第29話 過去回想。リリやヴィローとの出会い:その1。

「あれは僕が傭兵団の崩壊から脱出し、敵討ちをしていた時期。今から一年半くらい前です」


 僕は伯爵様の私室で、リリやヴィローとの出会いを話し出した。

 伯爵様の息子さん、レオンさん。

 そしてアカネさんにも話を聞いてもらっている。


「傭兵団を追い込んだ奴は、僕の両親の仇。シャルル・リオンヌ子爵でした」


「ああ、アイツか。一年半程前といえば貴族連合内で内紛が起きて、アヤツは結社側の支援を受けて戦っておった。だが、その後に事故死したときいておったが、もしや?」


「はい。彼が前線へ視察に来ていたタイミングを狙い奇襲。僕が殺しました」


 まだ復讐に燃え盛っていた頃の僕。

 シャルルの動向を調査、彼が最前線に慰問に行くタイミングで奇襲。

 孤立した彼の首を取った。


 ……妹の行方どころか、自分が殺した傭兵団の事すらも碌に知らなかったから、怒りのあまり簡単に殺してしまったんだ。


「……そうか。重ね重ね、ワシらはトシ殿に不幸を何重にも与えておったのだな。謝っても許してはもらえぬな」


「いえいえ。伯爵様は他の方々とは違います。なので、僕は貴方様を助けたいと思ったのです。それに、まだリリと出会う前の僕は、今思えば『返り血で錆びたナイフ』。尖って誰にでも刃を向ける存在でした」


 ……ホント、今なら殺さずにいたぶってから共和国の牢獄送りにしていたんだろうけど。あの頃の僕の『正義』も歪んでいて、復讐で頭が一杯だったろうし。


 政治犯を個人の怒りで裁くのは間違い。

 法治国家らしく、国が彼らを裁かなくてはならない。


 ……師匠に法律の事も教えてもらったんだったよね。師匠の敵討ちですっかり忘れていたよ。


「そして、敵討ちに成功した僕ですが子爵の私兵らに見つかって逃亡。最後に山深い場所にある死の峡谷に追い詰められました」


「さっき、ヴィローの旦那が話していた『王家の谷』だったっけ? そこが追い詰めらえた場所なのかい、トシ坊?」


「はい。そうです」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ち、ちきしょぉぉ。僕もここまでかぁ! 師匠、仇は取ったよ。ナオミ、ごめん」


 僕の操るD級ギガスは子爵軍に追い詰められ、崖の上から深い谷に落ちた。

 ギガスは大破したものの、僕を守りきってくれたので大きな怪我はしていない。


「『アウレリア』、今までありがとう。お前のおかげで仇を討てたんだ」


 制御仮面も大破し、コクピットは真っ暗のまま。

 もうピクリとも動かないギガス。

 谷底に落ちた今、僕がここから脱出する方法は、ほぼない。

 コクピットハッチも落下時のダメージで歪み、開くことも出来ない。


「このまま、僕ここで朽ちようかなぁ。苦しんで死ぬのは嫌だけど」


 既に師匠や両親の敵討ちを終え、もはや妹に再会をすることも諦めていた僕は、生きる事すらも諦めようとしていた。


【そこに誰かいますか?】


 そんな時、僕に今まで聞いたことも無い、男とも女とも分からない声が聞こえた。


「? ここに人がいるの? 空耳かな? 深い谷底に人がいる筈なんて……」


【やはり、人がいるんですね。今から助け出します】


 もう一回声がした後、壊れて開かなかったはずのコクピットがこじ開けられ、僕は引っ張り出された。


「ここは一体?」


【ここは、かつて宇宙そらを飛んでいた船の中。今は、地中に埋没し、誰からも忘れられた遺跡です】


 僕は見たこともいない素材で出来た廊下らしき場所を、僕を助けてくれたギガスもどき、身長一メートル程度の機械人形に案内されて前に進んでいる。


 ……地面の中っていうけど、とても明るいや。窓はないけど天井が全部光ってる?


【貴方は数百年ぶりに、ここを訪れた人類です。少し調べさせてもらいましたが、DNAタグからして私の所属していた超長距離移民船団の末裔なのでしょう。あの大災害から生き残った人達がいたんですね】


「はい? えっと、何を話していらっしゃるのか。僕には理解できないんですが?」


【今は理解なさらなくてもいいです。私は話し相手、そして『娘』を託せる様な人を求めていたから、船内に落ち込んできた貴方を助けたのです】


 僕は話しをするギガスもどきを不思議には思うも、何故か全く怖くなかった。


【しかし、案外と落ち着いてなさっていらっしゃるのですね。見せて頂ましたが、貴方が操縦していたギガスは残念ながら我々が使用していたモノのデットコピー。服装などからも、失礼ながら貴方がたは文明レベルがあまり進歩していない様に見えます。なのに、私を見ても驚かれないので?】


「いえ。存分に驚いてはいます。ただ、命の恩人でもありますし、僕自身、両親から話す事が出来るギガスの伝説を聞いたことがあります。貴方も、そういう存在なのでしょう?」


 既に自分の命は無いものと思い込んでいた僕。

 命が助かったばかりか、未知の技術に囲まれて興奮が止まない。


【はい、そうです。でしたら、貴方には我が娘を預ける資格があるのかもしれません。是非、あの子に会ってやってください】


 そして、僕は触らなくても開く自動ドアの向こうに案内された。


「え!? どうして女の子が閉じ込められているんだ!? 貴方は一体、アノコに何をしたんだ!? 話次第じゃ許さない!」


 ドアの向こう。

 窓がないも広く明るい部屋の真ん中。

 そこには、直径一メートルほどの玻璃ガラス製に見える透明な円柱がある。

 その中は自ら輝く液体らしいもので満たされている。

 そして、身体の一部を覆う薄衣のみを纏う少女、いや超絶美少女が眼を閉じ、眠る様に立ったまま液体の中を漂っていた。

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