなかったんだよぉ」


【残り二分でラウド上空に到着。望遠映像にて戦場での爆炎を確認しました】


 ラウドへの敵接近を聞いた僕ら。

 機体調整途中ながら遺跡、宙船からカタパルトにて強制射出。

 今、一路ラウドへ向けて改造を終えパワーアップしたヴィローは、合体した「翼」を羽ばたかせ空高く飛行中だ。

 ヴィローの言う様に、拡大されたサブモニターには爆炎が見えた。


【十二時の方向、敵影を確認しました。戦場に多数のC級ギガス、いえ! この反応は先日ラウドを集団で襲ってきたミイラが操るギガスです。更に後方上空にイシュヴァーラを確認。装備は先日の戦闘時と同様。ですが、先日よりも更に魔力出力が大きいです!】


「外見や魔力炉のスペックは見た感じ同じだよね。じゃあ、もしかしてリリちゃんが乗っているの?」


「パワーアップに人質も兼ねて、その可能性は否定できないですね、アカネさん。とりあえず、雑魚敵を一掃しましょう。マルチロックオン制御を頼む、ヴィロー」

【御意、マスター】


「あ、オヤジが囲まれてる! トシ、ヴィロー。オヤジを助けてくれ!!」


 空中から伯爵機周辺の敵を一掃すべく、僕はモニター内に映る輪郭補正された敵を見える限りロックオンした。


「いくぞ! 魔力弾、乱れ撃ち三十六連打!」


 空中で姿勢を制御しつつ、展開した副腕からプラズマ光弾を打ち出す。

 放たれた光弾は、伯爵様ら騎士団に襲い掛かっていた敵ギガスに次々と突き刺さった。


「よし、ここから『パトラム』より分離して着地、地上戦に移行します。アカネさん、レオンさん、後は『パトラム』から空中支援をお願い致しますね。くれぐれもイシュヴァーラには近づき過ぎないように」


「あいよ! トシ坊も無理はするんじゃねぇよ」

「ああ! このーちゃんの事は任せておけや」


 僕は、背部に繋がった「羽」型機体をヴィローから切り離す。

 パトラム、それは「支援飛行戦闘機」とヴィローが呼んでいた遺物兵器。

 ギガスとはまた違うけれど、操縦方式は基本同じ思考制御。

 パトラムは合体したギガスに長距離飛行能力を加え、それ自身も空中からの攻撃支援が出来るものらしい。


 パトラムから離れたヴィロー、スラスターを吹かして姿勢制御。


「ヴィロー! このまま敵の発生源を叩く。腹部分解光線砲ディスインテグレーターを起動。目標、敵ギガス発生ゲート。射線制御を頼む」

【御意。この方角からなら味方に当たりません。トリガータイミングはマスターにお任せします】


 各部スラスターから加熱された空気が吹き出し、敵ギガス軍団発生源に向けてヴィローが動く。


【どうぞ、マスター】

「当たれー!」


 ヴィロー腹部から何物をも分解する光線が発射、何機もの敵ギガスを撃ち抜いて最後には空間に浮かぶ鏡上のゲートを一撃で破壊した。


「ヴィロー。魔力残量マナプールは問題無いか?」

【並列可動魔力炉が絶好調なので、一切問題無しです】


 着地体勢に入るヴィロー。

 全天モニターでは、地上にあふれる敵ギガスが獲物に群がる蟻のように見えた。


「ヴィロー、着地直後からホバー移動! 雑魚を一気に殲滅する。今度は負けないぞ!」

【御意】


 大型化し強化されたスラスターから、加熱空気を激しく吹き出して減速していくヴィロー。


「必殺、横一線!」


 着地と同時に、腰から両前腕部に移設された刀を二本引き抜いたヴィロー。

 一瞬で目の前の敵ギガスを両断した。

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