第30話 過去回想。リリやヴィローとの出会い:その2。

「どうして女の子が、こんな処に閉じ込められているんだ!? というか、生きているのか? 貴方は一体、アノコに何をしたんだ!? 話次第じゃ絶対に許さない!」


 液体の中、漂う女の子。

 年恰好、多分十歳から十二歳くらいに見えるくらいの子だ。

 妹ナオミが生きていたら同じくらいになっていたくらいの、華奢でとても綺麗な女の子が容器の中に閉じ込められている。

 女の子の様子を見た僕は妹と女の子が頭の中で被り、激しい怒りを覚える。

 そして、話す機械に食って掛かった。


【ああ! やはり、貴方はとても優しくて良い子なんですね。見知らぬ子のために怒りを覚えてくれるなんて。我が娘、リリン01に対して不信や差別、卑猥の眼ではなく、慈愛で見て下さる。ああ、これは運命の出会いなのかもしれません。私の残り少ない稼働時間で幸運を引き当てられました!】


「何を言っている? 早く、そこから女の子を出せ! いつまでも閉じ込めているのなら、無理やりにでも……」


 僕は目の前の女の子を助けたいと思い、容器を手で叩く。

 しかし、一見薄いガラス製に見えた容器は頑丈かつ妙に柔らかく、僕の手で叩いたくらいではビクともしなかった。


【樹脂ガラスは、人間が叩いたくらいじゃ壊れません。慌てなくても、もうすぐリリン01をそこから出しますよ。ただ、いきなり出しては彼女の生命維持に問題が発生します。彼女は人であってヒトでは無い存在。とても貴重な存在、人類すべての希望であり母なのです】


 僕は、容器の中の眠れる美少女に眼を奪われた。

 蕾、未完成の美しさ。

 そう形容できそうなものを彼女から感じる。


 ……あれ? 耳の形が普通の人と違う。何処かで見た動物みたいな耳の形だ!


 絹糸の様なプラチナブランドの髪の中、絵本で昔見たロバやウマのような耳を彼女は持っている。

 それ以外、見たところヒトの少女と全く変わりない様に思えた。


 ……いや、普通じゃなくて超絶美人だよ、この子。っていうか、女の子の身体をジロジロ見ちゃダメだ。薄衣で体形がモロ分かりなんだもん。


 薄い衣越しに膨らみかけの胸部やその先端、果ては肋骨の形すら見える。

 またむき出しのお腹には、可愛いおへそも見える。

 華奢で痩せ型の体形ではあるが腰の括れも出来つつあり、優美な曲線が腰から脚部にかけて見受けられる。

 すらりと伸びる手足や他に見える肌は、ほくろ一つ見えなく真っ白な新雪のよう。

 僕は彼女の身体から視線を外し、今も夢を見ている様な彼女の可憐な顔を見た。


「絵本の中の妖精みたいだ……」


 ……なんか、顔が熱いや。こんなに可愛い子を見たのは初めてだからかな? 妹は別枠だけど。


【お顔が真っ赤ですよ? すっかりリリン01に惚れてしまいましたね、貴方は。そういえば、お名前を聞いていませんでしたが?】


「本当に、貴方はこの子を害してはいないんですね? 娘って言ってますが、機械の生んだ娘? この子は一体、何者なんですか? あ、僕はトシ、トシミツ・クルスと言います」


【トシ様。では、これからリリン01、いえ、我が娘リリを宜しくお願い致します。ここにいても彼女は眠ったまま、いずれ朽ちてしまう命。この子に広い世界を見せてあげてください! そして出来るならば、何処かに落下している母船のメインフレームにリリを会わせて下さい。それはこの地で暮らす人類の為に必ずなる事でしょう】


 そして、僕はリリと出会った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「え? じゃあ、その宙船そらぶねの中に居た女の子が」


「はい、アカネさん。お察しの通り、彼女がリリです。そこで僕は色んな事を教えてもらい、ヴィローも預かりました」


 その後、僕は知っている事を全部三人に話した。


「トシ殿。いやトシ。お前は随分と凄い人生を送って来たんだな」


「まあ、それなりにはです。ですが、正直まだまだなのを今回の敗北で実感しました、レオンさん。今までヴィローの性能に頼った戦い方ばかりで、自分より強い敵と戦う事を想定していなかったための敗北です。あの時、もっと策があったり、僕の操縦士としての腕が優れていたら負けていなかったかもしれません」


 あの時、船の頭脳に僕はリリを託された。

 このまま機械の墓場で朽ち果てるよりは、生きて世界を見て欲しいという機械の「親心」で。


「そうか。トシ坊はその時、リリちゃんの全部を見て一目惚れしたんだな。このロリコンが! まー、リリちゃんは可愛いからねぇ」


「アカネさん、酷い事を言わないで下さいよ。確かにリリの裸は今でもよく見ていますし、毎晩添い寝して抱きつかれてました。でも、僕はリリの外見よりも内面に惚れたんです。だからリリの貞操、純潔を守ってます」


「確かにリリちゃんは外見もさておき、内面も可憐じゃしのぉ。敵であったはずのワシの事も心配してくれておったし」


「オヤジ、俺も同意見だな。少しだけ話したが、あのお嬢ちゃん。実に可愛いし、人柄も良い。俺が未成年のガキが賭博しようとしていたのを脅していた時も、怖いだろう俺に対して負けん気で可愛い顔で睨んでいたからな」


 アカネさん、伯爵様、レオンさん。

 全員リリの事を褒めはやす。

 こと、リリの内面を褒めてくれるのは、僕も嬉しい。


「リリを宙船で預かりましたが、その時ヴィローも託してもらったんです。そこにはギガスの部品を生み出せるプラントがあり、予備部品も沢山ありました」

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