第28話 負けたままじゃ、いられない!
「レオンさん。僕、もう一人で歩けますから……」
「いや、オヤジの命の恩人だし、俺もトシ殿に儲けさせてもらったからな」
一日以上、伯爵様の屋敷でダウンしていた僕。
起きた今は、何故か賭博商の責任者レオンさんに肩を貸してもらい、騎士団詰所のギガス
……まさかレオンさんが伯爵様の息子だったのはびっくり。でも、伯爵様が言ってた話と辻褄は合うか。
レオンさん、僕よりも四つほど歳上の大柄なお兄ちゃん。
スラム街の少年、ハリー君に怒ってた時は怖かったけど、その後は気の良い兄ちゃん。
武闘会で僕に賭けて、大儲けもしたらしい。
「あ! ヴィロー……」
「酷ぇ。トシ殿、良く生きてたな」
【マスター。リリ姫を守れず申し訳ありませんです】
僕は外部から初めてヴィローの損傷具合を見て、言葉が出なかった。
ハンガーに転がっていたヴィロー。
四肢、副腕など各部が欠損しており、頭部も制御仮面防護用の装甲が砕け、中から赤い眼が見えている。
他のギガスは、沢山の作業員が取りつき治しているが、ヴィローには誰も近づかず壊れたままの状態だ。
……各部から血の様に油が垂れちゃってる。確かにこの様子を見ちゃったら、僕良く死ななかったって言われちゃうよね。
「いや、ヴィロー。キミはよく戦ったし、僕やリリは大きな怪我も無しでキミに守ってもらえた。それだけで十分だよ。僕に力が無かっただけさ……」
「まだ寝てなくて良いのかい、トシ坊」
僕がヴィローの前で立ちすくんでいると、アカネさんが声をかけてくれた。
「アカネさん、すいません。僕、リリを守るつもりがリリに守られて……。ヴィローもこんなにしちゃって」
「しょうがないさ。アタイでも、ヴィロー以上の神話機体が敵になるのは想定外だったからね。先に謝っておくけど、ヴィローはアタシじゃ治せない。応急処置ならいざ知らず、ここまで壊れたら手の打ちようがないんだ」
【全ては弱い私が悪いのです。リリ姫の犠牲が無くては、どうにもならなかったのです】
僕、アカネさん、ヴィローはお互いが悪かったと謝り合う。
リリがあの時、自ら敵に身を差し出さなければヴィローだけでなく伯爵様の騎士団や共和国軍、ひいてはラウドの人達は死んでいたに違いない。
……リリに皆、助けてもらったんだ。くそぉ、リリを取り返しに行くって言ったけど、ヴィローがこの状態なら手詰まりじゃないか! それに例え治せても、同じままじゃアイツに勝てない……。
「おいおい。トシ殿、そしてアカネ殿にヴィロー殿。こんなところで悔いている暇はないんじゃないか? ワシらには、立ち止まっている暇は無いのだよ」
「オヤジ! オヤジこそ、まだ寝てなきゃダメだろ?」
レオンさんが驚いて振り返ったので、僕もそちらに顔を向けると包帯を色んな場所に巻いている伯爵様がいた。
……いくらリリの治癒魔法で治ったからって、僕以上にひどい怪我していたんじゃないか、伯爵様って。
「わはは! このくらいで寝込んでおったら、末代までの恥! リリちゃんに笑われてしまうわい! ワシは領内全ての人を守らねばならぬ。よってベットで寝ている暇なのないのだ! ワシらは負けたかもしれぬが、まだ生きておる! ぐぅ。だ、大丈夫だ。これしきで……」
豪快に笑い、胸を自ら叩いて苦しむ伯爵様。
やはり無理をして、僕らや配下を励ましに出てきてくれたようだ。
……あれだけの衝撃じゃ、肋骨を折っててもおかしくないからねぇ。
「やっぱり無理してんじゃねぇか、オヤジ。今くらいは配下や俺に任せて、本番まで寝ていなよ」
「そうは言うがなぁ、レオン。現場を見ないと心配になるんだが……。第一、お前がワシの後を継いでくれておったら、ワシが出張る必要も無かったのじゃぞ?」
「う! それを言われたら苦しい。俺は貴族の形式ばった生活が嫌なだけで、オヤジの苦労は理解しているぞ」
……この親子。結構、思いあっているんじゃないか。良いなぁ。
「ぷ! あ、痛い! 伯爵様。僕もそうですが、今は寝ていましょう。早く治して、そこから再復帰です。そうですよね、僕らは負けたけど、生きてます。生きていたら再戦も出来ます。次に勝てば良いんですよね」
伯爵様とレオンさんが親子漫才をしているのを見て、僕はつい笑ってしまう。
そう、生きているから僕らは笑えている。
リリのおかけで、多くの命が助かっている。
そして、リリを救いに行くことも出来る。
「アカネさん、相談があるんです。もしかしたらヴィローを治せるかもしれません。部品や修理できる場所に当てがあるんです」
「え? ここまで壊れたら汎用品の部品じゃ治せないよ? 特に空飛べるくらいのスラスターなんて、何処にもないんだけど」
「ほほう。ワシも興味があるのぉ。ワシの『バーグマー』も完全に治るなら助かるが」
【マスター。もしや、あの場所ですか? 今、あそこは貴族連合の支配区域内。危険です!】
僕が提案をするとアカネさんは驚き、伯爵様は興味を持つ。
そして場所を知っているヴィローは警告を出した。
「ヴィローの旦那。アンタは知っているんだね、坊やが提示したアンタの部品が手に入る場所を」
【はいです。マスター、お話しても良いですよね】
「良いよ、ヴィロー。ただ、リリの事は僕から話すよ」
僕は覚悟を決めた。
リリを取り戻せるなら、どんな博打でも売ってやると。
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