第27話 別れ。
擱座したヴィローのコクピットから出、機体を伝って降りたリリ。
多くの怪我人を救うために、ヴィローの力も借りて広域治癒魔法を唱えた。
僕から見える範囲内でも、倒れていた多くの人々が再び立ち上がっていた。
「人形と思っていたが、凄まじい魔法能力だな。これは道具としてますます欲しくなったぞ。リリ、さあこっちに来い!」
「分かっていますから、少しくらい待ってくださいませ、ブラフマン様。後、約束ですよ。わたしが其方に行きますから、これ以上誰も傷つけないで下さい。約束を破ったら、わたし。只じゃすみません事よ?」
「く、しょうがあるまい。今は見逃してやろう。ファルマン、そしてトシよ。だからリリ、早く来い」
……リリ。君ってやつは、どんだけ慈愛の天使なんだよぉ。いつもアホ娘って言ってゴメン。
「じゃあ、またね。おにーちゃん」
コクピットから顔を出した僕に、最高の笑みを見せてくれたリリ。
『さようなら』では無く、『またね』と言ってくれた。
……ち、ちきしょぉ。ぜ、絶対にリリを取り返す! 今に見てろ、ブラフマンめ」
左足を
周囲の味方に手を振りつつ、イシュヴァーラの掌の乗ったリリ。
掌が上に持ち上げられ、開放されたコクピットの中に乗り込もうとした。
「ブラフマン、リリちゃんを返せ!」
大声の方向を見ると、各所から出血をしている伯爵様が機体から這い出て拳銃らしきものを握ってコクピット内のブラフマンを狙っていた。
「負け犬は黙っておれ! さあ、リリ。早く乗れ。今、ワレに手を出したら全員生かして返さぬ」
「アルおじちゃん。今は辛抱してね。ごめんなさい。リリ、おじちゃんの娘にはなれそうも無いの。でもね、トシお兄ちゃんはおじちゃんを助けてくれると思うわ。だから、おにーちゃんを頼みます」
「ぐぬぬ。リリちゃん……。あい、分かった。だが、さよならは言わぬぞ。またな」
「うん。またね、おじちゃん。それに皆」
コクピットがゆっくりと閉まるまで、リリは手を振ってくれていた。
……イシュヴァーラもヴィローと同じタンデム複座なんだ。後部座席にエヴァさんがいたけど。彼女、何処か悲しげなのはどうして?
完全にコクピットを閉鎖したイシュヴァーラ。
そのまま立ち上がり、背中に
「宝は手に入ったが、ココにはいらぬ知恵を得た邪魔者が多い。皆には冥途に行ってもらうぞ」
「話が違うぞ、ブラフマン。ちきしょぉ! ヴィロー、何か出来ないのかよぉ」
【すいません、マスター。スラスターも手足も無い私には、残念ですが何もできません】
手を上にあげて、再び巨大な火球。
地上に現れた太陽を頭上に掲げるイシュヴァーラ。
戦場に立つ全ての人が、天にある「己の死」を見上げた。
「ブラフマン、話が違うの。イヤ! もう、わたし我慢しないよぉ。コイツ、丈夫でもコクピットの中から分解光線を撃ったら流石に壊れるよね。イシュヴァーラ、覚悟して」
【ヒィィィ! コ、コワレル!!】
「貴方、そんな事をしたら貴方も死ぬのよ! マスター、この子は本気です。殲滅は、また今度にしましょう。今は早く撤退を!」
「そういう訳にもいかぬ、エヴァ。今がチャンスだ。え、ちょ、本気か、人形!?」
「本気に決まってるの! さあ、ここから逃げるのと、わたしと一緒に死ぬの。どっちがいい?」
しかし、一向に死は訪れなかった。
外部スピーカーが入ったまま、コクピット内部でのケンカ様子が聞こえてきた。
「ぷ! リリってば。早速、ワガママ天然アホ娘を暴走させちゃったんだね。ブラフマン、今は逃がしてやるからさっさと逃げろや。いずれリリを迎えに行くから、首洗って待ってな! リリ、元気でね」
僕はリリがいつも通りなのに笑いが起き、ブラフマン相手に
「ぐぬぬぬ。や、やむを得ぬ。次こそは絶対にオマエらを殺す。そちらこそ、首を洗っておけ! エヴァ、転移だ」
「はい」
「おにーちゃん、またね!」
リリの声がした瞬間、イシュヴァーラは何処かに転移し、僕の視界から消えた。
「リリ―! 絶対に迎えに行くぞー! 待っててねー。大好きだ―!!」
僕はリリには聞こえないと思うも、大声で朝日に向かって叫んだ。
自分の中の思いをはっきりさせるために。
◆ ◇ ◆ ◇
「あれ? ここは何処?」
僕は、いつの間にか気絶をしていたらしい。
見知らぬ豪華な天井、いや
首を左右に向けてみると、豪華な寝室で僕は寝ていたようだ。
「ん? この調度品の趣味は、伯爵様? じゃあ、ここは伯爵様の屋敷なんだ」
僕は、一度上げた頭を枕に落とす。
窓から入る光が明るいから、今は昼間だろうか?
「おう、起きたか。坊主。いや、トシ殿」
何処かで聞いた事がある声が、部屋の扉の方角から聞こえてきた。
僕は視線をそちらに向けてみた。
「え!? 貴方は賭博商のお兄さん! どうして貴方が伯爵様の屋敷に居て僕の見舞いに来るんですか!?」
「流石、ヴィローのパイロット。現在状況の把握はバッチリだな。じゃあ、今は何時だかわかるかい?」
「戦闘が終わったのは早朝ですから、その日の昼過ぎですか?」
「残念。今は翌日の昼前さ」
僕は意外な人物との邂逅、そして自分が丸一日以上寝込んでいたことに驚いた。
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